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第三十六話 闇の魔法使いという存在

 ドヴォルグは焦れてきた。

 計画では砦の隊長が村を襲った混乱に乗じて領館に忍び込む手はずだった。

 腐っても砦の兵士。訓練された集団が襲えばひとたまりも無いだろうと思っていた。

 これだけ無警戒な村人なら、多少の人手はあっても組織的な襲撃を防ぐ手立ては無いからだ。


 当然領主からは対応に誰かが出て来るだろう。村に警護の者がいなくても領主の館にそれが当てはまるとは思えないからだ。

 最低でも護衛の騎士ないしは、腕に覚えのある者が出て来るだろう。


 ドヴォルグは、護衛の数を村の規模を見て四、五人から多くても十人はいないだろうとも考えていた。

 出て来るのは何人か? 二小隊六十人を鎮圧するのだ。 手練のエルフでも半分は出て来るだろうと、もしかすると数人を残して村に向かうかもしれない。

 それを期待して守備隊の連中を引きこんだのだ。


 しかし約束の日が来ても連絡が取れない。


「何がおきてやがるんだ!」


 人族の母から生まれたドヴォルグは生み捨てられた。生まれたときからの孤児である。

 先祖の血にドワーフが入っていたのか、先祖がえりの特徴が出たから捨てられたのだろうか。拾って育てたのはドワーフの盗賊だった。


 そこで意外な才能に恵まれたのは、ドヴォルグに取っての幸運だったのだろうか。


 ドワーフの血を引くドヴォルグは闇魔法が得意で、その事から何時の間にか自分の事を『ファニール』の子孫と思い込んでいく。


 ドヴォルグが遠い先祖と信じた『ファニール』は黄金を抱え込んだ蛇として有名な神であった。


 実に盗賊には相応しい神だ。


『ファニール』は神々の時代に盗人宿で旅人を騙して生計を立てていたドワーフの事を指す。


 ある日、神を騙し捕らえた『ファニール』は身代金を要求した。

 捕らえられた人質を取り返すために払った身代金は膨大な黄金で、神は渡す時に「これ以上欲を出さずに盗みを止めよ」と言い「さすれば罪は忘れよう」と言った。

 しかし欲に駆られた『ファニール』は黄金を独り占めにし、また盗人宿も止めなかったから、怒った神によって呪いをかけられ永遠に黄金を守る蛇に変えられたと伝えられている。


 また『ファニール』はドワーフにとって『ガンドルフ』の名も持つ。

『ガンドルフ』の神話で有名なのは闇魔法で精霊を使ったと伝えられていた。

 闇魔法が使えるドワーフは少ない。だからドヴォルグが子孫と思い込むのもそれなりの根拠があるのだ。


『ファニール』の子孫と思い込んでから当然の様に黄金に執着を持った。

 闇もぐらなどと自称して盗賊に勤しむのもそのためだ。

 けれど殺しには関心は無い。

 闇の魔法があれば簡単に盗めるからで、殺しが割りに合わない事を知っていたからだ。


「おい! ミゼット」

「なんだいアンタ」

 爪の手入れをしているミゼット。なんど鍛冶屋の女房には見えなくなるからやめてくれと言っても聞かなかった。

 元は手癖の悪い娼婦でドヴォルグからも盗もうとした女である。なんだかんだと付いてくるようになり仲間になった。

 夜中に寝床に忍び込んでくるなど、隙を見れば盛んにちょっかいをかけてくる。もっとも、黒髪に豊満な身体はドヴォルグ好みでも仲間には手を出す気は無いのだが。


「へっ、情婦でも無いのにアンタはねーだろうが」

「なに言ってるのよ。一蓮托生の相棒じゃない。違う?」

「へへへ、そうか相棒な、確かにそうだ。ちげぇねぇ。相棒? 今度の仕事はちょっとばかしヤベーぞ」

「でも、金貨がたっぷりなんでしょ?」

「おう、たっぷりだ。金貨を運ぶのも闇魔法を使えば問題ない。一人で、いや二人でだな? きっと出来るからやるぞ!」



        ※※



 辺りを精霊が暴れまわる。

 一人二人と部下が打ち倒されていくのを目にして隊長は逃げ出そうと考えた。


「た、隊長!」

 横にいた男。副官代わりに重宝して使っていた男だ。連れて行ってくれと目が訴えるが「おい! 前を守れ!」と裂け目に突き出した。

 瞬間、岩の裂け目から飛び出したトゲが身体を縫いつけながら圧殺する。


「あぎゃっ!」

 蛇のように土の精霊は息絶えても容赦しない。ギリギリと絞め殺し満足したのか次の獲物を求めた。まるで生きているかのように岩のトゲが鞭になり狙いをつけていく。


 二小隊六十人の兵士は何も出来る事無く息の根を止められた。


「あわわわわわわ!!! ひぃいいいい!!!」

 砦の守備隊で普段から偉そうにしていた男はもういない。一歩でも前に、少しでも長く生き延びようと這って逃げている。


「ひっ、ひひっ──────! し、すみません! 命だけわぁ!!! こっ、殺さないでくれぇ!!! ぐわっ!」

 残されたのは命乞いをする哀れな生贄だけだった。


 ゆらゆらと身体を揺らしながら迫ってくる。常識外れの女エルフ。頭の中はアレスの領土を汚した者をどう痛めつけるかだけ考えている。


「ひゃっ、ひくっ! アナタがこのゴミを連れて来た元凶なのね?」

 言葉がハッキリしてきたのは精霊酔いにも少し慣れてきたからだ。

 けれど感情は増幅し、戦いと殺戮の高揚感がありありと見える。

 具体的には頬は上気し、あたかも情事の後のようだ。

 発情とも言っても良い。それくらい紙一重の妖しい魅力を放っている。


「ねぇ? どうなのぉ?」

 左手を伸ばし頭を掴むときりきりと力を込める。

「うっ、ぎぎ・・・・・・」

 メキメキと音を立てながら「ねぇ? 他に仲間はいるのかしら?」と、壊してしまわないような絶妙な力加減で締め上げた。


「アハハ、全部話して楽に死ぬか? 抵抗して苦しんで話して死ぬか? 好きに選んで良いのよぉ。キャハハハハ!」

 どっちにしても話した後殺されるのは決定だが。ローザにすれば楽に殺すのは情けをかけているとも言える。

 普通のエルフなら人族に情けなどありえないからだ。


「たっ、頼むぅ! 俺はロタの守備隊のもんだ! た、助けてくれたらなんでもする!」

「ロタ? 守備隊? スヴェアの兵士がそんな格好でぇ?」

 潤んだ瞳で小首をかしげた仕草は、こんな場面で無ければご褒美物だろう。ご丁寧にも頬に指まで当てているのだから。


「あっ、ああ。騙されたんだ! お願いだ! 命だけは! ぎゃぁあああああああ!!!」

 騙されたと聞いて思わず力が入った。他に仲間ないしは指図した者がいるという事だからだ。


「あらっ? 気を失った? はぁ・・・・・・どうしましょう? まだ聞きたいことはいっぱいありますのに。スヴェアと聞けば簡単に殺すのはどうでしょうか」

 途端に冷静になって考える。

 この愚か者を許す気も無いが、スヴェアの兵士となれば使い道もあるかもと考えるあたり、ローザもアレスの教育係兼家令であった。





        ※※


「ピネアッサ・ノスティメント(闇の眷属よ)ヴァテェート・イ・ケイドス(衣で覆え!)」

 闇の衣が二人を覆い隠す。


 大事な荷物は闇の中にしまった。残したものは捨てても惜しくないものだ。

 荷馬車は少しだけもったいないが、逃げるのには足手まといになる。闇の衣をまとって駆け続ける方が早いだろう。


 何時もの手口で「ア・エスティラン・ヴィォラネン(闇の探索)」を使って人の気配を読んでいく。


「ふん、村の中は静かだぜ」


 今夜は月も隠れて絶好の状態に、ニンマリしながらそっと宿を離れ領館に向かった。

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