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第三十五話 森の狩人という存在

少し、残酷な表現があります。

 道無き森を進む集団。二小隊六十人は街道を離れ西に向きを変えた。ローズウッドの領地を囲む森はうっそうと茂っている。

 所々に花崗岩が顔を出しているが、サイズは優に千トンを超える巨石だ。そのため迂回するごとに隊列に乱れが生じ長い列となっていった。


「くそっ! また岩の塊じゃねーか!」

 隊長が悪態を吐くが顔を出している部分だけでも百メートル近い。

「左の方が回り込みやすそうだ! おい! 先にいけ!」

 夜闇に紛れての行軍に、悪戦苦闘しながら進んでいても予定よりかなり遅れていた。


 次第に苛立ちがつのり、冷静な判断を失う。

 それは無駄を生み、新たな疲労と変わった。


「ちくしょう、ここまで酷いとは思わなかった」

 無理も無い。本来人族がエルフの森に入る事は無謀なのだ。

 進むほど深くなる森は、どこを向いているか分らなくなる。


「おい、森が無いぞ」

 何度か上り下りをして藪を突き抜けたとき、ぽっかりと開いた空間に出たのだ。

 広さはどれくらいだろうか。直径で一キロは優にある。

 まるであつらえた空間のように見えるそこはすっぽりと埋まった岩の上。


「岩の上か・・・・・・ちょうどいい、休憩だ」

 乾いた地面は泥だらけの森の中と比べて座り込むには楽だった。

 ここなら火も起こせるし煮炊きも可能だろう。

「誰か薪になる枝でも拾って来い。それと石だ! かまどを作る石も取って来い! ああ、水も探せ!」


 目に付いた連中に片っ端から用事を言いつけ動かしていく。自身は座り込みながらだ。

 月も出てねぇと思いながら、そう言えば商人の姿が見えない事に気がついた。

「くそったれ、どこに行きやがったんだ」と呟いたとき。


 低い爆音が身体に響く。



        ※※



 森はエルフの故郷であり友達だ。

 ローザにとって夜目も利かない人族の集団など赤子にも等しい存在だった。


「ふふふ、簡単に引っ掛かってくれるわね」

 ローザは精霊にお願いして部隊の行く手を塞いでいった。

 アレスから貰った精霊石を使うまでも無く、森の木を動かし土を岩に変え隊列を分断していく。


 森は精霊に溢れ魔力に満ちている。


「エン・フィリア・ベェタルデ(枝よ払え)」

 呟きのように短く呪文を唱える。一瞬の光と共に木の枝がうごめいた。

「ほらっ、また逸れた。残念ねもう一人よ」

 枝を揺らし行く手を塞げばそこには取り残された獲物がいた。


 ローザはふっと目を細めて口元を吊り上げる。

「おいっ! えっ! なんだ、どこに行った!」

 仲間の姿が見えなくなってパニックに陥る兵士を見て、氷の美貌は失望の表情を浮かべた。


「つまらないわね」

「だっ! 誰だ!」

 いきなり一人になって不安なところに声を掛けられた兵士は「ひっ!」と悲鳴を上げて尻餅を着く。


「へっ、え、エルフ!?」

 特徴的な耳と美しすぎる美貌を目にして、一瞬ほっとするが、その顔を見て恐怖にかられた。


「こ、こ、ころさないで・・・・・・くっれ」

 なぜなら何の感情も浮かべない氷の笑顔を見たからだ。


「ヴィンド・ジグ・デッド(風よ突きぬけろ)」

 ローザの呪文で風が兵士の喉を狙う。

「がっ!」

 喉を貫かれ声も出せずに苦しむ兵士に止めを刺そうと考えたが、どうせ死ぬとそのままにする。

 代わりに「エルフの地に許可無く足を踏み入れた愚か者め。その血で罪をあがなうが良い」と、血だまりに沈んだ肉魂に侮蔑の言葉を浴びせると次の獲物を取りに行く。


        ※※


「何なの!」

 ローザは不満だ。

 アレス命のローザにとって、主人の次に大切なものが食事。それもアレス考案の一品となれば食すのは至福の時とも変わるのだ。


「せっかくデザートを残して来たというのに」

 だから、音も無く森を進みながら、弱すぎる相手に次第に怒りが込み上げていく。


 故に雑になる。

「全部燃やしてしまおうかしら」

 指がアレスから貰った精霊石に伸びる。

 夜の森の中で狩りをするのも相手が弱すぎると手加減が難しい。本来ならば燃やすのが一番なのだが。


「やっぱり、やめた」

 決して火事になるからと言う訳では無い。

 アレスから貰った精霊石を使うのが惜しいのである。


「ヴィンド・ジグ・スゥイル! (風よ渦巻け)」

 精霊がローザの言葉に反応する。

「ぎゃっ!」

 薪を拾っている男に巻きつき身体を引きちぎった。ご丁寧に音を封じ込めて漏れないようにするなど、実に親切である。


 精霊もアレスの領土を踏み荒らされて怒りモードのようであった。自然、威力は増していく。

 風の渦巻きは目に付く敵を探し引きちぎった。苦悶の表情を浮かばせながらだ。


「苦しんで死になさい。ねえアナタ? お加減はどうかしら?」

 苦しむ姿を見て口角はあがり満足げな表情をやっと見せた。


 腰を抜かしている男を見つけた。武器など当に手放して這って逃げようとしていた。


 が、────「逃げるの?」

「がぁああ! あぁあああ!!!」

 手足を奪い、腰の骨を折り、最後に首を引きちぎっていく。


 湧き水の近くに居たやつらは「ヴァンド・デラ・ヴァリング(水の鞭)」で絡めて窒息させる。まとめて全部を。


「あら? こんなに魔力を込めたかしら?」

 普通なら水の鞭も解除になるはずが、そのまま獲物を求めていく姿はヘビのように見える。


「あはは、出番無いじゃないの」

 ローザも若干引く勢いの精霊たちだった。

「まっ、良いか」

 早く終わればそれだけデザートに会えるというものだ。隠れる必要も無いとまっすぐに進むのだった。



        ※※


 ドン──! とまた音が響いた。


「何が! おきてやがる!」

 森の奥から聞こえてくる。思わず立ち上がって周りを見渡した。ざっと数えて二十人ほどの部下の姿。


「ちっ! 魔物か! くそっ! おい、陣を組め!」

 自分を中心に方陣を組ませる。前列に盾を持たせてその後ろに槍を構えさせた。急増で人数も少ないが無いよりは良い。

「ちくしょう、こんな事なら装備も持ってくりゃ良かったじゃねーか」

 出発のときに鎧を置いてきたのが悔やまれる。エルフ領は魔物が出ないという商人の言葉を信じたのが理由だが。


「た、隊長!」

「どうした!」

「女です!」

 叫ぶ部下の声に目を凝らしてみれば確かに女が森から現れた。

 しかもずるずると何かを引きずっている。


「くひっ!」としゃっくりを上げながら金髪を結い上げた若い女は、メイドの様な黒いドレス着ていた。

 ふらふらと身体を揺らしながら片手で何かを掴んで引きずっていた。

 よく見れば部下の身体でぴくりともしない。


「ふはっ、いっぱいいらぁ」

 嬉しそうに引きずっていた兵士を振り上げると「ほらぁっ!」と放り投げる。


「あひゃはっ!」

 呂律がまわらないのは若干の精霊酔いのせいである。

 人族の魔術とは違って、エルフの使う精霊魔法は身体の中に精霊を取り込む。要するに自分の魔力と精霊を混ぜ合わせて威力を増すのだ。

 ただでさえ精霊と魔力の豊富なローズウッド。そこにアレスのためにパワーアップした精霊が溢れているのだ。


「きひひっ!」

 ローザが若干壊れているのも仕方ないだろう。


「エン・ロック・エラ・スパイドぉ!(岩の槍)ジグぅううう!!! (突き出せ)」

 両手を挙げて呪文を唱えた。

 ローザの魔力を糧に足元から放射状にひびが走る。


「ぎゃぁああ!!!」

 方陣の足元で地割れに変わり中から生き物のようにトゲが飛び出していく。

 兵士の身体を突き刺しながらうねる様に巻きつき締め上げるのだ。


「やっ! やめてくれぇええええ!!!」

 もっとも本来の魔法ではここまでの威力は無い。ノリノリの精霊は若干のサービス仕様となって襲い掛かった。


「あははははは! ああ、そうだ」

 精霊酔いでしびれた頭を振ってローザは精霊に伝える。

「あのねぇ、いひばん偉そうなひろぉ、殺しちゃらめろぉ! きゃはは!」



 ローザに応えるかのように地割れは唸りを上げて、隊長に狙いを付けた。

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