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第三十二話 冬篭りの準備という存在 その一

「私も帰国したら出来るだけ情報を集めてみる」

 そう言ってランディ皇子は馬車に乗り込んだ。冬を前に慌てて帰国の途についたのだ。

 ローズウッドは遠い異国の地で情報など入るわけも無いし、事情聴取と称したカーラの話は難解すぎて理解に苦しむ。

 ヤーレン子爵が強行に残りたいと言っていたが、お役目を放棄するわけにもいかず帰国となった。


 ふわふわと漂う淡い光。

 雪精霊が目立つようになってきた。

 これから長い冬が訪れて、ここは外界と隔てられてしまう現状で、オルネ皇国の継承者なのかどうかは春までお預けとなった。



        ※※




「今年の冬はここで過ごすわよ! だって、アレスとは十年ぶりなんだもの!」

 長く放置していた親子の絆を再構築するのだと言う。志は立派だがソファに寝転んで時折何かを口にしている。

「ふっふっふ、ここにいればもう! 面倒な書類に埋もれる必要も無いのよぉおおお!」

 カーラからは心の声が駄々漏れで、とても残念な気がするのは僕だけでは無いと思う。


 しかし、冬か。

 例年ローズウッドは冬を迎える前は忙しくなる。冬篭りの準備のため、薪を集め保存食を作り酒を仕込むからだ。


「調子はどう?」

 村の男衆が集まって忙しそうに働くところに顔を出した。

「おう、今年は量が多いから大変だぜ! ガハハハハ」

 言葉とは裏腹に笑顔が多い。誰もが今年の冬は領地が裕福なのを知っているからだ。


 酒は蜂蜜酒ミードと葡萄酒も仕込むけど、圧倒的に多いのは麦酒エールだった。

 特に今年は大麦を通常の三倍用意したので大量に飲めると喜んでいる。


「強い酒は熟成に回して下さいね」

「ああ、香草で味付けするし、砂糖も加えてみるつもりだ」

 怪しげな転生知識の披露で蒸留熟成に挑戦する。香草とはホップみたいな物なのかな? お酒は向こうでは飲めない歳だったからネット知識でしか知らない。

 でも、蒸留とか熟成の考えは間違ってはいないはずで、他所の国ではそれらしき物も存在するらしい。


「葡萄酒は全量蒸留しましょう」

 山葡萄で作るワインはジュースで飲む分を除き蒸留して熟成させる。

 蒸留器はスヴェアで手に入れ使い方も聞いてあった。


「植えつけた葡萄が実を結べば山葡萄は全部ジュースにするんだけどな」

 甘酸っぱい味は好みなのだ。イネスの協力で葡萄の苗木を植えたから将来はそっちでワインを作る。

「あはは、坊ちゃんはまだ酒が飲めねーか」

 明るい笑い声が聞こえた。

 うん、良い雰囲気だな。


「あーいたいた! アレス様、みなさんお揃いですよ!」

「しまった! 用事があるのを忘れてました」

 作業を任せて、ラトリーと一緒に館に戻る。


 冬に出来る事を決めようと提案して集まってもらった。

「お待たせしました」


 出席者は揃っていて僕が最後のようだ。

「今年の冬は食料に関しては問題ありません。ルオー様とランディ皇子様が狩りをして下さいましたから肉も余るほどです」

 ローザが言うように、ルオーさんと皇子は競って狩りをしていた。なんでも驚くくらいに良好な狩場だとか。


「加工の人手もロマリカの民のお陰で足りています」

 えへへと照れているがラトリーたちは働き者の集まりだった。

 男衆が取り出した豚の内臓を手早く処理し、あっという間に片付けていくのは圧巻と言えたほどだ。


「宿は無理ですが、食堂は何時でも大丈夫です。お姉さんたちも早く開けたいって」

 ラトリーの宿には期待している。

 どうしても冬の間は村の中に引きこもるから娯楽が無くなる、そこで食堂を皆が集まる施設にしようと考えたのだ。


「貨幣の用意は?」

「ロイヤルドさんに銅貨をかき集めてもらいましたけど、何に使うのでしょうか?」

「ええと、実験的に通貨を流通させます」

 ローズウッドの村、いやこの地の住民は労働の義務を対価に生活が保障されている。

 いわば原始的な共産国家なのだ。

 これは良く出来たシステムで、国営企業(ローズウッド家)で働く事で納税が行われ必要な物も手に入る事になる。

 麦とか肉、野菜などの食料から酒などの嗜好品まで、量に限りはあるが決められた分は必ず手に入れることが出来た。

 もちろん正規の仕事──魔木の管理や農耕など割り振られた──以外にも収入の道はあって、例えば自分で小物等を作って行商人などから欲しいものを手に入れたりも出来た。


 でも使い道が無いから物々交換が主になる。もちろんそれでも問題が無いのだけど。


「ラトリーの食堂は通貨で利用できるようにしたいと思って」

 これは外から来た人は通貨で利用するからだ。物々交換では料金を決めにくかった。


「さすがに行商人はお金で、村の人は野菜で支払うのは無理もあるから」

 だから村人に一定量を現金で支払い利用出来るようにするつもり。

「もっとも、価格は安め・・・・・・たとえば銅貨一枚から楽しめるようにと考えてます」

 そう村人の料金は格安にする。

 別に福利厚生なのだから無料でも良かったんだけどね。


「酒を飲んで、料理を何品か出せれば良いです」

 なにも僕が難しい事は考えなくても、ラトリーたちに任せよう。


「それと、面白いものが出来ました」

 そう言って見えるようにテーブルの上にビンを出す。

 薬師のリーヴさんに渡した水、精霊の泉から汲んだやつ。

 便宜的に精霊水と呼んでる。

「あら、精霊が入ってるの」

「かかかぁ、カーラが言ったように精霊が宿った水です」

「かぁ?」

 やべぇ! 思わず母さんって言いそうになった。ギロっと睨まれたわ。


「ローズオイルと石鹸を使って、シャンプーって・・・・・・分らないか」

 要は髪を洗う洗油を作ろうと試してもらったら不思議なものが出来たのだ。


「この中には火の精霊水と水の精霊水を入れています」

 ほぉー、という声がした。精霊石を作る要領で魔力を込めたら精霊が飛び込んだ。慣れたからか精霊もどれを入れるか選べるようになったし、

「まぁ、欠点もあるんだけどね」

 侍女さんにお願いして桶を用意してもらった。中身はからっぽだ。


「空の桶なんてどうするのよ」

 カーラがコンコンと叩いて確認している。

「そうだね、ええと、こうやって」

 桶の上でビンから一滴落とした。

「えっ!」

 落とした液体は青い光を出して水に変わった。

「はい、取水の魔法がおきました。そして・・・・・・」

 今度は火の精霊は入った液体を一滴。

「わっ! お湯?」

 そう一瞬で水はお湯に変わる。

「でもこれなら普通にお湯を出す魔法を使えば良いんじゃないの? 例えば温水とか熱水を使えば一度で出来るよ?」

「確かに、カーラならそうだね。でも魔法が使えない人なら便利だと思わない?」

「確かに便利ですね」

 ヘリアさんはちょっと興味深そうにしている。


「それにさ、一滴でこうだよ。もっとたくさん使えば」

 このままでも充分なのだが。


「たくさんとは例えば? それと欠点とは?」

 ルオーさんも魔法が使えないので興味津々。

「うん、まずここでしかまだ使えない。ローズウッドを出ると三日くらいで効果が切れる」

 ローズオイルと同じで森から離れると、具体的に言えば加護の範囲を離れると精霊が逃げ出してしまう。僕が魔力を込めれば長持ちするけど。


「でもさ、大きなため池で使えばどうなると思う?」

「お湯の池?」

 カーラの発想は・・・・・・。残念です。

「答えはお風呂、もっと言えば温泉になる」

 むふふ、冬と言えば温泉だよね? しかも出来れば露天風呂だ。


「だから精霊風呂を作ろう!」


 こうしてローズウッドに初めての温泉施設の建設が決まったのだ。

カーラの恋話って需要あるかな? あるなら閑話(一~二話)と外伝のどっちが良いですか? 

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