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第二十二話 オークションという存在

 オークション開始と同時に白熱した。


「一万!」「一万二千!」

 スタート後すぐに一万を越えて競りは一気に加速していく。


「こ、これは・・・・・・流石は天秤のオークションですね」

 ロイヤルドさんも若干引き気味なのも良くわかる。

 ここで使われている単位はすべてノルン(神貨)だ。


「ノルンは天秤のオークションで使われる単位で神の通貨の総称です。もっとも実際には流通していないので、エーギル金貨で支払うのが一般的ですね」

 さすがにロイヤルドさんは商人だけあって、丁寧に説明してくれた。


 なぜノルンを使うのかは、各国金貨の価値に違いがあるからだ。


 直径二十二ミリで重さが約八グラム、金の含有量が約九割。これが条約で決められたエーギル金貨だが、実際には各国で微妙に差がある。


「ほら、持ってみたら判ると思いますが重さが違うでしょう?」

「本当だ」

 見せてもらった金貨は比べると確かに違っている。


「一ノルンに対しての交換率で言えば、スヴェアの発行している金貨は六枚と他国に比べてやや高くなってます」

 他にもバラン共和国などは九枚でスオメン帝国とオルネ皇国が七枚だそうだ。


 この比率がそのまま市場で通用するわけでは無いが、エーギル金貨の価値を秤の神殿で決めている事は通貨の保証をしている事と等しい。


 なぜなら神殿を通せば他国の通貨を交換する事が可能になるからである。


「もっとも我々商人が誰でもと、いうわけには行かないんですけど」と苦笑した。


 許可を受けた両替商だけらしい。

 うーん、要するに銀行の事だね。

 だとすると神殿は日本銀行か。


 ここで通貨の単位を並べると一エーギル金貨は一〇〇グラン銀貨が基準になる。

 そして一グランは一〇〇スルト(銅貨)となって、補助通貨として二十グラン銀貨二十スルト銅貨もあった。


 それにしても・・・・・・。

 マジ、ぱねっす。


 いやいやいや! この人たち正気なのかと目を疑うわ。

 だって・・・・・・。


 開始からあっと言う間に値段が上がり留まることを知らない。


「良いんですかね? こんなに高くて」

 僕らの予想では高くても三万ノルンで収まるだろうと思っていた。


 けれど・・・・・・。


「十万!」

 誰もが会場の熱気に中てられていたが、流石に十万の声がかかるとどよめいた。


 あっ、さっき遅れてきた人だ。

 誰だろうあの人は? ロイヤルドさんも知らないと言うし。


 青年は金髪の美丈夫で、どことなく華やかな雰囲気があった。

 最初に出された青い精霊石は十万ノルンで彼の手に落札されていった。


「十万ノルンですか・・・・・・」

 王都で庶民は月に金貨五枚の収入を得て一人前とされる事を考えれば、どれだけの大金かわかると言うものだ。


 続いて赤の精霊石の出番だ。

「七万!」

「八万!」

 いやいや凄いね。


 いま競りに残っているのはスヴェアの商人とその青年だけだ。

「ええい! くそっ! 十一万!」

 鬼気迫る顔で、やけくそ気味に声が鳴り響いた。


 十一万ノルンといえば金貨六十六万枚。

 その勢いに諦めたのか青年は引き下がった。


 赤の精霊石はどうやらスヴェアの商人の物となったらしい。


       ※※


「困ったな」

 落札の後は当然支払わなければならない。ところが、支払い方法で困った事になったのだ。


「まさか手形が通用しないとは」

 オルネ皇国のランディ皇子は困った顔をしていた。どことなく気品があって華やかなはず、はい隣国の皇子様でした。


 通常、大きな取引となればギルド間の決済が主になる。

 そう約束手形はこの世界にもあるのだ。

 でもローズウッドには商業ギルドが無いんだよね。

 誰にも必要なかったからな。

 貨幣経済を採用していないエルフにとって信じられるのは物だけである。


 まさかの物々交換の世界。どれだけ後進国なんだよって話だ。


 確かに大きな取引に魔木もあるけど、これは大部分がロイヤルドさんの所に預けられ、ほとんどがエルフ領に物品で運ばれていく。


 要するに母の元に渡っていくわけだ。

 従って現金化するのは一部なので、いままで問題になった事は無かった。


 皇子も国に戻れば幾らでも金貨があるとはいえ、運ばせるには時間が足りなかった。

 オークション後はすみやかに支払うのが規則だったりするからね。

 もっともお互いが同意すれば、その限りでは無い。


「残念ですが、交換のたびに国を出るのも不便ですから」

 にこやかな顔のローザさん。皇子相手でも強気です。

 エルフを含めてローズウッドも、条約を結んでいないので手形決済に応じる必要が無いから、これは正当な事だったりする。


 あくまで手形取引は条約を結んだ上で国が保証するからだ。


「金貨の手配をお願いできますか?」

 皇子はスヴェア一番の両替商に確認をとっている。

 先ほど十一万の金額で落札した人だ。


「私どもでもさすがに直ぐにとは・・・・・・」

「うーん・・・・・・困ったな」

 幾ら両替商といっても百二十六万枚もの金貨をこの場で揃えるのは大変そうだった。


「せめて二日頂ければ用意できるのですが」

 おお! 凄いな。二日あれば用意できるのか。


「ではこうしましょう? 用意できるまで待ちますので、引き換えは金貨と同時とさせてもらいますか?」

 ん? ちょっと黒い顔をしたローザ。なにか企んで無いか?


「おお! そうして貰えれば助かります」

「でも・・・・・・」

「どうされました?」


 来た来た! これは何かをお願いする時のポーズだ。

 僕もこの顔で頼まれると「うん」と言ってしまうんだよね。


「では、受け取りはローズウッドでお願いします」

 おおおおおおおおお!!!! ナイス! ローザさん。


「・・・・・・ローズウッドですか」

「ええ、その際にもう一方の金貨も一緒に運んで下さいませんこと? おほほほほ」

 ナイスだよ! 実は受け取った金貨を運ぶのを困ってたのよね。なにせ百二十六万枚だから。重いし危険だし。


「よろしくお願いします」

 交渉がまとまったのか、黒いローザは笑顔を満面に浮かべていた。


 対照に皇子の顔は若干引きつり気味である。




        ※※


 この後ちょっとした騒動が起きた。


 王都ではヨールの祭事が行われていた。

 近隣、いや大陸中から集まる商人と観光の人たち。その数は普段の数十倍とも言われる。


 まず行商人は王都に着くと金貨を両替した。つり銭を確保するためだ。

 両替商はその分を見込んで例年通り金貨を用意していた。


 けれど、天秤のオークションで落札された精霊石が、まさかの現金払いということなど誰が予想していただろうか。


 百二十六万枚の金貨は近隣の都市からもかき集められて行く。


 当然不足する金貨。


 需要と供給が崩れれば混乱を招く。




 こうして、しばらくの間王都近隣では貨幣の不足が続いたのだ。

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