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第二話 ローズウッドの館という存在

 僕の住んでいる所は大きな館だ。


 背後を森に守られ丘の下を流れる川は堀の役目をしていた。その先には見晴らしの良い草原がゆるやかに斜面になって、見た目より館の標高は高い位置に設けられている事が分かる。


 丘の館を囲むように石垣がらせんを描き、深く掘った井戸と清水の湧き出す水場まであった。

 斜面を上手く使った畑は土留めの石垣が有事には拠点となって行く。


 うーん。攻めるとしたら。

「西の海岸は岩礁が多くて上陸は不可能と……。東の険しい山は超えるのは苦労しそうだし。唯一の攻めどころは南となるか……。でも草原に点在する灌木かんぼくが要所に在るため大軍を広げることは……無理?」


 ……出来なかった。うーん……。難しい。

 館を攻め落とす事を考えて見渡すと、その難易度から絶望的になる事が想像出来る。

 主に攻める方がね。


「うん、良くできた城だ」

 毎日目にしても、あらためてここが特別の場所であると分かる。もしかして作った人って、天才?


「どうされました?」

 ローザが軽く首を傾げながらつぶやきに反応した。

 僕が生まれる前から母に仕えていたエルフで、僕の世話をするためにここに残ったそうだ。

「ああ、綺麗な景色だと思ってね」

「ふふっ、ここは特別な場所ですから」

 涼しげな目許を細めながらそう言った。

 僕だけに向けられる優しい笑顔は、慈愛に満ちて普段の氷のような態度はみじんも感じさせない。


「世界で一番魔力が豊富な場所。ここって女神の加護を受けているんだよね? 住みやすくて良い所だけど、人は少ないよね?」

 そうなんだ、九州に匹敵するほどの領地が有りながら人口は僅か二千人程しかいない。

 まー数えた事は無いけどね。

 ほとんどが森だから仕方が無いっちゃ仕方が無いんだけど、出来れば少しは賑やかな方が良い。

 主に僕の楽しみ的な意味でね。


「あら? 風が変わりましたか。これはひと雨降るかもしれません」

 結い上げた金髪の後れ毛をひとすくいかき上げて、美しい眉をひそめた。

 エルフは雨に濡れるのを嫌がる。雨が降ると大抵はじっと過ぎ去るのを大木の下で待つのだそうだ。

 もっともローザは口元に笑みを残しているから、別に嫌がっていないのが分かる。


「大丈夫?」

「大丈夫です。ここにはアレス様がいらっしゃいますから。ローズウッドの森は、あなたを守る結界でもあると同時に私たちも守ってくれてます」

 耳元に唇をよせてささやく様に僕に告げる。


「うぐっ……」

 思わぬ色香を感じてちょっと怯む。

 物心付いたときから変わらない美貌の迫力に押され目をそらすと、黒い布地に包まれた大きな胸が自己主張をするように張り出していた。

 デカイよ。

 異世界万歳! エルフ━━二人しか見たことは無いけど━━は巨乳だった。


「そっ……そうだね」

 心残りながらも、慌てて目を引き離し森を視界におさめると、低い雲の下を鳥がゆっくりと輪を描いて飛んで行くのが見えた。

 巣に帰るのだろう。

 ヒナが待っているのかな?

 だと良いな。

「もちろんですわ。それに私もギレアスも傍にいるのですから、何も心配はいりません」


 ギレアス……か、こいつは執事と呼ぶにはあまりに野卑やひに溢れている変人なのだけれど、見かけによらず戦闘では一流の腕前を持っているそうだ。本人はあまり話したがらないが、若い頃は冒険者をしていてときどき誰かが訪ねて来た。

 実は──こいつには謎が多い。

 あるとき年配の冒険者から竜退治の話を聞いて、ギレアスに訪ねたことがあった。

「ねえ? 一人で竜を退治したってほんと?」

 子供心に浮かんだ何気ない好奇心。特に意味は無く冒険譚の一つでも聞ければ満足しただろう。

 でも……。

「あー……誰からそれを聞いた? もしかして? チャックの野郎か? あいつ余計なことを吹き込みやがって。くそっ!」

 ひどく困った顔で僕にどう説明しようかと考えたギレアスは、ひとしきりうなり声を上げて悩んだ後。

「その……なんだな、事実だが事実では無いって! あぁああ、上手く言えねー! すまん! 坊主! 騎士の情けだ!聞かないでくれ!」

 などと、意味不明の会話の後口を閉ざした。

 それきり過去の話はどこからも僕の耳には入らなかった所を見ると、関係者に口止めしたのだろう。

 もちろん僕も聞くことは無かったのだけれど。いったい何が有ったのだろう?


 そんな事を考えていると空がかげり始めた。


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