第十七話 知識という存在
ちょっと上手く書けていないので、後で修正を入れるかもです。
どんどんと登ると景色が変わってきた。
植生の変化に気がつき、生まれて初めてみる世界に心が躍る。見るもの全てが新しく変化にとんでいて、新鮮な毎日は旅の疲れも感じないほどだ。
切り立った北側とは違い緩やかな尾根に変わった事で、歩みの遅い隊列ながら日が傾きかける前には水場を備えた露営場所に着く事が出来たのだ。
それでも人が歩く速度より遅いのは・・・・・・まぁ仕方が無いか。
「お疲れでしょう」
ローザに声を掛けられるまで気が付かなかった。馬車のたびというのは結構身体にきたりする。
凝り固まった身体をほぐすように伸びをしながらイネスと辺りを散策する事にした。
忙しそうに働く人々、誰も彼もが今夜の準備に追われている。
たぶん僕みたいにノンビリしている者はいないだろう。
この旅も含めてだが、僕は驚くほどに物事を知らない事に気づいた。いや何も知ろうとしてない事に今更ながら気付いたのだ。
学問については問題無い。
五歳になって突然記憶が蘇ってから字や計算なんかは苦労した覚えが無かったからだ。
もっとも、これは当たり前で違う世界とはいえ高校生までの記憶を持っているのだから、出来て当たり前とさえ思う。
日本で受けた義務教育という物の凄さを感じるほどだ。
けれど、誰もが知っているような知識──生きて行くために必要な知識──に目を向ければ無知もいい所なのだ。
正直、誰かの助けを得なければ生きることもままならない。
そんな事を考えながら歩いていると騒がしい声がする。
「悪いが井戸は使わせられねえ」
どうも水場で騒ぎが起きているらしい。
何人かの男たちとロマリカの民が揉めているみたいだ。
「そんな! 水場はここにしか無いんだ」
「あんたたちは悪いが後にしてくれ」
いかにも荒くれ者と言った風貌の男たち。
聞けば調理の水を汲み、汗を流した後、馬の世話をするまで待てと言っているのだ。
露営で水の確保は最初にする事で、煮炊きをするのにも水がなければ何も出来ない。
「もうすぐ日が暮れるじゃないか! べつに横で水を汲んでも問題無いだろう?」
水場は石で組まれてたっぷりと蓄えられている。もともと数人が使えるように作ってあるから邪魔になるような事も無いのに意地悪だな。
「うるせぇ! 俺たちはサーム教徒だ。ロマリカが使った水なんて使いたくないからな、へへへ」
この男たちの言い分を聞いて猛烈に腹が立った。
差別蔑視、民族対立など何処にでもある。
正直に言って僕がどうこう出来る問題でも無いだろう。
でもこれは僕の論理感では許せなかった。
宗教が違うから水を使うな? ふざけるな!
僕はロマリカのお姉さんが持つ手桶をひったくり「じゃ、僕はロマリカの民じゃないから問題ないですね?」と水を汲んだ。
一瞬何がおきたかポカンとする連中を尻目にイネスが「うむ、道理じゃな」と別の手桶で汲み出した。
それにローザからはローズウッドの当主として『民に公平であれ』と常々言われている。
ロマリカは僕の民では無いけど、いざとなれば伝家の宝刀もあるし。なんとかなるだろう。
「さっ、次は誰の?」
こういう時は勢いでさっさと終わらせてしまうに限る。
「ほらほらアレスが言っておろうぞ、早くしないと日が暮れて難儀するぞ」
途端につぎつぎと差し出される入れ物に水を汲んでいると。
「ふ、ふざけるんじゃねー!」
顔を真っ赤にした男達が叫び始めた。
「誰が! 汲んで良いと言った!」
うん、どうやら怒ってるみたいだ。
もっとも当てこすりで、最初から喧嘩を売ってるんだから当然だね。
「なんでしょうか?」
「てめえ! 俺たちの話を聞いて無かったのか!」
「ああ、ロマリカに対する嫌がらせですか?」
「なっ! なんだと!」
「僕達は、こんな理由も無い理不尽を見逃す気は無いので」
となりでイネスがうんうんと頷いている。
「こっ! このヤロウ!」
はぁ? 引っ込みが付かなくなったのか、今にも殴りだしそうな勢いだ。
でもさ、周りに注意しないと。
「断っておきますが『ローズウッド』の名に誓ってロマリカの民を保護しますよ」
「うるせぇ! なにが! ローズウッドだ!」
キレて僕に殴りかかろうとした瞬間。
「おい!」
ギレアスがこぶしを振りぬいた。
バカなやつだ。後ろに注意しないと駄目だよ。
これが伝家の宝刀。
「どうも。喧嘩を売るなら買いますよ」
ドヤ顔で言い切るけど、もちろん買うのはギレアスだ。
「まったく坊主ときたら、誰に似たのかね」
まったく嫌そうに見えないのがギレアスらしくて笑ってしまう。
あっというまに殴り飛ばして「手ごたえも無い。またつまらん者を殴ってしまった」なんて何処かで聞いたセリフで締めくくった。
基本的にギレアスは他人の揉め事等に手を出すことは無い。今回でも最初から僕らの傍にいたのに危害を加えられるまで動こうとしなかったくらいだ。
でも僕が保護と言った瞬間にロマリカの民への嫌がらせはギレアスの問題になるのだ。なぜならローズウッドが誓ったことは、必ず守られなければならないから。
あれ? いやこの場合はどうなるの? 方便だよね? ・・・・・・。うん、でもギレアスは多分そうすると思う。
「まあ、ローズウッドが保護すると言った以上、今後はロマリカについては俺が相手になってやる」
ほら、やっぱりだ。そう高らかに宣言した顔は嬉しそうだった。
でもギレアス。どんだけ揉め事が好きなの?
「くくく、おい坊主。かまわんから、もう二つ三つ適当に喧嘩売って来い。血が騒いでしょうがない。」
などとぶつぶつ言っているけど無視する事にしよう。
日が落ちて僕たちの夕食は賑やかになった。
僕の宣言を受けてロマリカの民が合流したのだ。
いまはローザとイネスが食事を振舞っている。
ローザいわく「アレス様が保護すると言いましたので」と嬉々として世話をしているのは何でだろう?
ロマリカの民はみんなで固まって食事を楽しそうにしていた。
口々に僕に感謝する言葉を受けて恥かしさが増す。
理由は分っていた。
僕の力では無いからだ。
偉そうに言ったところでギレアスがいなければさっきの揉め事もどうなっていたか。
僕は旅に出て守られていることを実感していた。
今回の旅にしてもそうだ。
わざわざスヴェアまで出掛けているのも、僕が作った精霊石──中身は使用済みの魔石──が引き起こした事が発端じゃ無いか。
それを値段も決められない自分は、苦し紛れの時間稼ぎで旅に出ている。
これでは駄目だ。ただ流されているだけだ。
人族にもエルフからも仲間と認められないのかも知れないとか、隔離された不思議な生き物なのかも知れないなんて、この際置いておこう。
イジケテばかりでは駄目なのだから。
この世界の事を何も知らないって事は、知れば良いって事だ。
そして明日からはもう少しこの世界の事を知って行こうと思った。




