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第十一話 金の鎖という存在

 遥か彼方に見える煙は、僅かな時間を稼いでくれそうだ。


「馬を休ませろ! 水と塩を与えたらお前達も休んで良い!」


 ここまで無理を続けさせて来た。欲を言えば鞍を外してやりたいが、どうせ直ぐに先を進まねばならない。


「アスク、貴方も休んだらどう?」

 エムブラが岩塩とイドゥンの実を差し出してくれた。

 もちろん本物では無く干した果実なのだが、疲れきった今は甘味が貴重でもう少し戦えそうな気分になる。


「すまんな。お前は食ったのか?」

「ええ、少しだけね」

 力なく笑った事ですぐ嘘だと気が付いた。


「そうか、ならば」とイドゥンの実を二つにちぎり塩を擦り付けて。

「喰えっ! これからはお前が頼りなのだ。もう少しだけ力を付けて貰おう」

 吐き出さないように口を合わせて押さえ込んだ。舌先で形の良い唇の感触を楽しみながら飲み込んだのを確認すると暫しの触れ合いを堪能した。

 黒のローブに包まれた身体をどのくらい確かめていなかったのか? 思い出せないくらい遠い過去に思いを馳せた。


「・・・・・・もぅ」

 照れたエムブラの頬を撫でて、名残惜しげに身体を離して周りを見渡す。

 それぞれ思い思いに身体を休める部下達の姿があった。


 楽園と呼ばれたこの地を逃げ出す未来は最初から分っていた。

 今でこそ森人などと呼ばれているが、元は唯の流木でしかない。いつの間にか偉そうに神階の賢者などと名乗り仲間を率いている。


 それと言うのも我が主から命を受けたからだ。

 本意では無い。出来れば後を追いたかった。


『新しい太陽は北から生まれる』


 この意味をいまだに理解出来ないが、与えられた使命は北に移り住むことなのだ。

 神々が口々に『北へ』と言うのだから何かが在るのだろう。


「出発だ! 馬に跨れ! 足が重いものは馬車に、歩けるものは隊列を乱すな! 目的地はそこだ! まだ見えぬけれどきっとある!」

 一度休んだ身体で長い道のりを行くのは簡単では無い。こぼれ落ちる者も多く出るだろう。

 すべてを導くのは不可能でも希望を見せなければ。





 あれから幾日過ぎたのだろう。

 幾度と繰り返される追っ手との戦は消耗戦だ。追いつかれそうになる度に歳が上の者から消えていく。

 未来の礎と言えば聞こえが良いが、なあに唯の人柱だ。

 体力の無い年寄りは真っ先に命を捨てていった。次は子供を産めない女たちで、わが子を預けて槍を取る。

 それが居なくなれば怪我を負った者からその場に立ち止まった。

 皆、言葉を掛ける事無く先を急ぐ、無駄にはしないように。


 消えていく者たちの笑顔。

 誰もが誇らしげに胸を張っている。






 かなり遠くに来た。

 風の冷たさは身を切るように体力を失っていく。

 倒れる者を起こすことも出来ず、身を寄せ合ってそれでも北を目指した。


「次は行く」

 エムブラは美しい髪を束ねながら俺に告げた。疲れの中でも艶やかな髪は紅く燃えて火のようだ。


 彼女は首から精霊石を外すと俺の首に掛け、笑顔で頬に祝福をくれる。


「出来れば貴方は生き残って」

「おいおい大魔導師らしくないセリフだ。出きれば追っ手を叩き潰して追いつく位は言ってくれよ」


 叶うことの無い望みをそれでも口にしてしまうのは何故か?


「・・・・・・そうね。うん、そうする」

 金の鎖の先には小さな紅い光が灯っていた。






 エムブラと別れて数日が過ぎた。


「ははは・・・・・・」

 喜びが湧き上がって来る。

 そう、我々は目の前に高くそびえたつ大木を目にしたときに、旅の終わりを知ったのだ。


 おお! 我が主なる神! オーディンよ! 在ったのだ確かに。

 その時「ととさま! 追っ手が!」

 悲鳴のようなリーブの声がした。


 俺は子供達を集めると、一人一人の頭を撫ぜ祝福を与えていく。エムブラがしてくれた様に。


 回りを見渡してみても残っているのは子供達だけだ。彼らがこれから新しい太陽を探せば良い。



「この地でやがて生まれる『太陽』を探しておくれ」


 さあ! 私の番だ!

 エムブラには文句は言わせない! 北の地にたどり着いたのだから。






 追っ手は死を恐れぬ戦士と巨人たちだった。

 一様に焼け爛れた姿をしているのはエムブラのおかげだろう。

 隊列は力強さが無く、狼の数も僅か。


「我の名はアスク! 神階の賢者であり切り株を穿つ者でもある! 悪しき巨人とその眷属たちよ、ここから先は新たなる地。天を巡る太陽の生まれる聖地に踏み入れることは許すべからず!」


 言霊に『お呪い』の意を載せ結界を張ると、もうやる事は一つ。

 ────────決着をつけるとしよう!


「古き巫女の言伝に願う! 願うは深炎の劫火を! 一つ、我の魔力を捧げ! 二つ、我の誠実なる祈りを捧げ!」


 走りながら体内の魔力を練り上げて行く。

 飛びつく狼を手槍で叩きのけながら呪文を唱える。


「三つ、我妻エムブラへの愛を捧げよう!」


 すまぬエムブラ俺が持つ二つと無いものは多くは無いのだ。

 ああ・・・・・・エムブラへの想いが薄れて行く。


 邪魔だ! どけっ! 死に兵がまとわり付くが、そんなもので俺を止められるか!

 昨日までなら止められただろう。

 いや、数刻までなら可能だったかもしれん。


 だが・・・・・・目にしてしまったのだよ。


 希望を。


「四つ!!! 人としての係わりをすべて捧げよう! 世界との係わりもなっ!」


 醜く歪む巨人の顔を睨み付けた。

 へへへへ、何を怖がっている? どおって事無いぜ、一瞬さ・・・・・・。


 そう、一瞬で消してやるぅ!!!!!



「我が力を種火に燃やし尽くせ────────自己点火パイロキネシス!!!」


 トネリコ(アスク)を種火に精霊石は輝きを増した。



        ※



「おい! 炎の精霊石に金の鎖だ! それ以外は認めねえケロ! 俺とエムブラの分二つだかんな!」

 なんでか無性に赤に反応してしまう。なんでだろうな? ケロはあんまり火の魔法は得意じゃ無いのに。


 まあ良い。このエルフは見所がある。

 まるで太陽みたいに魔力が輝いてた。

 鍛えればきっと・・・・・・希望につながる。


 ん? そういや太陽って何だろ?


 そう言えば名乗っちまったけど、そもそも神階の賢者アスクってなんだ?

 アメンボもエムブラって言い出すし。

 大体なんだよ? 太古の大魔導師って! ゲロゲロ! 可笑しいでケロ!

 俺たちゃ唯の妖精じゃんかよ。

 どうも最近、物忘れが酷くて困るケロ。


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