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第十話 精霊という存在

「ここに来たのはアレスが初めてじゃ!」

 イネスと出会った場所から歩くこと二時間、ローズウッドの森の奥深くは一種の聖域だ。


 人族もエルフも誰も訪れた事が無い世界。

 一本の大木がそびえたっている。根元には小さな泉、本当にちっぽけなだけど湧き出している水からは命を感じた。


 静寂な空間に圧倒的な質量を持った存在。


 天まで届くかのようなこの木は樹齢何年だろう? 千年、いやもっとか。

 まるで世界の始まりからあったと聞いても疑問に思わない位に存在感があった。


「凄い・・・・・・凄いよ」

 自分がいかにちっぽけな存在で在るか思い知らされた。

 これは価値観が変わる。

 まとわり付いてくる赤や青の精霊。

「あはは、何かくすぐったい気分だ」


 ここは驚くほどに実体を持たない精霊たちや妖精が多い。精霊の目を通した世界は幻想的で、もしかしたら彼らはここで生まれているのかもしれないとさえ思う。



 さてこの場所で何をしているかと言うと。




「ダメダメダ──! お前才能ナシ!」

「そ、そんな! 見捨てないで!」

「頼まれたからこうして見てやってるケロ、ホント無駄な時間使ってるわ」

 思いっきり上から目線で僕に駄目出しをしているのはカエルさんとアメンボさんで、どちらも只者じゃ無い。


 はい、どちらも高名な妖精さんでした。


「しっかし、これほど魔法のへたくそなエルフも珍しいもんじゃ。ケロケロ、ほれ、もう一度やってみるケロ」

 転生を経験して、この世界の事を結構なファンタジーだとは思ってましたが、すみません・・・・・・舐めてました。

 いや、まさか僕の魔法の師匠がカエルさんとアメンボさんだなんて。


「もっと練るケロ! 身体から漏らすな!」

 何をしているかと言えば、体内の魔力をコントロールしてます。

「何だかナー! こうググッとやれよ──」

 泉の中でスイスイっと動きながら波紋で魔法陣を書いている。

 僕がコントロールしやすいように補助してくれているのだ。


 ある日「泉の石に魔力を注いで欲しい」と精霊石を作れる事を知ったイネスに頼まれた。


 精霊たちは突然に生まれる。

 生まれたては、存在も希薄で意識さえ持たないけれど、本能のまま世界に定着を目指していく。


 やがて在るべき場所を見つけると、精霊はその中でじっと時を過ごす。

 それこそ千年以上の時を掛けて世界に定着した彼らは、高位の精霊に生まれ変わる。


 在るべき場所の一つがここ。


 泉の中にある高さ一メートル程の石柱に魔力を込める。特に難しいことでは無い。

「んっ!」

 時間にして一分。

 僕の魔力はイネスによれば非常に心地よいらしい。

 魔力に違いなんてあるのかね?

 やがて誘われるように中に入り込む赤い光は、二度三度と僕にお礼を言うように光ると石柱の表面は元に戻った。


 流石に魔石のように全体の色が変わる事は無いのだ。

 この作業を、ほぼ毎日続けていたら声を掛けられたんだ。


「ケロっ、森人にしては美味なる魔力。名はナント言う?」

 突然の問いかけに周りを見渡すが誰もいない。

「ムー! ムシするな! 馬鹿もん!」

 それが太古の大魔導師にてアメンボのエムブラさんと、神階の賢者であるカエルのアスクさんとの出会いだった。



 僕が石柱に魔力を込めた報酬は、魔法の訓練を付けて貰う事だった。

 僕は恥ずかしながら魔法が苦手だ。

 いや正直に言う・・・・・・実は魔法が使えない。

 魔力は持っているんだ! その証拠にほら? 指の先からだって出せるだろう?

 でもさ、何故か属性のある魔法は使えないんだよね?


 そこでイネスに頼んだのさ、本当はローザ辺りに聞けば良いんだけど、僕にも見栄というのがあるのさ。


 これが実に問題で、高位の精霊であるイネスは息をするように魔法が使えた。

 誰に教わることも無く覚えた魔法はからだの一部を無意識に動かすように使えたのだ。

 反則とも言えるのだけど、精霊は個の者では無くすべてが同等であるからだと言う。

 要するに他の高位精霊──見たこと無いけど──が使えればイネスも使えるって事。


 もちろんこれは、アスクさんからの受け売りです。


 だから「ねえ? 炎を出すってどうやるの?」と聞けば。

「おおお! 炎はな、こうドバッと出すのじゃ!」とか「風を奔らせるのはクイッと押せば良いのじゃ!」なんて、実に曖昧な表現が多い。

 元々言語では無く、感覚を共有している精霊はそれで伝わるのだろう。

 でも僕にはちょっとね。


 上手い事教えられないイネスのしっぽは、うなだれていく一方だ。

 見かねたアスクさんが、大魔導師にてアメンボのエムブラさんに相談して僕の魔法教師を引き受けてくれたんだ。


 但し報酬はしっかりと要求された。


「金の鎖だぞ絶対!」

 いわゆるネックレス、それも先に精霊石を付けろとのお言葉だ。

 金の鎖にこだわるのは意外に光物好き? なのかな。


「ホレホレホレ! サボっている暇は無いのよ! さっさとヤレー!」


 そんなこんなで僕の魔法の勉強は続いて行った。


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