夢コラボPART2~御徒町樹里ちゃんが行くVS酔いどれ軍団/ハロウィン編(裏側バージョン)
仕事より酒が好きな人達しかいない小林商事新社長の竹山は就任の目玉として、五反田財閥が取り仕切る商業施設の再開発を受注しました。大手ゼネコンを押しのけて受注にこぎつけるには相当の苦労があったようです。
竹山は悩んだ末に、このプロジェクトを井川に任せることに決めました。少々性格に難があるのだけれど、目的のためには手段を択ばない冷酷さと、何事にも動じない度胸の良さを買ったのです。
「誰の性格に難があるんだ!」
即座に地の文に突っ込みを入れる柔軟性もあります。
「井川さん、誰と話しているんですか?」
竹山はポカンとして井川を冷たい眼差しで見ています。
「うんにゃ、何でもねえよ。ちょっと上の方から変な声が聞こえたもんでよぉ」
訳の分からない井川の発言に竹山は不安を感じてしまいます。
「どうでしょう? 補佐役に日下部くんを付けようと思うんですが」
「補佐役? そんなもん必要ねえけど、まあ、日下部なら文句はねえや。ついでに、名取も付けてくれや。あいつにはいい勉強になる」
「解かりました。それではそう言う事でお願いします。あっ! そうだ。今週、五反田氏の邸でパーティーがあるそうです。是非、顔を出して来てくださいね」
井川が部屋を出て行くと、竹山は呟きました。
「仕事より酒が好きな人達しかいないと言うのは間違っていますよ。私は酒が飲めないのですから」
井川を変人扱いしながら、しっかり地の文にクレームを付ける竹山でした。
自分の席に戻ってきた井川は早速、日下部と名取を呼びつけて喫煙所へ行きました。
「そういう訳だ。まあ、一丁頼むぞ」
「あの…。どうして僕なんですか? 小暮さんの方が適任だと思いますけど」
名取はこのプロジェクトに気が進まないようです。
「お前、俺と一緒にやるのが嫌なのか?」
「誰もそんなことは言ってませんよ。この企画、なんか変ですよ。さっきからずっと誰かに見られているような気がするんです」
おや、おや! さすがに小心者の名取くん。地の文の存在に違和感を覚えているみたいです。
「ほら、ほら! 今、何か聞こえませんでしたか?」
「それは地の文だ」
沢村一樹似の日下部が言いました。
「ちなみに性格までは似てないよ」
うーん、絡みにくいヤツ。そう思う地の文でした。
「日下部さん、誰と喋ってるんですか?それに、地の文ってなんですか?」
「今のが地の文だよ。勝手に僕たちのことをああだこうだと言ってくるから、きちんと突っ込みを入れないと地の文に消されるから気を付けろよ」
「訳が解かりません。そんな環境での仕事はごめんです。僕、辞表を出してきます」
そんな名取りの戯言など無視して井川は話を進めます。
「勝手に無視しないでくださいよ! って言うか、無視させないでください!」
「ほー! 馴染んできたじゃねえか」
「うっ! そんなはずじゃあ…」
すっかり馴染まされた名取です。まあ、所詮、彼はこんなものです。
その頃、五反田氏の専属メイドの御徒町樹里も邸での飾りつけを終えて、家族でパーティーへ向かう仕度をしていました。
部屋には五反田氏からパーティーのための衣装が山ほど届いています。どれも素敵な衣装なのですが、ケチな五反田氏が贈り付けた衣装は布の面積が少ないものばかりです。
「誰がケチじゃ! スケベなだけじゃ」
そんなことはどうでもいいと言わんばかりに樹里の娘の瑠里ちゃんは既に衣装を身につけています。魔法少女の衣装です。2歳にしてはセクシーな衣装です。
「まあ! 瑠里ちゃん素敵ね」
「ママのもあるでしゅよ」
「あら、本当!」
樹里は瑠里とお揃いの衣装を身につけました。いつも着ているメイドの衣装よりずっとスカートの丈が短くなっています。
樹里と瑠里は魔法少女の衣装で夫の杉下左京のところに行きました。二人の姿を見た左京は鼻血を出して卒倒してしまいました。そして、憐れ左京はそのままあの世へと旅立ってしまったのでした。
「誰が旅立つか!」
まったく冗談の分からない男である。
左京は咳払いをして改めて二人を見ました。
「いったい、どうしたのかね」
「ハロウィンパーティーですわ。あなたも早く着替えて下さいな」
笑顔全開の樹里ちゃんでした。その笑顔に左京はまたまた鼻血を出して…。
「死なないぞ! 鼻血も出てない!」
…出血多量で死んでしまいました。
「こらっ!」
急に着替えろと言われても、五反田氏からごっそり衣装を送られた樹里と違い、左京はそんな衣装は持ち合わせていません。もっとも、普通にしていても貧乏神でイケそうです。
「誰が貧乏神だ!」
「これがいいでしゅ」
瑠里が指したのはゴミ箱の中。そこには浮気相手の恨みを買ってズタズタに切り刻まれた左京のタキシードが捨てられていました。
「捏造はやめろ!」
樹里ちゃんはそれを拾い上げて笑顔全開で言いました。
「あら! 素敵」
左京はそれを何とか工夫してドラキュラの衣装に仕立て上げました。
「器用なんですね」
「優秀な探偵ならこれくらい朝飯前なのですよ」
かくして、樹里ちゃんファミリーは左京が運転する車で五反田氏の邸へ出発しました。
「ちょっと! 何か忘れてませんか?」
無謀にも地の文に抗議する昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。忘れてはいません。無視しているだけです。
「おい!」
社長のお墨付きが出たので井川達は早々に会社を抜け出しました。
「まだ時間はあるな?」
「はい。相当、早くに会社を出て来ましたからね。さすが井川部長。時間には余裕を持てってことですよね」
名取は少し井川を見直しました。
「ちょっと景気付けに寄って行くか」
井川はそう言うと、目に付いた焼き鳥屋へ入って行きました。日下部も後に続きます。名取はオロオロしながら引き止めます。
「まずいんじゃないですか?大事なお客さんのパーティーに酔っぱらって行くなんて…」
途端に名取の脳天を井川の鉄拳が襲いました。名取はすかさず真剣白刃取りを試みます。けれど、虚しくも名取の手は木端微塵に弾き飛ばされます。名取の頭からはいくつもの星印が舞っています。
「バカか! お前は。何のために早く出て来たと思ってるんだ」
「でも…」
「でももクソもねえ! バカ野郎。どうせ向こうで飲めば遅かれ早かれ酔っぱらっちまうんだからよ」
「そんなぁ…。でも、どうせなら、ここじゃなくて隣のキャバクラの方が…」
再び名取の脳天を襲う井川の鉄拳。川可哀想に名取の頭には二段のこぶが出来てしまいました。
「そこはちょっと訳有りなのは知っているだろう」
日下部の言葉に名取はハッとしました。
以前、井川はあるキャバクラ嬢にハマっていた頃がありました。そのキャバクラ嬢が勤めていたのがその店だったのです。噂を聞いて名取は日下部と一緒に見に来たことがあったのでした。その時にはそのキャバクラ嬢は既に辞めていたのですけれど。井川はそこで多額の金をつぎ込んでいたのでした。その後も井川はそのキャバクラ嬢を探して何件もの店を渡り歩いたというのは小林商事の中では有名な話だったのです。
なにはともあれ、焼き鳥屋に落ち着いた三人はパーティーの時間までそこで暇つぶしをすることにしました。ほんの1時間程度…。その1時間が井川にとっては豹変するのに十分な時間だということは日下部も知っていましたから、店に入ってすぐに店長に注文を出していたのです。
「三杯目からは少しずつ薄くして出すように」
1時間で井川は焼酎のお湯割りを12杯。けれど、日下部の策略で後半は殆どお湯しか飲んでいませんでした。
「なんだか、全然酔わねえな」
「そろそろ時間ですよ」
井川は上機嫌で店を出ました。
井川は例によって両手をポケットに突っ込み肩で風を切るように歩いて行きます。日下部と名取はその少し後ろをついて行きます。傍から見たらどこかのヤクザの親分と舎弟のように見えるでしょう。
「誰がヤクザだって?」
久しぶりに地の文に絡んでみた井川でした。
邸に近付くにつれて、井川の歩調が速くなってきました。ついには小走りである女性の前へ駆け寄りました。
「おお! 久しぶりだね、樹里ちゃん! またキャバクラで働かないのかい?」
「井川さん、私は姉の璃里です。樹里はあちらにいますよ」
井川の紅潮した顔がみるみる青ざめていきました。
「も、申し訳ありません! 失礼致しました!」
井川は何故か敬礼して立ち去りました。
「どうかしたんですか?」
井川が初めて見せる慌て振りに日下部と名取は面食らった。
「なんでもない」
井川は一目散に向きを変えて再び歩き出した。
「おお、いたいた! 相変わらず可愛いなあ、樹里ちゃんは」
目を丸くして二人の会話を聞いている日下部と名取に、井川は事の経緯を説明しました。
「ああ! この人が…」
そう言って慌てて口を押さえる名取でしたが、こぶが三段になったのは言うまでもありません。
井川は樹里ちゃんのお腹が少し膨らんでいるように見えたので不審に思いました。しかも、隣には樹里ちゃんによく似た女なの子が居ます。
ロリコンの名取が女の子に近付いて話し掛けます。
「違う!」
なかなかうまく絡んでくる名取に地の文もご機嫌です。
そんなやり取りを見ていた井川は樹里ちゃんに確かめました。
「この子、貴方の娘さんですか?」
「そうですよ」
樹里が笑顔全開で言ったので、井川は固まってしまいました。
日下部は樹里がメイド探偵に主演していた御徒町樹里だと気付いて、握手を求めました。ところが樹里は日下部の手にグラスを渡しました。日下部は苦笑し思いました。
「あれは演技ではなくて、素のままだったんだな」
娘の瑠璃に名刺まで渡している…。
「違うから!」
…ロリコンの名取は樹里が女優だと聞いて仰天しました。
「だから、何度も言うな!」
「しょうだよ。ちらないの、オジちゃん?」
名取は瑠里にオジちゃんと言われて固まってしまいました。
日下部は嫌な汗をかいてしまいましたが、とりあえず固まった二人を担いでパーティー会場へ入って行きました。
パーティー会場ではヤクザの井川とロリコンの名取がヤケ酒を飲んでいます。
「誰がヤクザだ!」
「誰がロリコンだ!」
地に文にしか相手をしてもらえない井川と名取でした。
そこへ、のこのこあらわれた貧乏神は自分の妻が女優だったことを自慢し始めました。
「誰が貧乏神だ!」
地の文にちょっかいを出していて、井川の目の色が変わったことに気が付いていなかった左京はただならぬ気配に思わず振り返りました。
左京が見たものはまさにこの世のものとは思えないおぞましい光景でした。
ヤクザのコスプレをした井川が一升瓶を振り上げて左京の方を睨んでいるのです。
「コスプレじぇねえぞ! バカ野郎!」
「えっ! 本物の化け物ですか!」
左京が放った言葉は完全に井川を怒らせてしまいました。この後、左京がどんな目に遭ったのか樹里も瑠里も知る由は有りません。
めでたし、めでたし。