温厚派な鬼
鬼族は何かを殺さずにはいられない種族だ。言い換えると何かを消さずにはいられないということだ。別に対象は何でもいいんだけど、これを見たら殺さずにはいられないものが個々で違う。
例えば狩人の鬼族は獣の命を消さずにはいられないから、その職に就く。世間で言われてるように別に三度の飯より殺しが好きなやつなんて少ししかいない。人族はもちろん森人族、同族の鬼族、変り種で虫なんて奴もいる。
ちなみに俺は変り種のほうで知識欲。知って満たせば消えてくれるものではあるのだが、ふと疑問に思うことがあるだけで、その疑問を解決するまで気になって眠れなくなる。もちろんあらゆる手を尽くして
この衝動をなんとかするにはどうすればよいかという疑問を、衝動にまかせて調べ尽くしたが、その手段が本末転倒で新しい疑問を見つけ解決することだった。まぁこの答えが出たおかげで、一応の解決となったのか、この疑問に対しての衝動の解決にはなったのだが。母の対象は角が生えているもので、まぁ鬼族も含めてしまうものではあるのだがまぁ一応普通の範疇に入るのだが、父は意思というなんとも曖昧なものである。鬼族の中でも形を持たないものを殺すものはかなり珍しいらしい。
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「ごちそーさまー!今日はちょっとパオルさんとこの小屋に行って来る!」
「日が暮れる前に戻ってくるのよ~」
「イザヤ、隠し持ってるナイフをテーブルに置け」
「むぎゅ」
…………一応母も俺に角が生えてくるまでは普通の優しい母だったのだが、10のときに角が生えてからは虎視眈々と俺の角……………いや、現実を見よう。俺の命を狙ってくる。ちなみに鬼族はだいたい10歳くらいでつのが生えてきて、20歳くらいでしまえるようになる。
父も気をつけてくれてはいるのだが、「15になったらもう立派な大人だから俺の手を借りずにイザヤから命を守れるようになっとけ」と大変有難くない忠告をもらっている。
でも止めるんなら抱きしめるのは止めてほしい。朝からお熱いこって。
軽い胸焼けを覚えながらそのままいちゃいちゃし始めた両親を尻目にきしむ木のドアを閉じてパオルさんの見張り小屋に向かう。
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途中でテノンとアスクと合流するとパオルさんの小屋の煙突から煙がでている。どうやら朝ごはんの準備をしているようだ。
「こんな危険な森の中の里で門番をしてらっしゃるのですか?」
「んだ。この森の魔物はみな賢いでこの里には近づかんのよ」
「おーいがきんちょども、盗み聞きしてねぇで出て来い」
ばれてた。まぁパオルさんが気付かないわけもないか。きしむ音をたてながら、ドアを開ける。ベッドを見ると森人族さんが起き上がっていた。にこやかに笑っていたが俺の顔、いや正確にいうと額を見ると冷や汗をかき始めて
「おっ鬼族!?嘘ッ!?じゃっじゃあパオルさんも………?」
「んだ、わいも鬼族だ。そいつらがあなたをここまで運んでくれたんですよ。」
バサッと毛布をかぶってしまった森人族さん。
「おっお願いします!殺さないでください!」
か細く震える声で懇願された。あちゃーと額に手をあてるパオルさん。鬼族の悪名は森人族にも轟いているらしい。
「まぁここにいる3人はまんだちっけぇから殺戮衝動には目覚めとらんし、わいも殺戮衝動は抑えられます。命の心配をする必要はねぇですよ」
「ほっ本当ですか?」
「んだ。事実わいもそいつらもあんたを見るなり襲い掛かっていないでしょう?それに鬼族は嘘を嫌う種族ですから」
「………そうですね、鬼族が噂どおりの種族であるなら今頃私の命はないでしょう。パオルさんを信じます。それに、鬼族にもいい人はいるって知ってますから」
鬼族にいい人?真っ先に浮かんだのがパオルさんであるが、パオルさんはずっと門番していて里からは離れないしなぁ。となると…………あぁッ
「それってレピスさんとケイさん?」
「っ!そうです!」
「あれ?母さんと父さん?」
そう、アスクのご両親である。