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授かりし者 5

「うん!今日はここでよろしく!」



連れて行かれた場所は、裏山の麓にある小高い草原だった。

小さいころからよく遊び場として来ており、一本の桜の木が目印となっている。

春になると見事な満開の桜を咲かせ、花見の名所として情緒ある風景を醸し出す。

僕たちの思い出の丘。


今では桜の花も落ち、青々としたたくましい葉を枝いっぱいに宿している。






「ここに来るのも懐かしいなぁ。昔はよく遊んだのにな。

 ヤッチとかキヨ元気かなぁ~。」


と、久々の地に来たこともあり昔の物思いに更けていると、




「まぁ、これも時の流れってやつですか?

 目に見えない大きな力に、ちっぽけな人間は太刀打ちできないものだよ。

 少しずつ受け入れていくことが大人になるってことなのかもしれないよ?

 秀輔君。」



などとなぜか偉そうに語りはじめた結を放っておき僕は鞄を置き準備に取り掛かった。

しかし、実際別々の高校に進学してからというものの、今では

町で見かけることもめっきり少なくなってしまっている。



僕はそんな思いを振り切るように空を見上げ、サッと顔をあげ、


「じゃ、はじめますかっ!」


と、虚勢にも似た強がりをみせた。





「よっ!待ってました!」


と結は手を叩きながら僕の言葉に乗ってきた。





そういって僕は首から下げている一つの笛をとりだし、

口にくわえ、静かにゆっくりと息を吹き込めた。




初夏の湿った空気のなか、心地よい風が全身を吹き抜け高く澄んだ音色が青空に向かって響き渡る。

その音色は鳥の鳴き声によく似ている。




「あ!この声ウグイスだ!

 風情だねぇ~」




と、目を閉じ空を仰ぎながら耳を澄ましている結がつぶやいた。














「鳥笛」


「鳥寄せ笛」


とも呼ばれる片手ほどの小さな木でできた笛。


簡単な作りでできており二つの穴をふさぐ面積を少しずつ広げることによって音階を分け、数種類の鳥たちの

鳴き声を真似することが出来る。

誰でも音を出すことはできるが、鳥たちをおびき寄せるには技術と鳥の習性の知識が必要だ。




僕は小学生の時に婆ちゃんに誕生日プレゼントとしてこの鳥笛をもらってからというものの

とても気に入り、宝物としていつも携帯している。




毎日のように吹いていたため、今では大抵の鳥達を呼び出すこどができるまでになった。






しばらく吹いていると近くの森の中から、ウグイスの


「ホーホケキョ」


という野生のウグイスの鳴き声が返ってきた。






「応えた!」



僕も負けじとより一層息を吹き込み鳴き返す。



「ホーーーホケキョ」


「ホーホーホーホケキョ」



という、美しい音色が秀輔と森の中から交互にさえずりあっている。



しばらく繰り返していると森の中から聞こえる鳴き声は次第に数を増し、重なりあうウグイスの鳴き声がまるで合奏のように響いた。




僕も鳴き真似をやめ、結と同じように目を閉じ耳を澄ましてみると

ウグイスの鳴き声だけではなく、風に揺れる木々のざわめきや他の鳥たちの鳴き声。

時折吹く、地鳴りのような一陣の風。

風にのってほのかに香る草花の青々しい香り。

まぶたの上からでも分かる太陽の明るさと温かさ。




ひとたび目を閉じてみるだけで、普段では気付かない音や感触に全身が包まれ

まるで自分が透明になったような錯覚を秀輔は覚えた。





結はじっと黙り、全ての現象を僕と同じように全身で感じていた。




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