授かりし者 9
母、芽衣子はまだ仕事から帰ってきておらず、夕食は3人で食べることが日常となっている。
いつものように談笑しながら箸を進めていると、ふと、昼に結から聞いた話しを思い出した。
「そういえば柚子。」
箸を口にくわえたまま柚子葉が視線をこちらに向け眉毛をハの字にして「なに?」という表情を浮かべた。
「山猫って知ってるか?」
「あ~、知ってるよ。最近結構噂になってるよね。うちの中学でもよく聞くよ。
なに?兄ちゃん信じてるの?」
柚子葉は訝しむような目つきをこちらに向け半ば呆れたように聞き返してきた。
「いや、俺も今日聞いたばかりで信じちゃいないけど、ちょっとどんなんか興味があってさ。
見た人も結構いるらしいぞ。」
「私も詳しくは知らないけれど、熊みたいに黒くて大きな体と光る二つの目。
鋭い爪と長~い尻尾があるらしいよ。」
「なんだそりゃ、、。まるで子供が作った作り話に出てくるような抽象さだな。」
「だって、私も知らないんだもん!見たこともないし。」
「やっぱりただのデタラメかな?だれか怪我したわけでもないんだし。」
「だよね。信じるほうがどうかしてるよね!」
「本当さ。」
アハハと、柚子葉と冗談交じりに笑っていた僕たちに、ずっと黙って聞いていた婆ちゃんが突然、話し出した。
僕は柚子葉とともに会話が途切れ婆ちゃんを見つめることしかできなかった。