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饗(うたげ)宴Ⅰ~テレビドラマ  作者: sadakun_d
トレンデイ俳優は兄
6/6

脚本家の秘かな楽しみ

女子高生はクルッと振り返る


カシャカシャ(シャッター音)


ジィ~ジィ


うん?


病棟のエレベーターを降り廊下を歩いたらであった。

カシャカシャ


なんとなくだけど


「気のせいかなぁ」


私が病棟に来ると写真シャッター音かな。


「ヤダなあ~ジロッと睨まれているみたい」


病棟にやってくるとなぜか胸騒ぎであった。


「気のせいならいいけど」

女子高生シンデレラは何気無く再会の父親に苦情を言ってみた。


病棟にやって来ると誰かに監視されている。


写真を撮られた気がする


「写真?」


こんなところまで追跡するのはマスコミだろうか。


「誰かわからないか。顔を見てはいないか」


写真週刊誌に狙われていないか。


ゴシップ記事が好きな週刊誌フアンの格好な餌食。


「好き勝手なことを書いて喜ぶ雑誌が目をつけているんじゃないだろうな」


今いる附属病院は有名人のプライバシーを守ることで評判だった。


だから検査入院を長い逗留を決意である。


「週刊誌が嗅ぎ付けたとなると厄介だな」


プライバシー侵害と芸能ゴシップ。


「病院に文句を言わなくちゃあな」


脚本家は人一倍身辺に関し敏感である。


枕元の携帯を取り出し顧問弁護士を探す。


「のんびりと病院で脚本を書いてリハビリをと思っていたんだ」


マスコミに入院を嗅ぎ付けられたら気も安らかにならない。


「せっかく娘がお見舞いにやって来てくれる」


他のけばけばしき女優の卵らは視野には入らないようであった。


特別室のある病棟にスーツ姿の凛々しき紳士が現れた。


ナースステーションに来ると個室の脚本家を求めた。

「患者さんの病室・個室は面会謝絶になっています」

案内をすることは出来ません。


「私は芸能プロ顧問弁護士でございます。重大な要件をクライアントから承ってございます」


対応するナースに名刺を手渡してみる。


どことなくもったいぶった態度だった。


受け取るナースは首を傾げながら弁護士の顔を見た。

その紳士。ニヒルなインテリ顔には見覚えがあった。


ナースはテレビ好きな類い。


お昼のワイドショーに登場する弁護士コメンテーターとしてレギュラー出演の顔を思い出す。


「あらっ見たことがあると思いましたら」


あの著名な先生でございましたか。


「有名な弁護士の先生でございますか」


この一言に機嫌をよくしていくのである。


ナースは脚本家に連絡する。


「よぉ~(弁護士の)先生っ。久しぶりだなぁ。呼び出して申し訳ない」


脚本家と弁護士は旧知の仲。


文学部と法学部の違いだが同じ大学の卒業生で四歳の年齢差である。


「テレビの活躍ちょくちょく拝見しているよ」


ところで


「私の訴訟はどうなるかね」

クライアントの少ない弁護士にはありがたい芸能との付き合いである。


芸能人との付き合いは大学先輩後輩のつてで脚本家を通じての民事訴訟である。

「民訴ですね。大丈夫ですから」


それまでの民訴というと交通事故示談に金にならない庶民の離婚調停程度。


司法書士なのか民訴の弁護士なのかわからない事案ばかりであった。


個室に入院する脚本家。弁護士には"打出の小槌"か"金を産む家鴨"だった。


先生の体調はいかがですか。


「仕事が立て込み多忙だったがな。疲労感があったから検査入院をしたんだが」

過労からくる疲労感などベッドに横たわれば一晩でスゥ~と消えた。


一本の点滴でみるみる頭が冴えてしまうのである。


インターネット環境が整えばいずこも脚本作業は捗る便利な世の中。


「個室という空間は脚本執筆に最適。なんだかんだと忙しいテレビ局では脚本のストーリーがうまく繋がらない」


局のディレクターや番組のスポンサーにやんややんやと言われての脚本執筆はストレスがたまってしまう。

早寝早起きに三食決まっての食事(アルコール抜き)は想像力を高める意外な効果があるようだ。


「入院し今日まで頭も冴え渡るんだ」


締め切り間近でなかなか書きあげれない台本をこなせれた。


入院し規則正しい生活環境が前頭葉を刺激した。


脚本の構想自体が奇抜なものが浮かび自ら斬新なドラマ展開を期待された。


「想像力がわいてですか。結構なことではありませんか」


さまざまな設定を舞台にしてトレンディドラマが展開をしていく。


お茶の間のフアンは常に新鮮な気持ちでドラマを待ち望んでくれている。


気難しい脚本家の機嫌を取り民訴の話である。


弁護士は忙しい身である。

「先生のご依頼の事案でございますが」


附属病院で有名人なる脚本家のプライバシーが守られていない。ゆえに病院を経営する学校法人の母体学園を訴えたい。


「私はこちらの学園理事長と面識がございます」


医学部附属病院についての苦情を2~3申しつけておきました。


有名な脚本家という特別なクライアント。


我が儘なクレームは即座に解決を見なければならない。


「先生は病棟でプライバシーを覗かれているとおっしゃった」


来週から今の個室を移動してもらいます。


「附属病院の建物は意匠が凝らされてございます。病棟の構造上うってつけの個室がございます」


最上階は袋小路の構造になっており隔離された病室がございます。


新人ナース研修教育の部屋と隣り合わせにある袋小路の病室。


たまたま建築資材が余剰したのでついでに病棟に作っていた。


ドラマや脚本のキャプションに"入院経験"を使わないように」


…とのことでございますが。


「私からの報告は以上でございます」


弁護士は事務的に処理事案を報告する。


脚本家が是としたら頭をさげ退席である。


「わかった。その条件を呑むよ」


なにが附属病院を脚本の"ネタ"に使うなっだ。


冗談じゃあない。


病院医療モノはテレビ局であっちこっちにやってんだ。


「どちらのドラマも白衣だらけ。飽和状態がわかんないのか」


プロのプライドを賭けて医療ドラマはこっちから願い下げだぜ。


「よろしければ明日から袋小路の個室でございます。これにて私は失礼をいたします」


足を運んだ要件はすべて済んだのである。


弁護士はサッサと引き上げる。


脚本家の女出入りが盛んなことは言わない。


昔から


女癖の悪さは


見なかった


聞かなかった


「ではまたご要望などありましたら」


有名人からの"愚にもつかないリクエスト"は受けたくはないっ。


グッと目ヂカラを睨ませ退室した。


すぐさま病院職員が現れて袋小路の個室に移動する。

「こりゃあいいね。希望通りの部屋だな」


あっいや


「立派な病室じゃあないか」


附属病院の屋根にある病棟。ぴょこんと尖り頭ハウスのような最上階。


エレベーター下の階まで。

廊下に上がってくる不審な(やから)はいない。


脚本家はにんまりとする。

"これなら好きなだけ女を呼べる"


密会場所に最適である。


「ありがたいね。執筆活動に意欲が出そうだ」


職員は顔を見合せホッとした。

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