表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
饗(うたげ)宴Ⅰ~テレビドラマ  作者: sadakun_d
トレンデイ俳優は兄
3/6

ドロップアウト③~医者を演じない俳優

マネージャーさんよぉ~


「なんだいこの台本!違うドラマを選べないの」


いつも同じ似たり寄ったりな役回りばかりではないか。


台本セリフも目新しさが少しもない言い古されたものばかり。


(いい加減に飽きるよ)


トレンディドラマのハンサムで正義感の強い主役にしか抜擢されない"贅沢な悩み"をぶちまけた。


マネージャーは困りましたとお手上げである。


「いい加減にしてくれよ」

トレンディだ


恋愛ドラマだっ


「お子ちゃまドラマは飽き飽きしてんだよ」


手に仕掛けた台本をポイッと捨てしまう。


それを見てマネージャーは真っ青になる。


所属する芸能プロダクションの稼ぎ頭が我が儘を言いたい放題な"トレンディ俳優"だった。


事務所が潤いますの仕事は俳優が7~8割を占めている。


その恩恵を受ける形で若手俳優や女優もドラマにコマーシャルに出演依頼ができている。


女子大生マネージャーはしくしく泣けてしまう。


「なあっ~気分転換に休みをくれよ。半年も休んでいないんだぜっ」


休みくんなきゃあ!


労働基準局に電話掛けてやるぞ。


「いつも同じセリフを吐くドラマは飽きたんだ。毎回同じ役柄(ハンサムな主役)ばかり」


この俳優にツムジを曲げられてはいけないのである。

視聴率が必ず取れるトレンディドラマ。主役に穴を開けるヘマをすれば…


たちどころに優良企業のプロダクションは赤字経営に陥ってしかりである。


「俺ってさあ。結構気紛れなんだなぁ~ドラマ降りちゃおうかなあ」


マネージャーは心臓が止まりそうだった。


主役の俳優が降りてしまえばドラマの価値は半減であり視聴率はガタガタである。


「そういえばさあっ。マネージャーさんよ」


アンタどうした風の吹きまわしか知らないが


「陰でこそこそしなさんな」


トレンディ俳優のプライバシーをあっちこっちとネットでクリックしたことに気がついていた。


「何かわかったかいマネージャーさん。なんなら俺が直接答えてもいいんだぜ」

ドッキッ


泣き顔のマネージャーは心臓がドキドキしてくる。


この男は…


高校中退の頭ではないわ


「調べようと思ったのはなんだなぁ。ズバリ当ててやろうか」


マネージャーの本心を当てたら彼女とグアム旅行を黙認してくれよ


「俺が医者役やらない理由が知りたいんだろ」


トレンディな病院医者ドラマはどちらの局も定番にしている。


安定した視聴率は人命救助の賜物で医療ドラマの強みであった。


トレンディ俳優は医者は演じない。医者だけは頑として演じない。


ちょっとした脇役で医療関連コマーシャルとかも断っていた。


「さあっ~なあ。俺はセリフ覚えが鈍いから」


わけのわからない医学用語なんぞからっきしダメ。


「一言も医者のような発音できない頭だからな」


ねちねちと医者という特権階級に対し皮肉を言いたい。


ご託を並べ立てては不満を言い出すありさま。


「マネージャーさんよ。わかったんだろ。正直に言いなさいな。答えがわかったんだろ」


女子大生のような可愛いマネージャーの胸元をギュッとしめつけ壁越しに押しつけた。


Yahoo!でこっそり検索してわかったと思うがよぉ


「トレンディ俳優さまの正体とやらだ」


目も眩む有名進学高を3年で中退して今のプロダクションのタレント発掘オーディションに合格する。


タレント採用合格の際に背が高くハンサムなことはもちろん条件にあった。


さらには高校の名も金字塔のごとく光輝いていたのである。


大卒のプロダクション社長が憧れていた有名高の名前が合格の決め手となっていた。


スカウトをされてからのタレントとしての道のりは順風満帆。


苦節何年の暗いイメージの大部屋生活とはとんと無縁である。


本人の才能とプロダクションの売り方。


見事に時代にマッチしたトレンディドラマという部門。


「ダクションの社長さんには感謝しているぜ。右も左もわからぬ芸能界へガキの俺を導いてくれた」


恩義があるから我慢に我慢をし面白くもないドラマに出演。


小遣い稼ぎにコマーシャル出演している。


社長の顔を立てて依頼されて来た仕事はこなしていた。


タレントや俳優で売れてしまえばそれなりのギャラ収入も見込まれていた。


だが"医者の役柄"だけは断った。


どうしても嫌でありやらないのである。


「ネットを見たんだろ。俺の誹謗中傷のひとつに"医者コンプレックス"がなかったかい」


トレンディ俳優は進学校からひたすら医学部を狙っていた。


在籍した学校のレベルから見たら"贅沢さえ言わなければ"私大医学部ならどこかに引っ掛かり医者になれたのである。


「図星だろっ」


マネージャーをしめつける手を弛めた。


俳優のデビューしたての頃に雑誌インタビューに答えている。


「進学高出身なんですね。お友達は大半が…」


難関大学に進学することは理の当然であり常識である。


インタビュアももちろん知っていた。


「医学部に行こうかと」


迂闊にも医者へのこだわりを話してしまう。


「お医者さんになるつもりだったんですか。頭良さそうですもんね」


誘導尋問的なインタビュー口調に"江戸時代からの医系"とすらすら答えてしまう。


この何気ない医者の息子インタビューが独り歩きをしてしまう。


先祖代々医者


医者の家系


"挫折感の医学部"


"高校中退だが良いとこのお坊ちゃん"


これからがタレントや俳優として活躍の場を芸能界に求める矢先である。


医者だ医者だとオンパレードとなって噂されていた


「なんでこうなるんだ。祖父や親父は医者だ」


役者になる俺とは関係ないじゃあないか


インタビュー記事を見せられ激しい自己嫌悪に陥ったのである。


医者嫌いに追い討ちを掛ける。


双子の弟が祖父や父親と同じ大学医学部に現役合格を果たしていた。


高校をドロップをしたことから父親と院長の祖父と対立。


家出同然に芸能界に生きる道を見いだしていたのである。


「そうだぜっ。俺は医者の息子さ。調べてわかっただろっ」


高校もろくろく卒業できない落ちこぼれ。それが俺さまさ


情けないことになっ医者の家に生まれたお坊ちゃんさ

「俺は医者が嫌いなんだよ。人道主義だとか救命治療だとか。ちゃんちゃらおかしいぜ」


トレンディ俳優という肩書きは彫りの深いハンサムな顔つきだけで手に入れたわけではなかった。


代々続く医系という育ちのよさが演技の中に滲み出ていた。


医学部に進んだ双子の弟に対して


胸の奥底には医学部に対するわだかまりと学歴コンプレックスがあった。


院長の祖父は双子の男の子が誕生したことをたいそう喜んだ。


江戸から続く医系の後継ぎが二人も誕生したからである。


双子は生まれた瞬間から医者になることを義務づけられて育てられていく。


教育大附属小学校時代は双子にたいした学力差はなかった。双子はよく遊びよく学んでいたのである。


学力に差が現れたのは中高6年一貫校に進んでからである。


秀才タイプの弟は優秀な血を祖父から受け継いだのか常に試験はトップである。

中高の6年間はトップ以外の成績を記録した記憶がないほどだった。


一方双子の兄は…


先祖代々の医院の長男は


中学入学から成績はどうにも芳しくないのである。


難関中学の突破は優秀な弟と抱き合わせに温情から合格していたのではないか。

父兄の間に良からぬ噂が流れるほどであった。


中学から高校に進学を果たすと落ちこぼれの(てい)を見せてしまう。


「兄貴はダメだっ。なにも長男だからとして医者にすることもない」


高校の学業を嘆いてしまう。


院長は医学部にいくのは弟だけではないか。


次男坊に医学部の期待をかけ始める。


双子ともかわいいのは父親である。


兄に家庭教師をつけ学習塾へ入れ成績アップを願ったのである。


だが親の心通わず。


元来から詰め込み教育の苦手なタイプである。


高校の成績は一向に上向かないままである。


これが普通レベルの並みな学校ならば学内成績のあがることを実感するものではあるがいかんせん難関進学校のことである。


「ちくしょうもうやめだ」

俺はバカだ。


「いくら勉強しても覚え切れない」


中学の半ばあたりで蹴躓(つまず)いた数学や英語は復活しない。


基礎的な学習をおざなりにしたツケは如実。


埋めても埋め合わせできない溝があった。


高校の授業進行は至って早くある。いずれの生徒もついていけないとなると落ちこぼれていくしか道がなかった。


高校2年の夏休み。


双子はまったく異なった行動に出る。


弟は


大学医学部受験予備校に通いたいと申し出た。


兄は


せっかくの夏休み。


のんびりとしたいとパスポートを申請し欧州諸国へバックパッカー(自由旅行)を計画した。


「なんだって海外旅行に行く?高校生がヨーロッパに行きたいだとぉ」


医学部受験まで2年後だから。まだ時間はあるものだが。


「兄はなにを寝惚けたんだ。昨夜なにを食べたんだ。食あたりを起こして気が変になったんだ」


内科医の祖父は聴診器を取り出して頭の中身を診察をしてやろうとした。


「夏休みに海外に旅行だとっ。正気の沙汰でないことをよくノウノウとノー天気に言えたもんだ」


ただでさえも学業が遅れがちだというのに


結果として兄を見下してしまう。


祖父も父親も当然に是として承知しない。


頑固な兄は受け付けない。

「高校生の夏休みは貴重なんだ。それに欧州では英語の勉強にもなるんだ」


親子2代の猛反対もものとせず。


兄はスタコラと飛行機に載って英国ヒースローに飛び立ってしまう。


働いていない高校生が海外旅行する。


その費用はどうしたのか?

「なっない!おい私のクレジットカードがない」


祖父の部屋は悲鳴があがる。


高額取引が可能なクレジットが三枚紛失。カードの管理は厳格にしておりすぐさま孫の仕業だと判明する。

ひょいっとポケットに入れて軍資金として我が身のものとしてしまう。


ロンドンに蟠りなく旅立ってしまったのだ。


「アハハッおじいさん。こりゃあ孫に一本やられましたなあ。お気の毒なことです」


父親は暢気にも院長の失態に大笑いをした。


うん?


待てよ


クレジットカードがないのは祖父だとわかった。


念のため父親はクレジット取引を銀行に問い合わせてみる。


父親のカードは無事に盗まれずにあったのだが。


「ハイッお客さまのクレジットで航空便の往復券が引き落としでございます」


賢いことに引き落とし金額が発覚をするのは2ヶ月も先のことだった。


「なんだよ。オマエだってアハハッ!極めて間抜けな父親じゃあないか」


息子の管理ぐらいしっかりしてくれ


後日に親子2代で意気消沈である。


勉強一筋に打ち込むエリートの弟。


医学部は諦めてか自由奔放な生き方を自ら求める兄。

二卵性双生児はやがて決定的な分岐点を迎えてしまう。


勉強をしなくなった兄は秋辺りから繁華街に出没することになる。


有名進学校の学生服は街を歩くだけで充分目立つのである。


「ヘェ~あなたって本当にあの学校なの」


まずはお嬢様の女子高生から近寄ってくる。


本当に生徒なのかとわざわざ数学の問題を解かせ"確認"をする女子高生もいた。


「だって。高校の学生服なんて街の服屋さんでいくらでも買えるもん」


"偽学生"と疑われたがそれも無理のない話である。


勉強ばかりしている学校がバカな学校ばかりの遊び場に突如現れたのである。


「ねぇあなたって大学は行かないの。珍しい人ね」


背が高くハンサムな顔立ち。チラッと見る横顔などは賢さが滲み出てもいた。


「大学?行くよ」


誰がいかないなんて言った。


決めつけるなよ


高卒で社会に出てなにが役に立つというんだ。


バカを言うのも休み休みにしてくれ


「だって受験生なんでしょ。毎日毎晩お勉強していなくちゃいけないんでしょ」

見るからに育ちのよいお嬢様たちである。


女子高の名前を聞けば女子大までエスカレーターの学歴である。


「君はいいなあ。勉強しなくても大学に行けるんだなあ」


勉強しなくても有名女子大へ進学できる女子高生が微笑んだ。


勉強しても


もがいても


学業の成績は上がらずの医者の息子。


難関医学部は夢と遠くなり私大医学部にしか進学できない運命が待つ身である。

この女子高生お嬢様は偶然にも医者の娘であった。


「男の子は大変ね。私は女の子で良かったなあ。女子大卒業してどっかのお医者さまと結婚だもん」


現在中学生の弟は学習塾に通い将来は医学部にいけるように道をつける。


「弟さん。医学部は大変だなあ」


医学部


医者の息子は医学部にいくのである


医学部


合格しなければ医者にはなれない


「僕は来年が(医学部)受験生だけどね」


同じ境遇だと知りふたりは意気投合し仲良く繁華街でうろちょろするのである。

背の高い高校生と育ちのよいお嬢様のカップルは一際目立つのである。


繁華街をデートしていた時のことである。


「あれっ?」


見知らぬ男に呼び止められる。


ちょっと


その高校生の君っ!


お嬢様と手を繋いで歩いていたのである。


「うん?なんの用でしょうか」


二人はクルリっと振り向いた。


「おおっこれはまた」


美男美女のカップル


お似合いではないか


男はにっこりして名刺を差し出した。


後にお世話になる芸能プロのスカウトマンである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ