ドロップアウト①～トレンディ俳優
若い女の子の憧れがテレビに出てくるトレンディドラマの俳優たち。
ドラマそのものは女の子の憧れを抱き乙女心を揺さぶるトレンディ劇場。
「私はドラマの俳優さんと結婚する！」
強い憧れは夢か現か幻かとなる。
テレビドラマで一番の人気が『ザ・トレンディ俳優』となり不動の地位を得る。
背が高くハンサムな若手の俳優はトレンディドラマに欠かせない存在。
俳優は双子の兄で医者の息子である。
都心近郊にある医学部附属病院。
こちらの外来担当のナースさん。若さが溢れ元気いっぱいである。
女子高生ならば
キャピキャピ
若さの形容であろうか。
「お待たせしました。次の患者さ～ん！」
サアッ～とカルテの名前を見て患者さんを呼ぶ
「では順番に診察室へおはいりください」
ナースは18歳の乙女である。
ウキウキした気持ち。
朝から待ち合いに響く"ナースコール"(呼ぶ声)に張りがあった。
患者とのたわいもない雑談にも若いナースそのものの陽気さが窺い知れる。
「うわあっヤダァ～」
話題がテレビドラマになる瞬間だった。
「イヤ～ン」
18歳の"黄色い声"が鳴り響く。
「昨夜のトレンディドラマ見たの？私泣けちゃった」
良かったなあ。
しくしく泣けて
泣けて
「(患者さんも)感動したんでしょ。素敵ねぇ」
重い偏頭痛に悩む患者さんを前にしてもアッケラカン。
チラッチラッとナース白衣で喜びを見せてしまう。
「ひゃあ～ナースさん。やけに元気いいじゃあないか」
トレンディドラマなんかより
頭にナースの声がキィキィ響いてくる。
「イテイテ～早く診察してくれよ。痛ッタァ～」
笑うと余計に痛みがキリキリっと全身に走るのである。
ピシャ！
ナースはシャッキとし真顔に戻る。
患者さんを睨みつけた。「私っドラマ(恋人)に憧れちゃう」
背が高く素敵なトレンディ俳優さんに一目惚れをしていく
テレビでは憧れの俳優がシンデレラ姫の王子さまを華麗に演じている。
「素敵な恋人なのよ。彼と恋愛するなんて夢物語なのよ」
ナースはドラマにのめり込み。
ワアッ～
イヤ～ン
独り言で赤ら顔になってしまう。
「次の方どうぞ。診察室へおはいりくださいね」
(偏頭痛患者は飛ばし)次待ちの患者さんを優先してしまう。
「オッオイ！頭が痛いのは今なんだぞ～イテテェ」
うっかり！
そそっかしいナースさん
若さと可愛さが患者さんには愛嬌ではあるのだが。
女の子が夢中のゴールデンタイム放映のドラマ。
若い女性をターゲットに夢と憧れをお茶の間に届けている。
若い女の子
恋に敏感なお年頃
夢見心地な
夢にも現実にも恋に縁のない女の子を中心に好視聴率である。
「ねぇねぇドラマ見た？」
ナース仲間は朝の挨拶でドラマありきである。
「見なかった？あっそうかっ夜勤だったからね。残念だわね」
見ていないなら意地でも教えてしまいたい。
「ねっ！わかる？良かったわねぇ」
朝は若いナースがわんさかである。
年頃の娘が3人も5人も狭い裏口から集まる。
寄ると触る。
近い将来のオバサマ井戸端会議である。
挨拶が済んでお互いにロッカールームに行く。
ナースが寄る。
ナースは触る。
話はトレンディドラマだけである。
医療看護という本職など我関せず！
「ああっ私も見たわ。良かったわあ。あのダンディ俳優さん。魅力的よね」
ドラマの可愛いヒロインになれるなら…
ハンサムで優しいトレンディ俳優と恋に堕ちるなら…
「安い給料の病院勤務なんて。石を投げてすぐ辞めてやる」
テレビ各局が放映するトレンディドラマ。
毎回視聴率がよいのだがいずこの番組も脚本は似たり寄ったりである。
(各局とも大差なし)
ドラマは背が高くハンサムなトレンディ俳優がどの局も演じる。
ハンサムだから女の子にモテモテは当然である。
「ああっトレンディ俳優かあっ～」
人気俳優がトレンディな主役を演じるならば
どんなに汚れ役をしても大丈夫。
女の子は憧れている。
一見すると毎回ドラマを見ているお茶の間はマンネリに飽きるのではないかと思われた。
ところが
トレンディ役者に心酔し憧れる若い女の子。
同じような安い話の繰り返しにかえって安心をするのである。
ドラマのエンディングは常に『水戸黄門』であることが大切。
話しのゴタゴタは理解しないがハッピーエンドだけは素晴らしいと感動している。
この感動の最終回が見たいがために毎週欠かさずテレビの前に座るのであった。
ドラマ好評の要因はなんと言ってもトレンディな俳優の存在感である。
ナースは口を開くたびに
ため息である
憧れの俳優にオノロケ
「私は思うけどさぁ」
トレンディドラマの基本設定は昔からの定番"恋愛話"を繰り返している。
"ハンサム教師と教え子"
新任教師
癌を宣告された教え子の女子高生
"どうせ死ぬんだからっ"と女子高生は自棄を起こすが教師に恋し態度がかわる。
ドラマ最終回の女子高生の最期は幸せな笑顔で人生をまっとうする。
「女子高生可哀想だったけど」
トレンディ俳優の優しさが印象にありたまらなかった。
"パイロットとスッチー"
ハンサムで有能なパイロットに憧れる客室乗務員。
ハイジャックされた機内はパニックに陥る。
機転の効くパイロットは的確な判断力と確かな操縦テクニックで空港に着陸。
乗客の安全を第一に犯人らを警察に逮捕させる。
その助力にヒロインのスッチーがあった。
"青年映画監督と新人女優"
大学を出たばかりの新進気鋭な青年監督は有能さから助監督をスキップして処女作をクランクインする。
毎年大部屋住まいのままで一皮剥けない冴えない女優がヒロインとなる。
そんな最中に偶然にもヒロイン役の有名女優。
不倫のスキャンダルに巻き込まれ役を降板させられてしまう。
ふたりの運命の糸はきっちりと結ばれていくのであった。
世の中の女性を虜にするトレンディドラマと言えども一般的にありがちな男女の恋の繰り返し。
ごく普通にある恋愛をさりげない配役キャストでドラマ化しているだけに過ぎない。
ナースなど若い女の子は休憩室でお茶をしながらドラマのストーリーを一通り話し結末まで決めつけてしまう。
次にはお茶菓子をごそごそと袋から取り出してみる。
本腰を入れての話はトレンディ俳優の品定めとなる。
いろんな役者が演じているトレンディドラマ。
出演する俳優は似たり寄ったり。
患者さんからの差し入れや買い集めたお菓子やケーキ類は雑談の盛り上がりとともに消えていく。
話せば話すほどお菓子は口に詰め込まれガバガバとジュースで押し流されていくのであった。
『トレンディ俳優』とは一過性の単なる流行り病いであろうか。
ドラマにどっぷりはまったナースたち
トレンディ俳優に恋をした翌朝には
シンデレラ姫にあるカボチャの馬車
病院の玄関先に全ナースを前にして現れることを真剣に想い描く。
「ある日突然に」
かわいい18歳の白衣の天使に王子さまが現れるのよ。
あまりにナースはかわいいから
神様が天使に王子さまを
巡り合わせてくれますの
昨夜見たドラマを思い出してはトレンディ俳優を恋い焦がれていく。
「ああっ～王子さま！」
もうっ
「ため息が出ちゃうなあ」
パンッ
ナースは自らを律して夢から醒めてしまう。
白衣の身だしなみを整えるとテキパキ外来病棟に向かうのである。
「今日も患者さんが私を待っているもん」
