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【延長戦】  好き? 嫌い? 1歩の距離で・・・



 俺はしばらく呆然とその場に立ちつくした。

 さっきまで熱を感じていた手のひらを胸の高さまで持ち上げてまじまじと見つめる。花音が何か言う直前に握り返した気がしたのは、気のせいじゃなかったよな?

 いまいち、自分の耳に自信が持てず、自分の手と、離れたとこで友達と楽しそうに話してる花音を見比べる。

 そこに山口がやってきて肩にぽんっと手を置かれて、びっくりする。


「花音ちゃん、なんだって? 」


「ああ、好きって……言ってた気がするんだが……」


 俺はなんとも情けない声で、山口に聞いた。


「なんだったんだ?」


 そこだけ話しても分かるはずがないのに、山口が苦笑して言う。


「ふーん。やっぱり、花音ちゃんは香川の事が好きなんだね」


 その言葉に呆然と目を見開いて、山口を見る。


「あれ? 気づいてなかった?」


 そう聞かれて、頷く。


「そっか……花音は俺の事、好きなのか……?」


 まだ実感が湧かなくて、なんだか納得できない。


「で? 香川はどうするの? 奈良さんって彼女がいるんだから、やっぱ断るの?」


 複雑な表情の山口に聞かれて、ため息をつく。


「奈良は彼女じゃない、ただの部員とマネージャーだよ……」


「えー、なんだよそれ。もててるのにいままで彼女作んなくて、やっと彼女作ったんだと思ってたんだけど。俺が聞いた時、否定しないしさ?」


 山口が苦笑し、俺もつられて苦笑いを浮かべる。


「じゃあ、断んないよな? 花音ちゃんの事? それとも、他に好きなやついるのか? 香川のそーいう話、いままでほとんど聞いたことなかったけど」


 そう言われて、俺はぼそっと答える。


「いるよ、好きなやつ。ずっと五年間片思いしてる……」


「えっ、五年!? 中一から? ……えっ、それってひょっとして花音ちゃん?」


 俺は笑うしかなかった。



  ※



「じゃーねー」


 そう言って散り散りに帰って行く中、俺は宮城さんと長野さんと一緒にいる花音の所に行った。


「ちょっと、いい?」


 そう言う俺に、仰ぎ見る宮城さんと花音、にやにやと訳知り顔でにやつく長野さん。俺は、花音をじぃーっと見た。花音は、宮城さんと長野さんを交互に見ると、私? っと指で自分を指して首をかしげる。


「はいはい。いってらっしゃーい」


 そう言って花音の背中を押す長野さんと手を振る宮城さんを後に、俺は歩きはじめた。その後ろを、花音がちょこちょこと小走りについてくる。しばらく歩いたところで、俺は振り返って、花音に聞いた。


「なあ、さっきなんて言ったの?」


 その言葉に、ぱっと顔をあげた花音と目があって、その澄んだ瞳を見つめる。花音は、みる間に顔が赤くなって、視線を手元にそらした。


「えっと……」


 口ごもる花音。


「“好き”って言ったよな?」


 俺は一言一言確かめるように静かな声で言って、俯く花音の顔を覗き込んだ。久しぶりに間近で見る花音は、もうあの眉間にしわを寄せた顔ではなくて、まっすぐな瞳で俺を見ていた。

 俺は初めて見る真剣な表情に、口元がほころんだ。

 すると、花音が一瞬びっくりした顔になり。


「言ったよ……」


 花音が苦笑して言った。



 この五年間、決して自分に向けられることのなかった笑顔を……ずっとほしいと思っていた花音の笑顔を、やっと手に入れることができたんだ、と実感する。

 俺は満面の笑みを浮かべて、花音にがばっと抱きついた。


「好きだ。俺も花音のことが好きだ!」


 そう言った俺の腹を、ぐいぐいっと花音が両手で押して俺の抱擁から抜け出して、ぎゅっと眉間のしわを寄せて言った。


「うそっ、香川は私のこと嫌いなんじゃ……」


 その言葉に、こめかみが引きつる……

 さっきまでの笑顔が一転、また眉間にしわを寄せた顔を向けられ、イライラとした感情が胸を占める。

 俺は思わずすごい剣幕で聞き返していた。


「はっ? なんで、そうなるんだよ!」


 っと言ったが……

 過去の自分を振り返ると……、そう思われても仕方がないことを自分がしていたと自覚し、二の句が継げなかった。

 花音は、頬を膨らませ不服そうな顔で俺を見上げてる。


「えっと、その……中学の時は、いろいろ意地悪して悪かった。本当はずっと、仲良くしたいって思ってたのに、そうできなくて……」


 そう言って頭を掻いて、視線を落とす。そんな俺に。


「私だって、ずっと香川の事が大嫌いだったんだから!」


 花音が放った言葉に、不覚にも胸が痛む。恐る恐る花音の顔を見ると、怒った顔から。


 にこっ。


 予想外の満面の笑みで。


「でも……大嫌いだったけど、好きだったみたい」


 照れた顔で花音が言った。

 俺は目を見張り、それから真剣な瞳を向けて花音に言った。


「俺だって、ずっと花音の事が好きだったよ――俺と付き合ってください」


 そう言った俺に、花音がこくんと頷いて、ゆっくりと一歩俺に近づき、そっと腕を俺の背中にまわして抱きついてきた。

 ドキンっ。

 鼓動が早鐘を打ちはじめる。



 俺をかわいいと言わなかった初めての子。

 彼女をみるとイラついた。

 どうしてそんな気持ちになるのか全然わからなかったが、彼女の顔を見てイライラと胸がざわついた瞬間、俺はすでに恋に落ちていたのかもしれない。

 好きと嫌いの間の距離で、俺は一人、もがいていたのかもしれない。

 どうしてこんなに、恋は難しいんだろうか……




あと1話、おまけの話が続きます。

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