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【後半戦 2】  秘密を知る者、秘密をうちあける者



 十二月二十三日、マネージャーの奈良と約束してた買い物に付き合い、プランタンに行く。買い物中、奈良の誕生日が先週の日曜だったと聞いて、奈良が可愛いと言って見ていたキーホルダーをプレゼントした。

 昼時になり、ファーストフードに向かう。日曜祝日はレストラン街は大混雑するが、レストラン街から外れたところにあるこのファーストフードは、場所が遠いという理由からか割と空いている穴場だった。

 お店に入り注文をして、席に向かう。空いていると言っても、さすがクリスマス前だけあってここも混み始めていた。

 どこか空いてる席はないかと視線を巡らせた時、窓際の席に座った山口と千葉花音が視線に飛び込んだ。

 なんで、山口と一緒にいるんだ?

 もしかして、付き合い始めたとか……

 まっ、まさかな、ありえないよな。

 そんなことを考えてぼーっと立ってると、山口と目があう。


「山口」


 気がつくと、俺はそう声をかけていた。

 千葉花音が振り返り、目が合う。どきんっ。胸が早鐘を打ちはじめる。


「おう」


 山口が片手をあげて返事をしたので、俺は奈良を振り返って視線で促し、窓側の席へと行った。

 山口と千葉花音が、俺と奈良を交互に見ていることに気づき、奈良が挨拶する。


「こんにちは、理桜の友達の山口君だよね」


「えっと、君は……」


「A組の奈良 佳世子です」


 奈良が名乗って、頭を下げる。それにつられて、千葉花音も会釈する。


「席、空いてないみたいだから、一緒にいいか?」


 俺は山口に聞いて、それから奈良を見た。山口君は頷いき、奈良も笑顔で了承する。俺は山口の隣に、奈良は千葉花音の隣に座る。

 奈良が愛想のよい笑顔で言う。


「山口君の彼女?」


 俺が聞きたくても聞けないことを、奈良がすんなりと聞いて、ドキンっとする。

 そう聞かれて、山口が爽やかな笑顔で千葉花音を紹介する。


「友達の千葉花音ちゃん、今日は映画見てきたんだ」


 その言葉に俺は安堵する。なんだ、付き合いだしたわけじゃないんだな。

 俺がそんなことを考えてる間、隣で三人はなにやら楽しそうに話していた。俺が会話に加わると、おそらく千葉花音とまた言い争いになるだろう……それだけは避けようと、あえて会話には加わらず窓から外を眺めていた。



「あっ、ちょっとお手洗いに行って来るね」


 そう言って奈良が席を立つと、山口が小声で言った。


「なんだよ、彼女の誕生日だったなら先に言ってくれればよかったのに。ってか、いつの間に付き合いだしたんだよ?」


 そう言う山口。

 いやいや、付き合ってないし。そう心の中でだけ否定する。


「別に」


 俺がそれだけ言うと、山口が苦笑した。


「あいかわらず、淡白だな……」


 そう言って会話が途切れたと思ったら、千葉花音に向き直る。


「あっ、花音ちゃんは誕生日いつなの?」


「えっ?」


 山口にそう聞かれて、千葉花音は目を見開いて驚いていた。


「えっと……」


 千葉花音がすぐに答えないから、俺は山口に言った。


「山口知らないのか? こいつの……」


 誕生日は明日……そう言いかけた時、奈良がトイレから戻ってきた。


「ん? 何の話?」


 そう言った奈良に、ぎこちない笑みを見せて千葉花音が言う。


「ううん、なんでもないよ」


「そう?」


 奈良は首をかしげる。俺は、あえてその話題を続けようとは思わず、また窓の外を眺めた。

 その後、昼食を取りながら俺を除いた三人が楽しそうに会話を続け一時間ほどしてから店を出る。店の前で山口と千葉花音と分かれ、奈良とも駅まで一緒に行ってホームで分かれた。



  ※



 次の日、十二月二十四日。終業式が終わると、部室へ向かう。明日から三日間、サッカー部の集中合宿があり、そのミーティングのためだ。

 ミーティングが終わって帰り支度をしていると、部長に呼ばれる。


「おい、香川。マネージャーと一緒に買出し行って来てくれるか?」


 そう言われて、しぶしぶ、奈良とプランタンに向かった。今日は早く帰って、家でゲームするつもりだったが、部長に頼まれては断れない。高校から一番近くて大きなスポーツ用品店はプランタンの中にある。どうせなら、昨日来た時に、買出しもついでにすればよかったのにと胸の中で愚痴るが、仕方ないか。

 プランタンの一番奥にあるスポーツショップに向かおうとメインゲートから入って歩いてると、ベンチに座っている千葉花音に気づく。

 誕生日にこんなところにいるってことは、今度こそデートか……

 急に胸がざわざわしだし、気が付いたら声をかけていた。


「……千葉花音?」


 俺の言葉に、千葉花音は眉間にしわを寄せた顔で振り返った。振り返った彼女に奈良も気が付き、声をかける。


「花音ちゃん? また会ったね。今日は一人?」


 千葉花音は、奈良を見ると少し表情を緩めて言う。


「えっと、山口君とか友達を待ってて」


 その言葉に、ピクっと耳が反応する。また、山口と一緒なのか? 俺はイライラして、ギロッと千葉花音を見た。


「あんた、こんなとこでなにやってるの?」


 誕生日も山口と過ごすのか?

 そう言った俺に対して、千葉花音は立ちあがって足元を見て言った。


「だから、山口君や友達とクリスマスパーティするから待ってるの!」


「はっ? クリスマス? だって、今日はあんたの……」


 誕生日だろ? なんで、誕生日祝いじゃなくて、クリスマスなわけ?

 そう聞こうとした時、タイミング悪く山口とクラスメイトが数人やってきた。


「花音ちゃん、お待たせ!」


「あっ、山口君」


 千葉花音は山口を見るなり駆けよって、安心したように笑いかけた。

 俺には見せないその表情に一段とイライラし、胸が締め付けられるように痛んで彼女から目がそらせなかった。

 そんなに、山口がいいのかよ……

 俺の視線に気づいて千葉花音が山口に隠れるようにする。俺は苛立つ気持ちを抑えて、山口を呼んだ。


「山口、ちょっと」


「なに?」


「これから本当にクリスマスパーティーするのか? なんで今日なんだ? 他の目的があるとか……」


 俺がそう聞くと、山口は首をかしげて。


「いや、クリスマスパーティーっていうか、ただカラオケするだけだけど? 宮城が言いだして誘われたんだ」


「……そっか。じゃな。奈良、買出し行くぞ」


 前半は独り言のように呟いて、奈良と一緒にスポーツショップに向かった。



 千葉花音にだけはわざと“クリスマスパーティー”って言って、本当は誕生祝いするのかと思ったが、そうではなく山口は本当に今日が誕生日と知らないみたいだった。

 そういえば昨日、誕生日の話題になった時、千葉花音は困った顔をしてあせって話題を変えようとしてた。もしかしなくても、千葉花音は今日が誕生日だって友達の宮城さんにも山口にも言っていないのか? 秘密にしてる――?

 そこまで考えて、疑問に思う。普通、誕生日って、祝ってほしいものだよな……?

 スポーツショップで、買出しリストを見ながら商品を選んでいる奈良から少し離れたところで籠を持って立っていた俺は、シップやスポーツドリンクを持って戻ってきた奈良に聞く。


「なあ、誕生日って祝ってほしいもんだよな?」


 突然の質問に驚く奈良だが、こくんと頷く。


「じゃあさ、誕生日を友達に秘密にしておくってなんでだと思う?」


 奈良は少し考えてから。


「誕生日が嫌いだからかな? その日に嫌なことがあったとか?」


 誕生日に嫌なこと? クリスマスイブが誕生日だったら華やかで楽しいだろうに、なんで祝わないんだ? 俺は祝ってやりたい……

 そう考えて、胸がどくんっと跳ねる。

 ははっ。

 俺、いまだに千葉花音の事好きなんだな。今更、自分の気持ちに気づいて笑えてくる。

 そんな俺を見て、奈良が少し寂しそうな顔で苦笑する。


「私だったら、好きな人にお祝いされたらうれしいなぁ……理桜に、お祝いされて嬉しかったな……」


 その言葉に、奈良が俺の事を本気で好きだったんだと気づく。でも、俺は……


「悪い。奈良の気持ちは嬉しけど、俺は――!」


 そう言いかけたとこで、奈良が俺の口にひとさし指をたててあてる。


「花音ちゃんが好きなんでしょ。見てたら分かるよ、好きな人の事だもん」


 奈良はそう言って、はっとする。


「もしかして、花音ちゃんの誕生日って今日? それならお祝いしてあげないと!」


 にこっと笑って言う奈良。


「いや、でも、あいつは友達にも秘密にしてるみたいだし……」


「それなら尚更、お祝いしてあげないと! お祝いしてあげられるのは、誕生日の事知ってる理桜だけじゃない?」


 首をかしげて言ってから、パンパンっと大きな音を立てて、奈良が手を叩く。


「はいはい、買出しは以上で終了でーす。理桜は自分が行きたい所へ行ってくださーい!」


「でも、一人じゃ荷物重いだろ?」


 しぶる俺の背中を押して。


「これくらい大丈夫だって。行って! ねっ?」


 奈良が言って、にこっと笑った。その笑顔に、俺は笑い返す。


「ありがと、奈良」


 俺は駆けだした。

 俺の行きたい所――千葉花音のところへ。

 そして、彼女の誕生日を祝ってやりたい。そうして、もし、彼女の笑顔を見れたなら、俺は――




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