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【後半戦 1】  偶然真理



 十二月になってすぐ、クラスメイトの山口にクリスマス前の日曜にある合コンに誘われる。気は進まなかったが、ちょうど部活も休みの日だったし、たまにはいいかと行くことにした。

 その日、部活が早く終わり一人駅前のCDショップにいた。店内は有名なものから新しいものまでいろんなクリスマスソングが流れていて、クリスマスが近いことを実感する。

 久しぶりにきたCDショップで、欲しかった新曲を視聴していると、ぽんっと肩を叩かれて振り向くと、ストレートの黒髪が視線に入って、一瞬ドキンっとする。胸の奥底に閉じ込めてた感情がじわじわと、すきまからにじみ出す。

 目を見張った俺は、顔を見てそれが奈良だと気づきほっと溜息をはく。


「おう」


 ヘッドフォンを外して、片手をあげる。


理桜(りお)、偶然」


 そう言って奈良が笑う。奈良は、部活中はいつも結んでいるストレートの黒髪をさらっと後ろにながしていた。


「めずらしいな……」


 そう呟いた俺に、首をかしげる奈良。


「いつも結んでるから、一瞬、誰か分からなかった」


 その言葉に頬が赤くなった奈良はうつむいた。

 俺は、奈良と間違えた彼女を二年ぶりに思い出し苦笑いする。


「理桜、あのね、私……とつきあって」


 少し昔のことを思い出していた俺は、適当に相づちを打った。


「ああ……」


「ほんと? あのっ、じゃあ今週の日曜日って部活休みでしょ? その日会えるかな?」


 頬を染めてる奈良を見て、彼女がどんな意味で「つきあって」と言ったのかに思い至り、適当に相づちを打ったことを後悔する。だから、あえて聞き直さずに、買い物に「つきあって」と誤解したふうを装う。


「悪い、その日は先約があって。どこか行きたいの?」


「えっと、プランタンに……、じゃあ23日は?」


 奈良は俺の返事に少しがっかりした顔をして、ぱっと顔をあげて笑って聞いた。


「ああ、大丈夫だと思う」



  ※



 十二月十九日、日曜日。合コンの日。

 高校の近くにあるショッピングモール・プランタンに、クラスメイトの山口と石川と向かう。相手は、山口の中学の同級生とその友達と言っていた。

 プランタンのメインゲートで待っていると、背の高い子と背の小さい子がこっちに向かって手を振りながらやってきた。


「山口! ひさしぶり」


 たぶんこの子が山口の同級生の宮城さんだなと見る。茶色に染めた髪とミニスカートを履いていかにもといったカンジ。

 背の高い子は、俺と同じくらいの身長で、ポニーテールで縛った髪が元気な印象を与えるが、目と鼻筋が通ってきりっとした美人だった。

 その二人の後ろに隠れるようにして、宮城さんに手を握られている子がいることに気づく。顔は見えず、肩の上で切りそろえられた黒髪が揺れている。身長は宮城さんと同じくらいだろうか。パンツスタイルは長身美人の子と同じだが、チュニックを合わせて女の子らしい恰好をしていた。

 そんな風に三人を観察してると、宮城さんが山口を友達に紹介しだした。


「彼が、私の友達の山口 健君」


「山口です、こっちにいるのが、石川と香川」


 それに続いて山口が挨拶し、石川と俺を順番に紹介した。俺は軽く頭を下げる。

 すると、それまで宮城さんの後ろに隠れてた子が顔を出し、俺の顔を見て動きが止まった。

 その瞬間、俺は目を見張る。中学の時は腰まであった長い黒髪が今は短くなっていて、まさか彼女とは思わなかったから……


「……千葉花音?」


 俺は彼女を指さして聞いた。俺の声に、彼女はぎゅっと眉間のしわを深くする。


「香川理桜……どうしてあなたがいるの?」


 そう言った彼女の顔を見て、俺は、目の前にいる彼女が確かに千葉花音だと確信して、久しぶりに見る顔に、数日前から俺の胸の底でゆらゆらとくすぶってた気持ちが、ついにあふれだした。



 カラオケ屋に着くと、女子三人組はトイレと言って席を立った。女子がいなくなったカラオケルームで。


「香川、中学の同級生と偶然の再会だなんてすごいな?」


 そう言ってこっちをにやにや見る石川を、俺は無視した。

 千葉花音と合コン、なんて似合わないんだ。きっと、宮城さんに無理やり引っ張られて来たとかそういうことか?

 石川の言葉を真に受けるわけではないが、偶然の再会に少しうかれていた。この機会に、千葉花音と少しは親密になれるかもしれない……そんな淡い期待をもつ。


「千葉花音ちゃんって言ったっけ? 香川の中学の同級生。かわいい子だな」


 その山口の言葉に、ぴくっと耳が反応する。

 二年ぶりに会った彼女は、確かにかわいくなっていた。中学の時長かった髪もとても綺麗だったが、ボブヘアがとても似合っていて、一段とかわいく見えた。



 女子たちが戻ってきて、自己紹介を始めた。


「では、改めて自己紹介します! 宮城 順子です」


「長野 悠です」


「……千葉 花音です」


 彼女は小さな声でそう言うと頬を染めて俯いた。俺は、相変わらず人見知りなのかと中学時代のことを思い出していたが、その純情な雰囲気が山口と石川の胸にぐっときたのだろう。


「花音ちゃんって名前かわいいね」


「香川と同級生だったってほんと?」


 山口と石川に交互に話しかけられて、彼女は震えていた。


「えっと……」


 なんとか喋ろうとしている千葉花音を山口と石川がじろじろと見ている。少し恥じらっておどおどとしている様子はかわいらしい。そんなかわいい千葉花音を、これ以上、他の男に見せたくないと思った。彼女に見入るのが許せなくて、ドカッと机を蹴って、リモコンを取る。


「なんか曲入れていい?」


 机を蹴った音に驚いて、一斉にみんなが俺を振り返る。俺はその視線を気にせず、この間CDショップで聞いた新曲を入れて、歌いはじめた。

 曲が流れたことで室内が暗くなり、千葉花音への注目もなくなり、みんな次々と曲を入れる。

 歌っていた宮城さんは、歌い終わると俺の側に来て。


「香川君、隣に座ってもいいかな?」


 そう言って俺の返事も待たずに、隣に座った。


「ねね、香川君てかっこいいね! もてるでしょ~?」


 この数年で身長もそれなりに伸び、かわいいと言われることも少なくなった。合コンで、こう聞かれることは普通だ。


「そんなことないよ」


 俺は、にこっと営業スマイルで答える。基本、女子には優しいし、千葉花音の友達ならば尚更適当に返事をするわけにはいかないと思った。


「えー、ホントに? じゃあさ、彼女はいるの?」


 その質問の返答には困る。彼女はいないが、宮城さんがその気で聞いているのは分かる。いないと言って、変に期待を持たれたり、言い寄られるのは困る。そう思って。


「あー、好きな子はいるよ」


 そう言うと、宮城さんは明らかに残念そうな顔をして、それからぱっと石川の隣へと移動して行った。

 俺はふぅーとため息をはく。

 彼女に再会できたこの合コンに来てよかったと思ってたが、色恋沙汰の煩わしい会話をしなければならないのは少し苦痛だった。

 ふっと視線を感じて顔をあげると、長身美人の長野さんが俺をじっと見ていた。

 俺と目が合うと、くすっと意味深に笑って、横を向いた。

 なんだ?

 何を笑ったのか分からなくて、首をかしげる。

 この合コン……やる気満々が二名、意味深な発言や行動をするのが二名、合コンに興味がないのが二名……変な合コンである。

 長野さんが歌いだし、横を見ると、山口が千葉花音の隣に座って楽しそうに話していた。山口がにかっと白い歯を見せて笑うと、彼女が顔を赤くして笑っていた。

 その瞬間。

 考えるよりも先に体が動いていて、俺は千葉花音の隣まで行くと隣に座っていた宮城さんを押しのけて、どさっと勢いよく椅子に座った。

 千葉花音が、びくっと体を震わせてこっちを振り返り、俺を見るなり叫んだ。


「なっ、なに!?」


 俺は千葉花音を無視して、テーブルの上のジュースを飲み干す。


「なに?」


 もう一度千葉花音が叫んだ。顔を見なくても、眉間にしわを寄せてるだろうと想像がつく。見てもいないその顔にイライラしはじめて、空になったコップを持って、部屋を出た。

 ドリンクバーコーナーに着くと、はぁーと大きなため息を一つ。カウンターにコップを置き、腕をついてうなだれた。

 俺はまた、なにをやってるんだろうか……今度こそ、普通に優しく接しようと心に決めていたのに。

 千葉花音と普通に話せてる山口にいらつき、笑顔を見せてる彼女にいらつき……いてもたってもいられなかった、二人の仲を、邪魔せずには――

 とは言っても、それ以上邪魔をすることもできず。

 山口と笑い合っている千葉花音を見ていたくなくて、俺は目をそらした。たとえ偶然の出会いだろうと、俺と千葉花音では相容れることがないのだと思い知らされただけだった。

 そうして、千葉花音との二年ぶりの再会は、接点のないまま幻のように終わってしまった。




【後半戦】から高校生編です。

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