【ハーフタイム】 その日、別たれた運命
二年のクリスマスイブ。前の彼女と別れてから数週間。
一年の時同じクラスで、今は隣のクラスになった女子に映画に誘われてプランタンに行った。その子がどういうつもりで映画に誘ったのかは薄々気づいていた。映画を観終わってからクリスマスツリーを見に噴水広場に向かうと、その子が立ち止まり俺の手をぎゅっと握って告白してきた。
千葉花音とは今年も同じクラスだったが、一年の時以来席が隣になることはなく、まともに話せていない。
彼女がいる間は彼女の事を考えていられるが、前の彼女と別れたこの数週間は、千葉花音の事が気になってしょうがなかった。気になりだすとイライラして、千葉花音に話しかけずにはいられなくなった。
俺が声をかけると、あの眉間にしわを寄せた顔をして振り返る。その顔を見ると、また無性に苛立って、優しくしたいと思うのに荒い口調になる。千葉花音はそんな俺に何か言いかけて……きゅっと眉間のしわを深くして歯を食いしばって顔をそむける。
その顔を見て、日増しにどうしようもない苛立ちが胸にくすぶっていた。
だから、彼女の告白に手を握り返して答えた。
※
次の日の終業式。教室で、千葉花音が数人の女子に囲まれていた。
ちらっとそちらを盗み見ると、彼女が腕いっぱいにプレゼントを抱えて満面の笑みで友達に笑いかけていた。
ドキンッ。
胸が早鐘をうつ。初めて見た彼女の笑顔に、胸が締め付けられて、その顔から視線がそらせなかった。
なんだ、あんないい顔ができるんだな……、俺が話しかけるときは、いつも眉間にしわを寄せてるくせに。
そう考えて、千葉花音に対して抱いていたイライラの正体に気づく。
千葉花音と初めて出会った時に見た、眉間にしわを寄せた顔。その顔に惹かれて、彼女の笑った顔を見たいと思ったこと。
友達に向けた笑顔を見て、その笑みを自分に向けてほしいと思った。
俺は今まで、何をしてたのだろうか……
どうして、もっと早く自分の気持ちに気がついて、もっと素直になれなかったのだろうか、そう後悔する。
でも、その後悔と同時に、思い知る。
どうやっても、彼女が自分にその笑顔を向けてくれることがないことを。自分の失恋に気づく。
※
中学二年の冬に付き合い始めた彼女とは、俺の中では一番長い付き合いになる。約一年間付き合い、受験を目前にお互い勉強に専念するために別れる。
それまでに付き合ってきた彼女よりも、いろいろなことを話し、とても大切にしてきたと思う。だから、俺の心の奥に閉じ込めた気持ちに気づいた時も、あえてなにも聞いてくることはなかった。
もし、彼女と別れずにそのまま付き合っていたら、俺の高校生活はもう少し華やかなものになったかもしれない。
俺は、サッカーの強豪校である高校へ進学し、ひたすらサッカーに専念する日々を送る。
相変わらず、告白してくる女子は後を絶たなかったが、いまはサッカーのことで手一杯で付き合うとか考えられなかった。そのうち、告白してくる女子もすっかりいなくなった。
高校二年になり、サッカーに専念することで、中学の初恋をすっかり忘れ始めていた。
その頃から、サッカー部のマネージャーで一年の時クラスメイトだった奈良という女子が、遊びに行こうと声をよくかけてくるようになる。彼女がどういうつもりで声をかけてくるのか薄々気が付いていたが、出かける時はいつもサッカー部のメンバーと一緒で二人きりでということはなく、気持ちを伝えてくる様子もなかった。
もし次に誰かと付き合うのなら、心の底から本気で想い合える相手とがいいと、なんとなく考えていた。その相手として、奈良は近い位置にいたのかもしれない。一人の人物を除いて。
再会することもなければ、忘れ去るつもりだった彼女を除いては――
中学二年のクリスマス――この日が、香川と花音の運命の分かれ道になってしまいました。