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一人百物語 2

落ちてくるもの

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/20


某電鉄会社の整備士をしていた私の弟の先輩の、太田さんの話。


太田さんは弟の会社に就職する前、別の会社でやはり車両整備士として働いていた。

その、以前勤めていた某車庫敷地内に、ある車庫のそばを通りかかると時々、車庫の屋根から何かが落ちてくるという場所があった。

何が落ちてくるのか、はっきり見たものはあまりいない。

大概が、ただ歩いているといきなり上からドスンと何かがぶつかって来て、気がつけば地面に投げ出されてあちこちをしたたか打ち付けていたり、中には骨折する様な大事になった者もいた。

仲間内ではその場所を昼夜問わずなるべく通らない様に、と言われていたが、何せ作業現場であるためうっかり通りかかり、被害に遭う者が時々いた。

ある日、それは太田さんの上にも降ってきた。

太田さんはしばらくその場に昏倒していた様で、通りかかった同僚に倒れているところを発見され、肩を貸してもらって敷地内の事務所に戻った。

幸い打撲程度の怪我で済んだが、自分もあの場所でドスンとやられた、と上司や同僚たちに言うと、皆は何も言わず、またかと顔を見合わせるばかりだった。

「それで、何か見えたか?何だか黒いものが落ちてきたとか言う奴もいるけど」

「……」

少し考え、太田さんは思い出した。

「見た。うん、見た」

「何を?」

「凄い歯の……人間じゃないみたいな、凄い歯がうわぁーっと口からはみ出して並んでる怪物みたいな歯の、でぇ、目ぇひんむいた、赤い凄い顔」

「何だそりゃ」

「さぁ。でもそんな顔だった。ドスンとやられた時、顔だけうわっと目の前に見えた」

「赤い顔って。鬼か?」

「わからん。でも鬼の面よりよっぽど怖かった。歯とひんむいた目が凄くてさ」

「……」


太田さんの言葉に心あたりのある者はなく、皆は顔を見合わせるばかりだった。

件の場所で飛び下りや転落事故等があった、とは誰も聞いていなかった。

「俺の後も何人かやられた。ムチウチで入院した奴もいるし」

と、太田さんは言っていたらしい。


その場所は今も車庫として存在する。



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