「よしならおじさんがその要望に答えてやろう!」
ルミオさんを助けて、ジュリちゃんの弟子になったコト村を離れて数時間後。
俺は頭を悩ませていた。
原因はセバスさんからの一言。
「アルトバス様へはダンジョンに向かうことを説明していますが、なぜ向かうかという理由は説明しておりません。
そちらはシナリオ担当のタケが考えてくださいね?」
ねぇ、なんで事後報告なのかなぁ?なんでもかんでも!
ほんとそう言うところですよ!セバスさん!
毎度毎度……。宰相のハゲの理由、本当はセバスさんなんじゃね?
今度鼻の穴にワサビ突っ込んでやる!
まあ今イライラしても仕方ないので、ささっと切り替える。
王子をダンジョンに連れていく理由ねぇ。
勧善懲悪とダンジョンってあんまり結びつかないよなぁ。
……と言うかまず、ダンジョンってなんなの?俺知らないんだけど。
この世界に来てからの2年間、あまり王城から出てなかったのでこういう世界の常識的なものを知らないのだ。
こう言う時に頼りになるのはいつもミールなのだが……どうも昨日からちょっと様子がおかしい。
先日セバスさんからダンジョンの話が出た時も、1人何かに怯えてた様子だったし……話しかけないほうが良さそうだ。
ならもう1人の頼りになる男に聞くか。
「なあイルゼン。こっそり聞きたいんだけど……ダンジョンってなに?」
イルゼンは俺の質問に少しドン引きを見せた後、まあしょうがないかという表情を見せる。
うん、物を知らない隊長でごめんね?
イルゼンも博識なのだが、物を聞くと基本『隊長だからしょうがないか』みたいな哀れみの目で見てくるだよね。ちょっと悲しくなります。
その点ミールは全力で馬鹿にしながらドヤ顔で教えてくれるので、聞きやすい。
おじさんになると変な同情より、雑な反応の方が気が楽なのよね。
「ダンジョンってのはとある洞窟の名前だな。名前の由来はなんだったか忘れたが……大量の魔物の巣となってる場所だ。
どれだけ倒しても奥から湧いてくるもんで、最初発見された時は危険立ち入り禁止地域に指定されていた。
でも調査が進むにつれて、表層には比較的弱い魔物が居て……奥に進むに連れ強力な魔物がいるといことが判明。
それならば腕試しとして丁度いいと判断され、冒険者協会管理のもと……新米や中堅の訓練場となってる場所だ」
ほほーん?
イメージ的にはやっぱりRPGゲームのダンジョンと同じ感じか。
「ダンジョンには宝箱とかトラップとかはあるの?」
「宝箱ってのは聞いたことないが……トラップはあるぞ。死ぬほど厄介なのがな」
え?どんなの?と聞こうとした時、前を歩いていた王子とセバスさんが止まる。
「今日はこの辺りで野営としましょう。皆さん準備に取り掛かってください」
「「「ハ!」」」
セバスさんの合図で野営準備を始める。
まずは水源の確認と、テントの設営だな。
以前野営した時に水源確認へはミールが向かってくれるのだが……なんだか今1人にするのはよくない気がする。
「イルゼン!水源の確認行ってきてくれるか?」
どうして俺?と言う表情を一瞬見せた後、何かを察してくれたのかそのまま確認へ出かけてくれた。
「フウカ!ちょっと俺たちのテントの設営まで頼んでも大丈夫?」
「はい!任せてください!」
「1人では大変だろう。我も手伝う」
「ええ!?陛下!そんな恐れ多いです!」
「気にするな。どうせ我のテントはセバスが勝手にやる。
それにサバイバル術の基本は学んでいるからな」
「えっと……隊長、どうしたら?」
「では陛下もフウカの手伝いお願いできますか?」
「ああ、任せろ」
よしよし作戦通り。
フウカ1人に任せたら、きっと王子も手伝いに行くと思った。
これでミールと2人になれた。
そろそろ事情を聞いてやらないとな。
「なぁミール?ちょっと大丈夫か?」
「な、なに?」
「いやちょっと気になったことがあって……単刀直入に聞くけど、ダンジョン苦手?」
「え?……いや……そんなことは……」
歯切れわっる!絶対嘘やん。
ただその沈んだ表情。めっちゃ聞いて欲しくなさそう……。
うーん、どうしたもんかなぁ。
とりあえず……
「まあそれならいいんだけど。
もし何か言いたくなったら言ってくれていいからな?
どうしてもダンジョンに入りたくなかったら、俺がセバスさんに土下座してでも無しにしてやるから」
「……ふふ、土下座なんだ?」
「いやいやおじさんの土下座舐めちゃいけないよ?
このへっぽこ具合で2年警備兵やってるんだから!そんじゃそこらの土下座よりめっちゃ綺麗なんだよ!
それに最終兵器……ジャンピングスライディング土下座があるんだから」
「なにそれ?」
「そりゃ天高く舞い上がった後、地面に突き刺さるかの如く深い角度で土下座するんだよ。
あまりの謝り具合に、あの宰相すら笑って許してくれたんだから」
「あははは!それはちょっと見てみたいかも」
「よしならおじさんがその要望に答えてやろう!」
「ああ!うそうそ!いざって時でいいから!今はいいから!」
そっか……と残念そうに俺が答えると、ミールがまた笑顔を見せる。
「どんだけ見せたかったのよ」
「いややっぱ必殺技って見せつけたいじゃん?」
「意味わかなんない。
…………でもありがと、隊長」
「おう、気にすんな!」
「……でも本当に大丈夫。
明日は陛下もいるから、きっと表層に入るだけだろうし。
…………でももし深層に行くってなったら、必殺技見せてくれる?」
「ああ!おじさんに任せとけ」
俺の言葉に安心したのか、イルゼンの水源探しを手伝ってくると言ってミールは立ち去った。
しかし深層になにかあるのか?
なんか死にかけた思い出があったり?
うーん、わからん。わからんがミールがビビるくらいたがら、多分えげつない何かがいるんだろう。
よし、ミールの件関係なく……深層に行こうとしたら全力で土下座しよ!
「フウカ!陛下!遅くなりました!手伝います!」
俺はテント設営をしている2人に合流した。
――――――――――――――――――――――――
テント設営後にイルゼンとミール、セバスさんも合流。
夕食を終えた後、のんびりと自由時間になった。
セバスさんは王子をお願いしますと言った後、どこかに行ってしまった。
ミールも今日は早めに寝たいと言ってきたので、見張り交代は無しでテントで寝ている。
と言うわけで焚き火の周りには俺と王子、フウカの3人となった。
イルゼンは少し離れたところで見張りをやってくれている。
1時間後くらいにフウカと交代するらしい。
ちなみに夜の見張りのローテーションに、俺と王子は入っていない。
え?王子はまだしもお前はなんで見張りやらないの?って?
俺が見張りしたところで誰も守れないし、接近にも気づけないからだ。
つまり全く役に立たない。その為野営時は王子の面倒を見る役と前回の野営で決まりました。
うん、ごめんね?夜中に目の前にでっかいイノシシ出てきて1人で騒いでたのは謝るから。
だからそんなみんなして、役たたねぇみたいな目で見ないで。泣いちゃう。
てな訳で手持ち無沙汰でーす!なにしましょ!?
と、前回はなったのだが……今回はある作戦を立てていた。
と言うのも昨日のコト村で改めて思ったことの実践だ。
俺は王子や親衛隊含む『ヤラセ勇者の冒険譚』メンバーのことを深く知らない。
これからずっと任務で一緒なのに、知らないのは何か悲しいものを感じる。
徐々に知っていけばいいじゃんって話なのだが、こう言うのは誰かが思いっきり踏み込まないとなかなか進まないのも事実だ。
そこで俺はまず最初に王子と仲良くなろうと決めました。だって一応護衛対象だし。
それでどうやって仲良くなろうかなっと思った結果……。
「陛下!今お暇っすか?」
「ん?ああ、特にやることはないが」
「では一緒に呑みません?」
そう言いつつ、俺は荷物から酒瓶を取り出す。
やっぱ仲良くなると言えば飲みニケーションでしょ!
すると一瞬嬉しそうな顔をした後、こう続けた。
「……えっと……流石に野営時に酒は不味くないか?」
出鼻挫かれました。GG。
そりゃそうだわ。俺なんかキャンプ気分だったけど、普通に考えたら魔物すむ森で酒盛りは自殺行為だわ。
てか前回死ぬほどでかいイノシシに襲われかけたのに、なんでキャンプ気分で入れるんだよ俺。
ノーテンキすぎない?あまりの楽観視に自分でびっくりしたわ!
しょげていると、隣のフウカが一言。
「あの……タケ隊長とアルトバス陛下の2人でしたら、少しくらい呑まれても大丈夫だと思いますよ?」
救世主フウカ様!貴方は女神か!
「いやしかしだな……部下に任せて酒盛りなど」
「元々一晩の見張りは私とイルゼンさんで大丈夫です。それにこの森のことは私ものよく知っていますが、そこまで危険な生物もいません。
動けないほど呑まれてしまっては流石に……ですが、多少ですと問題はありません」
「しかし……」
「ほらほら陛下!フウカがそう言ってくれてるんですから任せちゃいましょ!
部下の頼みを聞くのも上の役目ってやつですよ」
「その言葉をこのタイミングで使うのはどうかと思うぞ?」
「まあまあ気にせず気にせず」
俺はすかさず王子にコップを手に渡し、そこへ酒を注ぐ。
「ほら!注いじゃいましたよ?据え膳食わぬは男の恥っていうじゃないっすか!」
「…………それこの場だとセクハラにならないか?」
…………おっと…………。
静かにフウカをみるが、どうかしましたか?と頭を傾げている。
よし!意味わかってなさそう!セーフ!!
いけないね。おじさんになると思ったことすぐ口にしちゃうんだから。ほんと気をつけよ。
「まあギリセーフってことで……」
「ふむ、許してやろう」
王子から恩赦頂けました!
「では王子、乾杯!」
「乾杯!」
カランっという心地のいい音が、静かな夜の森に響いた。
やっと第一章です。対よろ。