「いっっちぃいいい!なに!なに!びっくりした!おじさんびっくりしました!」
「よくやったタケ。あの前方のものたちだな?」
俺が黒ずくめの男たちを追跡していたところに、フウカが呼んできた王子とセバスさん、それにイルゼンとミールが合流する。
「はい陛下!ただフォーチュンバードは捕まってしまったようで……。
これから取引が始まるようです」
「なに!?早いな……。
敵はすでにかなり前から情報を掴んでいたようだな」
「そのようです……。あ!動きありました!」
軽く俺が合図を送ったことで、待機していた取引相手役の男が出てくる。
「あの男が取引相手でしょうか?」
ベストなタイミングで、イルゼンが王子にそう問いかける。
「まだ確証はないが、おそらく……。
さてどうしたものか」
「陛下、この場合は現行犯で逮捕できます。
取引相手が金銭を黒ずくめの男たちに渡したタイミングで……取り押さえましょう!」
俺の作戦に少し思案した後、王子が肯定を示す。
ちなみにわかる人はわかっていると思うが、今回の脚本は某体は子供頭脳は大人な名探偵のパロです。
勝手に異世界でパクってごめんない、青山先生。
黒ずくめの男の1人が、青い鳥の入ったカゴを取引相手に渡す。
それの中身を確認した取引相手の男は、お金の入ってるであろう袋を黒ずくめの男に渡した。
「確定ですね!」
「だな、ではタケ。合図を頼む」
「ハ!ではみんな準備はいいですか?」
親衛隊全員の頷きを確認して、カウントダウンを始める。
「では……5……4……3……2……」
ちょうどそのタイミングで俺の背中に衝撃が走る!
「いっっちぃいいい!なに!なに!びっくりした!おじさんびっくりしました!」
後ろを振り返ると、俺の背中に泣小さな女の子が1人……。
「ジュリちゃん師匠?どうしたの?」
それは先程ルミオさんの家で仲良くなったジュリちゃんだった。
「あー、隊長の知り合いの子か?今は任務中だからちょっと……」
ジュリちゃんを引き剥がそうとしたイルゼンを制止する。
だって明らかに様子がおかしい。
ただ遊びでじゃれついて来てるんじゃない。
「ジュリちゃん。なにがあったの?」
俺の声に顔をあげたジュリちゃん。
その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
その様子にイルゼンや他のメンバーも異常事態と察したのだろう。真剣な様子に変わる。
「パ、パパが……。カニさんみたいになっちゃって!マ、ママみたいになっちゃう!……助けて!」
さて考えろ、タケよ。
まずルミオさんがピンチなんだ。
それでカニみたいになった?カニといえば……横歩き、ハサミ、あと口から泡……。
ママみたいになる。ジュリちゃんのお母さんは、まだジュリちゃんが小さい時に亡くなった。
ん?てことは!?
「え!?ルミオさんが泡吹いて倒れて死にそう!!!」
俺の叫びに、事態を理解したのだろう。みんなの表情がこわばる。
うわでもどうしよう!
この村って何処に病院あるんかな!?さっき散策した時に何処かで見たような見なかったような……。
てかこの世界って病気は魔法で治すの?医療で治すの?
外傷は魔法だったよな?てことは魔法?
あーなんもわからん!てかそんなこと考える暇はねぇーよバカが!
どうしようと慌ててる俺の方に力強く手が置かれる。
「落ち着けタケ。
まずは二手に分かれる!セバス、イルゼン、フウカはこのままあの男たちを拘束しろ。
タケとミールは我について、ルミオ殿の家へと向かう!
行動開始!」
「「「ハ!」」」
王子の号令に俺以外の親衛隊がすぐさま動く。
え!?なに!?俺なにするんだっけ?
「タケ!行くぞ。その子を抱えて走れ!」
「あ、は、はい!」
俺は泣きじゃくるジュリちゃんを抱っこして、走る王子とミールを追いかけた。
ちょ、ちょっとだけまって!俺この中で一番足遅いから!!
――――――――――――――――――――――――
なんとか追いついた後、2人をルミオさんの家へと案内する。
鍵開いたままの玄関から入り、キッチンへと向かうと……そこには泡を吹いて倒れたルミオさんが!
「不味いな。ミール、まずはガラスを退けてくれ」
「ハ!陛下!」
ミールの杖が光ると、地面に散らばっていたガラス片がまとめてゴミ箱へと移動する。
なにあれすごーい。
「ミールはその後、ルミオ殿に外傷がないか確認。見つけ次第回復魔法を当ててくれ。
タケは我と一緒にルミオさんの服を脱がせてくれ」
「「ハ!」」
言われた通りに素早くルミオさんの服を脱がせる。
「ふむ、斑紋はなし……。そこの少女よ。お父上は何か最近味の思考が変わったりはしてなかったか?」
王子の問いかけになんで答えたらいいかわからず、ジュリちゃんがアワアワし始める。
「ジュリちゃん!お父さんは絶対助ける!
たがら一個だけ教えて!お父さんが最近突然好きになったり、嫌いになった食べ物って何かあった?」
俺の声に少しだけ落ち着きを取り戻したジュリちゃんが徐に口を開く。
「ぱ、パパ最近甘いのが好きになった……」
あー!そういえばオレンジジュースに砂糖入れて飲んでたわ!
「甘いのが好きになったのだな!でかしたぞ、ジュリよ!」
そう答えた王子が、何かメモを殴り書きし始めた。
「ミール!このメモにあるものを近くの商店で買って来て欲しい!」
「ハ!かしこまりました!」
答えたミールが家を飛び出していく。
王子はその間、ルミオさんの体制を変えたりなにやら処置を行なっている。
俺はその間泣くジュリちゃんを必死に宥めていた。
――――――――――――――――――――――――
その後、ミールが買って来たもので何かペースト状のものを作った王子。
それをルミオさんに飲ませた後、向こうでの仕事を終えたセバスさんが医者を連れて来てくれた。
病院に運ばれたルミオさんは……一命を取り留めた。
その言葉を聞いた時のジュリちゃんの顔は本当に嬉しそうで……俺はめっちゃ泣いた。
1日は絶対安静だが、明後日には退院できるそうだ。
どうも王子の処置が完璧だったようで、大事に至らなかったらしい。
その話をジュリちゃんと聞き終えた後、病院の廊下で座って言う王子の隣へと腰掛ける。
「陛下、本当にありがとうございました。助かりました」
「王として当然のことをしたまでよ。それよりジュリと言ったな?お手柄だったぞ」
そう王子に声をかけられたジュリちゃんは、恥ずかしそうに身をよじらせる。
その時何か痛みに耐えるような顔を見せた。
「あれ?ジュリちゃんどうした?」
「えっと……脚が痛くて」
そう答えるジュリちゃんの靴を脱がせると、そこには血まみれの脚が。
「え!?どうしたの?」
「お父さんに近づこうとしたら怪我しちゃった」
「ふむ、見せてみろ」
王子がそう言うと、ジュリちゃんの足を優しく触る。
「ガラス片を踏んだのだろう。少し待っておけ」
王子が何かを唱えると、ジュリちゃんの怪我がみるみる治っていく。
「うわぁ!ありがとうございます!王子様!」
「気にするな。ジュリこそ良くぞこの痛みに耐えたな。だが今度から怪我をしたらすぐに大人に言うのだぞ?」
コクリと頷くジュリちゃんを見て、笑顔になる王子。
「ていうーか王子!回復魔法つかえたんすか!さらに医術にまで精通してるんすね?」
「うん?……まあな。王族として民を助ける術を身につけるのは当然のことだ」
もちろんミールほど凄腕ではないが。と答える王子。
そういえば……このヤラセ旅が始まってから一ヶ月。
1日の演技が終わった後、王子はもちろん別宿にすぐ戻っていたし……他の親衛隊メンバーも各々の時間を過ごすだけだったな。
俺はすぐ飲み屋に繰り出してたし。
もしかして、俺ってみんなのことなんも知らないんじゃないか?
これは早急にどうにかしないといけないか案件だな。
なんてったっていつ終わりかわからない長期任務を共にする人たちなのだから。
そんなことを考えていると、他のメンバーも合流。この後について話し合うことに。
結論から言うと、俺はジュリちゃんと共にルミオさんの病室で一泊。その他メンバーは宿に一泊となった。
1日ドタバタで疲れたのであろうジュリちゃんと、すっかり元通りの顔色に戻ったルミオさんを眺めながら……俺はひと夜を明かした。
――――――――――――――――――――――――
翌朝。
目を覚ましたルミオさんはすっかり元気になっており、病室でしきりに王子や俺たちへ頭を下げていた。
「本当にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!
そして何より……助けていただき誠にありがとうございます!」
「気にするな。王族として……そして勇者として当然のことをしたまでだ」
いつものように答える王子。
でもいつもよりそのクサイセリフがカッコよく見える。
「ほらジュリ。お礼を言いたかったんだろ?」
ルミオさんの後ろに隠れたジュリちゃんがゆっくりと前に出て来た。
「ふむ、ジュリか。足は大丈夫か?」
「う、うん……」
モジモジしているジュリちゃんが口を開くのを、王子は地面に膝をつけてゆっくり待っている。
「あの……」
「なんだ?」
「えっと……王子様、私……すごく助かりました!だから!…………
私のお弟子さんにしてあげる!」
おっとジュリちゃん爆弾発言だ。
確かに昨日遊んだ時も、俺のことを弟子にしてあげるって言ってたな。だからジュリちゃん師匠って呼ばせてもらってたし。
どうやら演劇作家として弟子を抱えるルミオさんに憧れているのだろう。
ただ相手は王族。弟子にするなんて不敬である。
もうそりゃルミオさんと親衛隊の慌てっぷりがすごい。
でも昨日の一件で俺はなんとなくわかってる。
きっと王子は…………。
「ふふ、ふはははは!そうかそうか、弟子にしてくれるのか!それではこれからはジュリ師匠と呼ばせてもらおう」
ほらこう言うと思った。
この人めっちゃ優しいし器広いよ。
それになによりセバスさんが和かにしてるしね。
ダメならきっと真っ先にこの人が止める。
「では師匠。また訪れた日には是非色々なことを教えてくれ」
「うん!いつでも待ってるからね!」
「ああ、勿論兄弟子のタケも連れてこよう」
「え?兄弟子?俺がっすか?」
「そうだろ?だって昨日『ジュリちゃん師匠』と呼んでいたではないか?」
あれ?そだっけ?
まあそう言うことなら……。
「では陛下!兄弟子としてしっかり鍛えてあげますからね!」
「調子に乗るなよ?」
「はい、すみません」
そんな俺と王子のやりとりを見て笑うジュリちゃん。
いやぁー平和っていいっすねやっぱ。
その後ルミオさんの病室を後にした俺たちは、村長に挨拶をしてコト村を出ることに。
ちなみに黒ずくめの男たちはイルゼンたちに制圧された後、冒険者協会の地下牢にぶち込まれた……という体になっている。
まああの2人は本業パティシエなので、今日も元気にケーキを作ってると思う。
さて次の目的地はダンジョン。
名前を聞いただけで、皆んなはワクワクするかもしれない。
だが俺たちはここで……人生最大のピンチを迎える。
以上序章です。対あり。