「ほら!何やってるのよタケ!魔人から攻めてこないと、英雄は戦えないでしょ!」
はいども徹夜で3時間歩いたホーミタイト王国近衛兵王子親衛隊隊長、タケおじさんだよー♪
ということでやってきました!
今回の舞台、コト村です!
いやー村って名前が付いてますけど、最早町ですねこれは。
村の中央には大きな演劇場があり、その周りには朝から賑やかな市場が広がってます。
学校や公園もあって子どもたちの活気が朝から活力を分けてくれますね。
それにしても今日はいい天気だ!
雲ひとつない朝の空気は本当に気持ちがいい。
これが徹夜じゃなければ心の底から楽しめたのに!
…………はい、今日も任務頑張ります。
朝イチから宿に荷物だけ置かせてもらい、村長さんに今日1日お世話になるため挨拶をした俺は……現在国一番の演劇作家であるルミオさんの家を訪ねるため歩いている。
もうね、足が棒を通り越して枝です。今すぐ折れそうです。
この世界の人たちは片道三時間くらいすぐ歩くのだが、元現代日本人の俺にはキツイもんである。
あー、ルミオさん。シャワー貸してくんないかなぁ。
そんなことを考えていると、目的地に到着。
早速ドアをノックすると、どたどたと階段を駆け降りる音が家から聞こえてくる。
ガチャリと音を立てながら扉が開くと、そこには茶髪に無精髭を携えたメガネの男が現れる。
「はいはい、どなたですか?……ってタケじゃないか!久しぶりだな!」
「はい!先日ぶりです!ルミオさん!」
うーん、やっぱり凄い人には見えない。
見てくれだけでいうなら普通のおじさんと言った感じ。
先日酒場で仲良くなった時も、どんな仕事してるか聞いてなかったからなぁ。
「いやぁ突然どうしたの?また赤ワイン飲み比べ会でもするかい?」
「うわ!それはひっじょーに魅力的なんですが……今日はまた別の要件です」
疑問を浮かべたままのルミオさんに案内されて、俺はルミオさんの家へとお邪魔する。
ルミオさんの家はとても広々としていて、過ごしやすそうなのだが……どこか閑散とした雰囲気も感じる。
なんだろう?何かが足りない?
そんな違和感を感じながら、俺は案内されるがままソファへと腰をかける。
「こんなものしかないのだが、大丈夫だろうか?」
そう言いながらルミオさんがお茶とお菓子を出してくれた。
ルミオさんは自分にオレンジジュースを入れて……そこに砂糖を追加して飲んでいる。
わお、そこまでの甘党ですか。体に悪く無い?それ。
まあ人の趣向にケチつけるような人間ではないので一旦触れずに。
「いえいえ!突然の訪問なのにありがとうございます!」
「ああほんとだよ!まさかタケから家を訪ねてくれるとは思わなかったよ!今度こっちから王都のほうへ行こうか悩んでいたんだ」
「マジスか!是非きてください!めっちゃ美味しい赤ワインの店教えますよ?」
それは楽しみだ!と笑うルミオさん。
そのルミオさんがいる場所から奥の扉が徐に開き、小さな誰かが出てくる。
「お父さん?どうしたの?」
「おっとジュリ!起こしてしまったか。
今お客さんが来ているんだ!ジュリもよかったら挨拶しなさい」
そう声をかけられた女の子は、恥ずかしそうに扉の裏へと隠れてしまう。
どうやら人見知りをするタイプらしい。
そういう子にはこうするのが一番だ。
俺はゆっくり席を立った後、少しだけ近づいてその場に膝を下ろす。
「ジュリちゃんっていうんだね?お父さんからお話しは聞かせてもらってます。俺の名前はタケっていうんだ。もしよかったら仲良くしてくださいね?」
そう話しかける俺を少し見た後、小さくお辞儀したジュリちゃんはそのまま扉の奥へと消えてしまった。
「すまないねタケ。どうも人見知りが抜けないようで」
「いえいえ!とても素直で可愛らしいお子さんですね!」
そう、最初はこんなもんである。初めから仲良くなんてできるもんじゃない。
信頼関係には根気が必須。30年生きた俺の持論だ。
その後、他愛無い話を少しした後にルミオさんへ本題を話す。
「ってなわけでちょっと俺の作った台本を見てもらったりっていいですか?」
「ああ任せてくれ!何よりタケからの頼みだからな!
ただこのルミオ。ホーミタイト演劇祭作家賞受賞者だ……もちろんタダとはいかないぞ?」
「任せてくださいよ先生……今夜は奢りますよ!」
「よし来た!それじゃあ台本を見せてくれ」
俺は懐から台本を渡す。すると先程までのくたびれたおじさん感はどこへやら……ルミオさんは真剣な表情で台本を読み始めた。
…………さて、手持ち無沙汰になってしまったな。
ものすごい集中しているルミオさんに話しかけるわけにもいかないし……やばい、眠気が来たかもしれない。
そんなことを考えていると、先程扉の奥に消えたジュリちゃんがまた顔を覗かせていることに気がついた。
ほほーん?なるほどなるほど。
仕方ない、ここは元孤児院職員の実力……魅せますか!
――――――――――――――――――――――――
「す、凄い仲良くなったね。この短い間に……」
そう俺に声をかけてきたルミオさんの表情は、ドン引き半分感心半分と言った感じだろう。
まあ気持ちはわかる。だって今の俺は
「ほら!何やってるのよタケ!魔人から攻めてこないと、英雄は戦えないでしょ!」
「は!ジュリちゃん師匠!では行きますよー!」
全身黒タイツを見に纏い頭からダンボール製のツノを生やした、魔王に操られてしまった哀れな魔人タケ・チャーンなのだから!
そして刮目せよ!
大人に見られたら通報待ったなし!子供も初見なら泣いちゃうけど遊びの中なら大いに笑ってくれる……タケ流面白みのある不気味な動きシリーズ!
にこやかにブリッジしながら迫ってくる全身タイツの成人男性を!
「きゃあー!」
「うわぁ!」
毛色の違う2種類の悲鳴、いただきました。
前者が楽しさで後者がドン引きね。
ちなみにこの動きをかつて孤児院の庭で披露したところ、近所からクレームが来るので室内限定にされました。
迫り来る俺の顔にジュリちゃんが、丸めた雑誌の剣を叩き込む。
「ぐわ!やられた!」
俺はそう発しながらその場に倒れ込む。
「やった!お父さん!勝ったよ!」
「おお!やるなぁジュリ!見事タケを打ち倒した!」
えへへと笑うジュリちゃん。
いやぁ、親子仲睦まじいのは見てて癒されますね。
……この世界の人たち、身体能力が基本化け物なの忘れてた。
めっちゃ鼻痛い。死んじゃう。鼻血出そう。
その後疲れて寝てしまったジュリちゃんを部屋のベッドへ下ろした後、着替えた俺とルミオさんはソファに戻ってくる。
「しかしタケ……あの服はどこから出したんだ?」
「あ、あの変身セットは常に持ち歩いてるんすよ。子供と遊ぶ時用に」
「そ、そうか。すごいなタケは」
引きながら褒めてもらいました!
あれ?おかしいな。ジュリちゃんと仲良くなった結果、ルミオさんと少し距離が開いた気がするぞ?
ゴホンとひとつ咳払いした後、ルミオさんが本題に入ってくれた。
まあ細かい添削なんて皆んな興味ないと思うので総カットですけどね。
添削内容を伝えてくれた後、最後にルミオさんが
「物語で一番俺が大切にしているのは、
『期待通りに予想を裏切る』
ことだ。それが一番面白く感じてもらえる。
そのことを念頭に入れて、今後台本を書いてくれ」
と教えてくれた。
読んでくれる人が期待していることは裏切らず、予想したいことは裏切っていく。
なるほどなぁ……すげぇ難しくない、それ?
でも少し悩みが晴れた気がする。
「ありがとうございます!すごく助かりました」
「気にするなこれくらい。こちらこそジュリと仲良くしてくれてありがとう」
「いえいえ!一緒に遊べてとても楽しかったです!」
そのままお互い感謝を述べ直して、俺はルミオさんの家を後にした。
いやぁーいい収穫があった。
台本の悩みもなんとなく解決しそうだし、何よりジュリちゃんと仲良くなれたのが素晴らしい。
だがまだ油断できない。
次に会うのが期間空いてしまうと、関係値がほぼリセットされるなんてこともある。
人見知りする子と仲良くなるには、何度も通うのが大切。
慣れてもらわないといけないからね。
これはコト村に来るたびに、ルミオさんに開いにいかないと……。
決して今度はルミオさん秘蔵の赤ワイン呑まないととか思って無いですよ?
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ルミオさんの家を出た後、村を散策していると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「隊長!首尾はどうだった?」
「おお、イルゼン。バッチリだった!
陛下の方は問題なしか?」
「ああ、今は村長へ挨拶に向かってる。
…………今回は酒飲んでないみたいだな」
「失敬な。仕事前と子供の前では呑まない主義なんですぅ!」
疑いの目を向けてくるイルゼン。
こいつ……流石に俺にもそれぐらいの常識はあるっての。
「悪い悪い、赤ワインマニアの友人に会いに行ったもんだから、てっきり一杯くらいもらってるもんだと思ってな」
イルゼンが罰悪そうに謝ってくるので、許してやることにした。まあ怒っちゃいないんですが。
「それで?台本に変更はありなのか?隊長」
「ああ、今日の分は流石に急だから台本通りで。
次の分から変更あるんで、また夜にでも渡すわ」
「了解。それじゃあ村長の家まで行こう。
そろそろ挨拶が終わる時間だ」
そう言うイルゼンと共に、村長の家へと向かう。
するとちょうど挨拶を終えて家から出てくるところだった。
俺とイルゼンはすぐに王子の前へと行き、膝をつく。
「アルトバス陛下!ただいま戻りました!」
「ふむお迎えご苦労、イルゼン。
それでタケよ。この村に異常はなかったか?」
さてさて、それでは始めましょうか。今回のヤラセ旅を!
「ハ!特に異常らしい異常は見当たりませんでした!
ですが一点気になることが……」
「ふむ、申してみろ」
「ハ!先程村の外れの森に青い鳥を見かけたと言う情報がありました!
その情報を聞いた近くで、その鳥を捕まえて売り捌けば高額になるなどという声も聞こえてきました。
誰が言ったものなのか、果たして本気なのかは分かりませんが……」
「ふむ……青い鳥……確かフォーチュンバードなる鳥が絶滅危惧種でいた気がするが……セバス、どうだった?」
「はいアルバトス様。フォーチュンバードは全身の青い羽毛が美しく、大変希少な鳥であります。
かつてその羽根目的で乱獲された結果、現在は絶滅危惧種に指定されております」
「成程、その声の主は密猟者の可能性が高いな。
タケよ、その声の主たちがどう言った風貌だったか覚えているか?」
「ハ!確か黒のコートと黒のハット帽を身につけた二人組の男でした!1人は長髪の細身、もう1人はガタイがよく髪型までわかりませんでした」
「承知した!では二人組で該当する人物を捜索。見つけ次第片方が追跡し、もう片方が連絡せよ!」
「「「ハ!」」」
「では解散!」
号令と共に二人組に分かれて捜索を開始する。
俺はフウカとペアだ。
さてさて今回のヤラセ旅もうまく行きますようにっと。
――――――――――――――――――――――――
ふと目が覚めると、いつもの見慣れた天井だった。
そうだ。私はパ……お父さんのお友達のタケと遊んでいて、途中で寝ちゃったんだ。
部屋を出ても、タケの姿は見えなかった。
そっか、もう帰っちゃったのか……。
寝てる間に人が居なくなるのはとても怖い。
だってお母さんはそれで二度と帰ってこなくなったから。
お父さんは遠くに行ってしまったって言っていたけど、私は知っている。
死んでしまったんだって……。
お母さんはずっと体が弱かった。
私が生まれる前から何度もいろんな病気で入院していたらしい。
でもとっても元気な人だった。
いつも笑顔で笑っていて、誰よりも明るい人だった。
この家もお母さんがデザインして建てたんだ。
内装もいっぱいこだわっていて……。
でもお母さんが死んだ後、お父さんがその綺麗な物をいっぱい片付けてしまった。
お母さんを思い出して辛かったんだと思う。
私もお母さんが置いた花瓶なんかをみると、いつも笑顔を思い出して辛かった。
お母さんは亡くなった時も、笑顔だったらしい。
私は寝ている間に亡くなってしまって……次に会った時は綺麗な顔で棺桶に入れられていた。
だから私は寝ている間に誰かがいなくなるのがすごく怖い。
また次会うのが棺桶かもしれないから。
ふと時計を見ると昼の3時5分だった。
あれ?おかしい。いつもお父さんは3時前に私を起こしてくれる。
3時には一緒におやつを食べるのが、日課だからだ。
仕事で忙しいお父さんと唯一ずっと一緒にいられる時間が、私は大好きだ。
どうしたんだろう?疲れて寝ちゃってるのかな?
そう思ってお父さんの寝室を見に行っても、お父さんは居なかった。
「お父さーん?起きたよー?」
返事がしない。
なんだか心臓がドキドキする。
寝室の後、リビングを見てもお父さんが居ない。
パパ?何処に行ったの?
そう思ってキッチンに向かった時だった……。
キッチンの奥、割れたガラスと共にパパは居た。
「パパ!」
駆け寄ろうとして、痛みを感じて止まる。
足の裏から血が出てきた。少し視界が滲む。
少し遠くからパパを見る。
口から泡が出て顔が青くなっている。
嫌だ……。
手には何か白い粉を持って、声をかけてもピクリも動かない。
い、嫌だ…………。
まるでママみたいに………………。
嫌だ!!!
ど、どうしよう!パパが!
助けて!死んじゃう!
嫌だ嫌だ!助けて!
「だ、誰が……!」
その時私の頭にはある人の顔が浮かんだ。
「タ、タケ!」
私は血の出た足も気にせずに、家を飛び出した。
序章です。対よろ。