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ヤラセ勇者の英雄譚  作者: 閃きゴリラ
プロローグ
1/13

「な、なんだと!第一王子!? くっ、確かに信じられないほどオーラを感じる……」

「きゃぁああ!!だ、誰か助けてぇ!」


のどかな農村に、女性の叫び声が響き渡る。


「ぐふふ。大人しくしやがれ!このナイフで喉を裂いてやろうか!」


「いやぁあああ!」


声の方に駆け寄ると、大柄の男が可憐な女性に背後から喉元へナイフを突きつけていた。


その姿を確認した俺は……あの人へ状況を知らせるために、来た道を駆けて戻る。


俺が戻ってきてすぐ、何人かの兵士に囲まれたその人が声をかけてきた。


「何があったのか教えてもらおうか。」


「ハ!村の中央……ラクダという名前の酒場前で、女性が暴漢に襲われています!」


「それはいけないな!早急に助けに行くぞ!」


報告を受けたその人は、真っ先に先ほどの現場へと駆けていく。


「お待ちください!」


俺はその人を後をすぐに追いかける。

俺の後ろを付き人の兵士たちが付き添う。

一人は慌てたように。

一人は呆れたように。

一人はめんどそうに。

そして執事の格好をした老人は少し面白そうに。


「待てぇ!」


「何もんだ!」


女性を襲う暴漢の疑問に、矛先を向けられたその人ではなく隣の俺が声高らかに答える。


「無礼者!この紋章が目に入らぬか!

こちらに座すのはこのホーミタイト王国第一王子、アルトバス・ホーミタイト王子であるぞ!控えおろう!頭が高い!」


「な、なんだと!第一王子!?

くっ、確かに信じられないほどオーラを感じる……」


「そうだろうそうだろう!

そして控えおろう!己が悪行、王の名の下に成敗してくれる!」


「くっ、う、うるせぇ!野郎どもやっちまえ!」


暴漢の合図に合わせて、物陰の奥からガタイのいい男たちが出てくる。

その数、全員で5人。


すると先頭にいた俺の前に、王子が出てくる。


「無礼者どもめ、成敗してくれる!」


そう言って王子が最前線へ飛び出そうとするのを、俺が制止する。


「アルトバス陛下、ここは私たちにお任せください!」


「いやしかし、お前たちを毎回危険な目に合わせては王族として……」


「いえいえ、陛下が危険な目に遭うのを防ぐために私たちがいるのですから。

それに陛下は言わば最終兵器、このような雑兵は私たちにお任せください!」


納得いってなさそうな顔で後ろに下がるアルトバス王子を横目に、俺は号令をあげる。


「全員かかれ!」


号令に合わせて素早く控えていた3人の兵士と執事、そして俺が暴漢たちと相対する。

一人は慌てたように。

一人は呆れたように。

一人はめんどそうに。

執事の格好をした老人は少し面白そうに。

そして俺こと、ホーミタイト王国近衛兵王子親衛隊隊長……タケは、


「いつも通りよろしくお願いします。」


小声で対面の暴漢を装う男に告げる。


「いえいえ、こちらこそいつも通りお願いします。」


こっそり行われたいつも通りの約束。


その直後に俺の剣と男のナイフが交わる。


軽く俺が横に力を入れると、男がまるで力負けしたように派手に吹っ飛んでくれる。


「ぐわぁ!」


「どうだ!参ったか!」


「つ、強い、参った!」


男が大の字で地面に倒れながら、そう答える。


さて自分の分はこれで終わりだ。他のメンバーは……


慌てたように飛び出した一人の少女ことフウカは、まるで流水のような綺麗な太刀筋で暴漢のナイフだけを一刀両断する。


いつも思うがあれはどういう技術なのだ。当たり前のように斬鉄するのやめてほしい。

三刀流の剣士だって、斬鉄したのはアラバスタ編が初めてだぞ。


呆れたように飛び出したもう一人の女性ことミールは、ローブの懐から取り出した杖の先を強く光らせる。その光に目が眩んだ暴漢の服を掴んで、派手に転ばせる。


魔法使いなのに暗殺者みたいな方法で制圧するんだよな……。いつもツッコみたくなるが、とても鮮やかである。


めんどそうに飛び出した一人の男ことイルゼンは、その勢いのまま暴漢の頭を掴んで投げ飛ばす。


なんで自分より体格が大きい相手を片手で投げ飛ばせるのか。それでいて相手が無傷なのは、あいつがすごいのか受け手がすごいのか……


執事の格好をした老人ことセバスは、汗ひとつかくことなく暴漢を制圧してすでに拘束済みだ。


いつも制圧が早すぎて、何をどうしたらあの状況になっているのか本当にわからない。


全員の活躍で制圧が終わった後、拘束された暴漢たちの前にアルトバス王子が立つ。


「今回は多めに見てやる。いいか、2度と我が国で悪事を働くでないぞ。」


「「「は、ははぁ!ありがたいお言葉です!」」」


縛られた状態のまま、暴漢たちが頭を下げる。


「アルトバス王子様!

本当にありがとうございました!お陰で助かりました!」


先程まで捕まっていた美しい女性が、頬を赤くしながら王子へと感謝の言葉を紡ぐ。


「気にすることはない。我が国の国民は全て守る。それが王族の務めであろう?」


「かっこいいです!」


「王族として……そして勇者として当たり前だ。さあ皆の衆、行くぞ!」


「ハッ!この暴漢たちは私が責任を持って牢屋へ連れて行くます!」


「いつも助かる、タケよ。」


信頼した表情で、王子が俺にそう言う。


「いえ!勿体なきお言葉です!」


王子は他のメンバーを連れて、村を離れて行く。


―――――――――――――――――――――――


「っったくよぉ!お前はいつもいつも言ってんだろってんだボケがぁ!!」


ラクダという酒場の中……先ほど暴漢に捕まっていた美しい女性と同一人物とは信じられないほど荒れた様子の女性、マキが怒声をあげていた。


「ご、ごめんよ、マキちゃん。でも今回は迫真じゃなかったかい?」


その対面で先ほどまでマキを襲っていた暴漢役のエドモンドが申し訳無さそうに頭を下げている。


「ドアホ!あんな演技でいいわけないだろ!

なにが、『な、なんだと!第一王子!?くっ、確かに信じられないほどオーラを感じる...』じゃ、ぼけ!

見目麗しい村娘を白昼堂々攫うような暴漢が、んなセリフ吐くか!

もっと『何が王子だ!お前のその可愛い顔も一緒にぶち犯してやる!ぐひょひょー!』ぐらい言え!」


「いやそんな、口が悪いよマキちゃん。女の子がそんな下品な言葉……」


「黙れ!こんな立派な雄っぱいして人相の悪いやつが言葉遣いなんか気にしてんじゃねーよ!」


そう言葉を投げつけながら、マキがエドモンドの胸をひっぱたく。

スパァン!といい音が酒場に鳴り響いた。


この二人の夫婦喧嘩も、いつものことである。

酒場『ラクダ』で、経営者の仲良し夫婦がする喧嘩を見ながら飲む酒が俺は好きなのだ。

巻き込まれない限り、という枕詞がつくのだが。


「おい何ニヤニヤしてんだタケ!ちょっとこっち来い!」


はい巻き込まれました。GG。


「はいはい、なんでしょうか?マキ姐さん」


「なんでしょうか?じゃねぇよ!

あの台本書いてるのお前だろ?展開がいつもワンパターンなんだよ!」


「いやぁ、面目ないっす。自分不器用なもんで」


「関係ないだろ、しばくぞ! セリフだってもう少し自然に……」


「あ、いや……あのセリフはエドモンドのセンスです」


うわ!裏切ったな!って顔で、嫁ぎ婿のエドモンドがこっちを見てくる。

うるせぇ、俺もどうかと思ったよあのセリフは。


「ふむ、それについてはしっかりあの雄っぱいを問い詰めるか。

てかこの茶番はいつまで続ければいいんだ?これ国の命令だろ?」


そう、彼女の言う通りである。


このヤラセの演劇は国から国民へ向けた命令なのである。


読んでいる皆さんにはなんの話かわからないだろう。

まずこの物語を語るには、時を一ヶ月前まで遡らないといけない。


―――――――――――――――――――――――


「タケよ。本当にもうわけないのだが、今からお前に……いやこの国の民全てに、とてもしょうもない命令をしなければならない。」


重々しい空気に支配された宰相室。

その中で我らがホーミタイト王国の宰相オズワルドと、ホーミタイト王国警備兵である俺ことタケが向かい合って座っていた。


「なんだか嫌な予感がするのですが……どう言ったご命令でしょうか?」


「いや、そのだな……」


非常に言いづらそうな表情をする宰相。

ゴホン、と決心したように一つ咳払いをした後言葉を続けた。


「警備兵タケよ。ホーミタイト国王の命である。

第一王子、アルトバス・ホーミタイト陛下を連れて……各地の揉め事を制圧する救国の旅へと旅立つのだ……!」


命を受けた俺は思案する。


えっと?つまり?


王子様を連れてこの国いざこざを解決する旅に出かけろ……と。


イメージ的には水戸黄門って感じか?

王子を黄門様として、俺が角さんみたいな感じ。


うーむ、問題点しか見つからないぞ?

これは色々と確かめないとダメそうだ。

まず最初の疑問として……


「この1日の平均犯罪件数が1桁の平和なホーミタイト王国で……揉め事を鎮圧する旅に出ろと申しますか?」


宰相は辛そうな表情を浮かべながら……静かに一言。


「そうだ」


反論しようと思ったが、宰相の自分でも馬鹿なことを言ってるのわかってるという表情が続く俺の言葉を止めた。


このホーミタイト王国は呆れ返るほど平和な国だ。

あ、あのピンクの悪魔が住んでるプププな国じゃないよ?

てか宇宙から侵略者とか来ないし、あそこより平和かもしれない。


そんな呆れ返るほど平和なホーミタイト王国で水戸黄門は無理ないかなぁ?

まあ一旦飲み込んでおこう。これ以上無駄に責めても、宰相の10円ハゲが加速するだけだ。次の疑問としよう。


「一旦承知いたしました。ですがもう一つ……私を旅に同行させても、なんの力にもなりませんよ?宰相も知っての通り……」


「ああ、その点は気にしなくていい。元々お前を戦力としては数えていない」


はっきり言いやがったよこのハゲ。

まあ言われても仕方ないのだが……。


俺ことタケはこのホーミタイト王国にて警備兵として働いている。

この国の兵士の階級は大まかに分けると三つ。

王国近衛兵、王国一般兵、警備兵。この三つだ


王国近衛兵はスーパーエリート集団。

王族関係者を警備するのが主な仕事で、上の人間になると爵位を携わっていたりする。


王国一般兵も基本はエリート。

国の重鎮、いわゆる貴族を守護するのが主な仕事だ。

またそれ以外に国内の重犯罪などを取り締まったりもする。


警備兵は一般社員。

最も数が多く、最も雑用を任される下っ端達。

まあ仕事内容としては警察……特にお巡りさんを想像してもらえるとわかりやすい。

軽犯罪などを取り締まったり交通整備だったりが主な仕事だ


え?俺はどこの所属なんだって?

宰相の3個目のセリフを思い出そう!


え?なに?

なんで下っ端が国の宰相とかいう重鎮と2人きりで部屋で喋ってるんだって?

うん、こっちは素直に答えよう。


俺と宰相は飲み友だ。お互いお酒だーいすきなのだ。簡単だろう?


閑話休題。

王族の付き添いに戦力として期待してないと言い切ったこのハゲには、一体どんな考えがあるのか聞いてやろうじゃないか。


「戦力としてカウントしてないとなると……俺は何をすれば?」


「それについてはお前が引き受けた場合に説明しよう。 どうだ?やってくれるか?」


こいつ……。承諾しないと詳細を教えないとか言い出しやがった。

いやわかるよ?極秘任務みたいなもんなんでしょ?

こういう言い方をする時は断る権利がほぼこちらにない時にするもんだ。


例えば断ったら昇進はなくなるだの、今後仕事は来なくなるだのなんだの……。


だかあえて断言しよう!

俺は怪しい仕事をするくらいなら、クビになってでもノーを貫き通す男であると!


「宰相さん。流石に友人である貴方のお願いとはいえ、なんの詳細も知らされずに任務に着くわけには……」


「お前をこの任務に推薦しているのはセバス殿だ」


「はい、全力でやらせていただきます!」


それはせこいじゃんオズちゃーん!


宰相が言ったセバスとは、このホーミタイト王国の歴代二代の王様と現王子の執事をしている人物だ。

正直この城で一番偉いのだーれだと言われたら、王様より先に名前が上がりそうなほどの重鎮である。


だって王様からしたらほぼ育ての親だし。

王だって人の子。親には弱いのだ。


そしてそれは俺にとっても、である。


まあちょっと話が脱線しすぎなので、それについては後ほど語ろう。


今は宰相から『君の尊敬する人から直接指名来てるど……断っていいの?』と半分脅されているのだ。


ひっどいハゲである。進行度じゃなくてやり口が。


まあでもあんまり宰相を責めるのはやめておこう。

さっきからイジってるハゲも、ストレスからくるものだ。

一緒に呑んでる時も、よく愚痴をこぼしている。


原因は大きく二つ。


一つは仕事をしない部下達だ。

まず兵士の説明をしたときにこう思った人はいるんじゃなかろうか?


え?犯罪件数1桁なのに、警察みたいな仕事あるの?暇なんじゃないの?


ええ、思うでしょう。

そして答えは『めっちゃ暇』である。


しかもこの国の王や貴族はそれはそれは優秀で……ほかの城の役人たちも暇している。

だって補佐するようなことがほとんどないんだもん。


その結果城勤め=のんびり働けて給料がいい場所というイメージが市民にはある。


つまり入ってくる新人も、基本はやる気が無いのだ。


しかし宰相は違う。

まだこの国が平和と程遠かった頃から国に尽くしている重鎮の1人だ。

そして他人に厳しく……自分にはより厳しくを地で行く人である。


さて問題です。

やる気ない新人たちが一番めんどくさがるのはどんな上司でしょうか?


正解は『厳しくて仕事のできる人』です!


そんなこんなで宰相は結構若い連中から嫌われている。

酷い話だよほんと。仕事だから真面目にやってるのに……。


まあ正直そっちは宰相自身も結構割り切ってる様子だ。

本当のストレスはもう一つの方……。


それはこの国の王、ミハルダ・ホーミタイトだ。


先に言っておくと、王は優秀である。

普段から民と国のために動く賢王である。

だがある一点がとんでもなく足を引っ張っている。


ミハルダ王は……ものすごい親バカなのだ。


一人息子のアルトバス王子を心の底から愛していらっしゃる。

それ自体は何も悪いことじゃない。

寧ろ大変いいことだ。親バカじゃない親など親じゃない。


だが度が過ぎている。

アルトバス王子が少し出かけるとなると護衛を何十人と連れて歩かせ、何かを学びたいとなると他国からでもその専門家を呼びつける。

誰かと喧嘩したとなると王自ら喧嘩相手の子供をぶん殴りに行こうとする。寧ろ処刑しようする。


そんな感じだから右腕である宰相がいつも後始末に追われているらしい。


もうこれが本当にストレスのようで……ハゲが加速してるそうだ。


そんなわけで今回の件もきっと王の暴走なのだろう。

そう考えると可哀想な宰相である。


……しょうがない。引き受けてやるか。


「宰相殿がそこまでいうなら引き受けるしかないっすね」


「助かる。具体的な詳細についてはこのあとセバス殿から直接教えてもらってくれ」


「了解でーす。ちなみに俺1人で付き添いやるんすか?」


「いや、確か近衛兵から2人。あと見習いから1人来るそうだ。今後お前達4人は『王子親衛隊』と呼ばれるようになる。

ちなみに隊長はお前らしい」


「……え?なんで俺?下っ端のクソ雑魚すよ?」


「知らん。セバス殿に聞け」


またか……。と俺は思考する。

セバスさんは割と秘密主義というかなんというか……あまり人に自分の思考を説明しない。


実際説明されたところで結果が変わるわけじゃないけどさぁ……。報連相は大切だと思うよ?関わる人間の物事に対する納得感にみたいなものに違いが出るし。


まあここで言ってもしょうがない。直接セバスさんに全部聞こう。


「わかりました。セバスさんとこに行きますね」


「ああ頼む、俺からは以上だ」


そう言った宰相が徐に立ち上がり……姿勢を正して真剣な表情をする。


「というわけで警備兵……いや、王子親衛隊隊長タケよ!

改めて勅命する!!

アルトバス・ホーミタイト王子とともに、仕組まれた世直しの旅に赴け!」


「ハ!その任務謹んでお受けいたします!」


ん?流れで返事しちゃったけど……仕組まれた世直しの旅?何それ?


対戦よろしくお願いします!

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