神様は見ている
「イライザ! 君との婚約を破棄する!」
卒業記念パーティーが始まり和やかな雰囲気が漂っていたがこの声で空気が一変した。
(あぁ、遂にこの時が来てしまったのね……)
私イライザ・シューベットはある意味この時が来る事は分かっていた。
幼い頃に王命により王太子の婚約者になり王妃教育を受け王太子妃に相応しくなるように努力していた。
しかし、王太子様との関係が良かったか、と言うとそうではなかった。
私は歩み寄っていたつもりだったのだが王太子様は歩み寄ろうとしなかった。
自分が常に中心でいたい王太子様にとって成績が上な私は邪魔な存在だったみたいだ。
特にこの1年、王太子様の態度が酷くなったのは今隣にいる聖女アリア嬢の存在である。
アリア様はその可愛らしい容貌から殿方の人気がある、更に聖女として特別待遇を受けている。
聖女は神から選ばれた存在なので仕方が無いのだけど調子に乗ってしまうのはどうか、と思う。
だから、私はそれとなく注意をしていたんだけど残念ながら無意味だったみたいだ。
「……婚約破棄は承知致しました。 アリア様にもご不快な発言をしてしまい申し訳ありません」
私は素直に謝った。
「今更謝ってももう遅い! 父上に進言し厳しい罰を与える! それまで謹慎していろ!」
「……畏まりました、皆様ご迷惑をおかけして申し訳ありません。 邪魔者は退場しますので引き続きお楽しみください」
私は出口へと向かい会場を出ようとした。
しかし、ある声が聞こえた。
『聖女アリアは聖女の資格を失った、罰を与える』
え?と思った瞬間、突然会場を包むような光と衝撃音が響き私は吹っ飛んでしまった。
「な、何が起こったの……?」
慌てて振り向くとそこにはシュウウゥゥゥゥという焼けた臭いとモクモクと黒い煙、そしてカーペットに黒い焦げが2つ残っていた。
え、もしかしてこの黒い染みって王太子様と聖女様?
「皆様、お騒がせして申し訳ありません」
その声は聖女アリア様の側に常に付き添っていたメイドだった。
「聖女アリアはこの国に混乱を与えた事により聖女としての資格を剥奪され神により粛清されました。 聖女アリアを誘惑した王太子も同じく粛清されました」
淡々と言ったその発言は衝撃的な物だった。
神様が聖女を罰する事も衝撃的だったけど聖女の行いを全て把握していた、という事?
「混乱していると思いますが後日、詳しい事は説明致します」
そう言ってメイドさんはペコリと頭を下げ一瞬にして姿を消した。
その後、国王様が慌てて入って来て王太子様の跡を見て嘆き悲しんだり騎士達に事情聴取を受けたりとかまぁ大変だったが、結局解散となった。
それから1週間後、あのメイドが我が家を訪ねてきた。
「私、実は神様から派遣された天の使い、皆様方の認識で言うと『天使』と呼ばれております」
「え、天使……」
私も両親も驚いたがなんせ背中に白い羽が生えているので信じるしかない。
「その天使様が聖女アリア様の側におられたのは……」
「神様の命により監視をしていました」
「え、でも聖女は神によって選ばれた存在なのですよね?」
「その認識が間違っています。 そもそも聖女が現れるのは一種の現象でしかないのです」
天使様曰く聖女は偶に現れる存在であり、神様にも誰を聖女にする、という権限は無いそうだ。
なので神様も聖女の言動を常に監視する必要がある。
その為に天使様が地上に派遣され聖女様の監視役兼指導役として常に一緒にいたそうだ。
「ただ聖女も元々は1人の人間であり性格がありますから、今回の様に暴走してしまう事がたまにあります。 その時には神様は聖女の力を剥奪し罰を与える事が出来るのです」
「という事は我が国で起きていた事は全て神様はご存知なのですね?」
「はい、この世界全てが神様の管理対象なので、というか私が常に報告していたので」
なんと言う衝撃的な事実……。
「ですから聖女の被害を受けた方々にはこうして説明をしているのです」
なるほど……。
「しかし聖女がいなくなったとしたら魔獣の被害とかどうなるのか……」
お父様が心配そうに言った。
「ご心配なく、迷惑をかけたお詫びとして強力な結界で護られるようにしてあるので被害を被る事はありません」
そう言って天使様はニッコリと微笑んだ。
あぁ、なんか神々しい物を感じる。
その後、当然といえば当然だけど私と王太子様の婚約は白紙となった。
まぁ王太子様がいなくなったので仕方無い。
国からは慰謝料をいただき私はそれを手に別荘を買い悠々自適にのんびりと過ごしている。
そして、別荘の近くに祠を建て毎日祈りを捧げている。