第二章 もう一人のギャノン② 守人ルミ
※今回はなんと挿絵があります。AIで作成しました。なんとなーくの雰囲気をお楽しみください。
「この街の中に…必ずいる」
ビルの屋上から見下ろす、夜の街。
小さな灯りが無数に散らばるそれは、まるで銀河のよう。
一つ一つの灯りに人の営みがある。
でも…灯りの無い闇にもまた、それはある。
悪意に満ちた、犯罪という名の営み。
私は、あるモノを探している。
探し物の名。
それは失われたギャノンスーツ。
もう一つの探し物。
闇に紛れる犯罪組織。
その名はデギール。
二つの探し物のために、今夜も闇の中へ飛び込むのだ。
◆
「ただいまぁ。ふぅぅぅ…疲れたぁ」
編集部からそう遠くないワンルームのアパートの一室。厚手のネイビーのカーテンは一日中開けられることなく、ベッドと小さなテーブルがある以外取り立てて何もない飾り気のない部屋。それが、守人ルミのもう一つの生活空間である。
「フーガス課長ぉ。この任務、大変ですよぉ」
バスルームやキッチンのある短い通路を抜けて部屋に入ると、ベッドに倒れ込んだルミはもぞもぞとベッドサイドの写真立てを引き寄せ、話しかけた。
「課長が適任だって言うから頑張りますけどぉ…
…さて、明日も早いし、シャワー浴びてさっさと寝よ! うん!」
残業で遅くなる上、出勤も早い。これが週刊マンスリー編集部員、守人ルミの日常である。
◆
今から1年半ほど前。
「デギール?」
ここのところちょくちょく編集部に出入りして、記事を入れているアルバイトの学生がいる。
彼の名は風音タケシ。
編集部員の知り合いとあって、なかなかに興味深い記事を持ってくるのだ。外部のライターとして出入りするものは他にもいる。だから、今まで特に気にかけるでもなかった。
しかし。今日、彼が持ってきた記事を編集長が読んで発したその言葉にルミは驚愕し、冷静を保つので精一杯だった。
(何なの? この子。なぜデギールを知っている?)
「はい、デギール。それがこの一連の事件の主犯とも言えるヤツらです」
(まさか…彼が?)
◆
いつものように自分の部屋に戻ったルミだが、普段とは違い、仕事中と変わらぬ凛とした声で写真に話しかける。
「課長。私、見つけたかもしれません。要捜査対象の彼を」
写真には、ルミの傍らにひとりの男が写っていた。
「もう少し泳がせて、容疑が固まってから報告します。」
ルミの目は真剣だった。
◆
「晩ごはん、何にしよっかなー」
ルミは自分の部屋で食事をとることがほとんどない。仕事のある日は朝昼晩と外食だ。今日はオフなのだが、普段がそうなのでやはり外へ食事に出てきた。普段のビシッとしたスーツ姿とは打って変わって、ジーンズにトレーナーと、非常にラフな服装だ。
「カレーはこの間食べたし、牛丼、かなぁ? どうしよ…あれ?」
目線の先に見知った人の姿があった。
「風音君だ…」
そのタケシ、普段持ち歩いている大きなスポーツバッグを持っていない。
「なんでこんな時間にこんなところで? 入稿は済んでるのに。妙だな…ちょっと尾けてみるか。色々確認したいことがあるし」
ルミはバッグからサングラスを出し、被っていたキャップを深く被り直した。変装というほどではないが、普段着のルミを見たことがなければ気が付く者はいないだろう。
「…よしっ」
ルミの追跡が始まった。
◆
程なくタケシは人混みから外れ海の方、港へと向かった。当然少し距離を置いてルミは尾けるが…
「あちゃー、見失った! こっちの方へ来たはずなんだけど」
やがて小さな倉庫へたどり着く。遠くからバタバタと足音、それも複数、聞こえてきた。
「?!」
咄嗟に近くにあったドラム缶の裏へ。
『くっそぉぉぉ! しくじったぁぁぁっ!』
足音の聞こえた方向から一人の男が身を隠したルミの目前を駆け抜ける。
(風音君ッ?!)
彼の後を追う白いマスカレードマスクを着けた者たちもワラワラと通り過ぎていった。
(どこまで逃げるのかしら? というか逃げられるのかしら?)
物陰に隠れながら、タケシの様子が見えるところへ物陰から物陰を移動する。やがて彼は袋小路へ入ってしまった。
『行き止まりか…チッ!』
『テメェ何者だ? いや、答える必要はねぇ。今ここで消えてもらう!』
タケシは銃を持った男たちに囲まれている。
(まっずいなぁ…でも助けていいものかしら?)
そしてルミは、信じられぬ光景を目にした。
『やれッ!』
蜂の巣になったハズのタケシの姿が消えたのだ。
『探せ! どういう手品か知らねぇが、まだこの辺りにいるはずだ! 逃がすな!』
白マスクたちは散り散りに走り去り、現場には誰も居なくなった。
注意深く周囲を見回し確認すると、ルミはタケシが消えた場所へ。そこには見覚えのある指抜きグローブが1つ、落ちていた。
「持ってるわね。彼」
と呟いて、それを拾い上げバッグへしまった。
◆
食事から帰って来たルミの姿は部屋の中には無かった。今彼女は計器類に囲まれた乗り物のコクピットにいる。
〈ワスト=エル=オフィ通信部です〉
「捜査一課先攻捜査隊一査、ルミエール=シューレンです。識別コード80AS1201。一課のフーガス課長へ繋いでください」
〈了解しました…ああ、フーガス課長は特秘任務の行動中で不在となっています〉
「いつ頃戻りますか?」
〈行動計画表では無期となっていますので、今の質問には答えられません〉
「無期? あ、そ、そうですか。そうしましたら、報告と要請の伝達をお願いします」
〈承ります〉
「作戦コードEF85L12。当該惑星における案件容疑者を発見。これより追尾に入り、委細は追って報告します。並行するデギール捜索にはより広域の捜査が必要と思われるので捜査員の増援並びに今後の当方の行動についての指針を要請します。以上です」
〈了解しました。識別コード80AS1201、ルミエール=シューレン先攻捜査隊一査、報告と要請、承りました〉
普段はこれで定時報告は終了なのだが
〈…もしもし? ルミ?〉
ヒソヒソと小声で呼びかけられた。
「ん? はい?」
〈わたし。メグリナ=ベサティユールよ!〉
「えっ? メグちゃん?」
〈そう。お久しぶり〉
「うわー、お久しぶりー。音声だけだと分からなかった。ごめーん」
〈いいよー。私は名前聞いたから分かったけど、こっちは名乗らないもんねー〉
「今、通信部にいるんだ」
〈そうなの。ルミは長期任務?〉
「うん、そう」
〈アレでしょ? 長期任務って出世コースど真ん中なんでしょ? すごーい〉
「えー、私は事務方の方が性に合ってるよ。先捜隊なんか荷が重くって」
〈そぉお? 結構合ってると…あ、おっとゴメン、部長に睨まれてるー。長話できなくてゴメンね〉
「ううん、いいって。怒られる前に切ってね」
〈ありがとう。じゃあね〉
「こちらこそ。久しぶりに友達の声聞けて嬉しかったぁ。じゃあね。あ、すみません。通信終了します」
〈ふふっ。承りました。じゃぁ!〉
パチン ヒュイーン…
「…そっか、メグちゃん、今、通信部なのか…懐かしいな…先輩たち、どうしてるかな?」
ルミはどっかと背もたれに身を預け、無機質な天井を見つめた。
「それにしても課長、特秘任務だって。無期って…どこ行ったんだろ? 一応、メールも出しとこう…」
コンソールのキーボードでひと通り打ち終わると
「ふぅ…」
ひとつ、溜息をついた。
「あ、そうだ。もう一つメール。明日の昼に送信予約して、っと」
再びキーボードに向かい、最後にペンっとキーを叩き
「これでどうでるかな? 彼…」
微かに笑みを浮かべた。
◆
「また間に合わなかった。祭りの後、か」
散々に荒らされた倉庫の中で、がっかりと呟く声。
タケシが長田を倒した現場に現れた細い影。それはルミだった。
「ここがこうじゃ外を見ても…あら?」
倉庫を出てみると、大きな木箱が積み重なっているところがほの明るくなっている。行ってみるとそれは
「これ、プロテクションじゃない…」
中には10歳ほどの少女が膝を抱えて座っていた。ルミは偶然を装い女の子に近づく。
「どうしたの? 大丈夫? ケガは?」
「だいじょうぶ。けいさつ呼んだから」
「そう。じゃあ、彼らが到着するまで一緒にいてあげるわ」
「お姉さん、だれ?」
にっこり微笑む。
「私? …ただの通りすがりよ。それにしてもこんなところで…どうしたの?」
「あのおじさんにさらわれちゃったの」
「おじさん? 攫われた?」
ルミは立ち上がり、少女が指さす方向、それは先ほどまでタケシが闘っていた場所。そこにはグレーのパーカー姿の男が転がっているのが見えた。
「ごめん、ちょっと見てくる」
小走りに男の元へ走り寄る。
「バイタルチェック!」
右手首のブレスレットからスッと空中にスクリーンモニターが展開。
「脈拍…呼吸…正常。生きてるわ。それにしてもこれは、誰? あ! ギャニオンチェック!」
パッとモニターの画面が切り替わる。
「微かに残留ギャニオンの反応…これって、デギール?」
遠くから無数のサイレンの音が聞こえてきた。
「…もう来ちゃったか。あとは彼らに任せましょう」
少女の元へ戻り
「ごめんね、私、もう行かなくちゃ。でももう大丈夫。お巡りさんたちが来たから。ね?」
そう言い残し、ルミは姿を消した。
◆
「彼女は無事保護されたかしら? 私の身元が割れたらマズいから置いてきちゃったけど…ちょっと薄情だったかしら…?」
狭いバスタブの中でシャワーを浴びながら、ルミは先ほどのことを振り返っていた。
「うーん、やっぱり絶対に彼がアヤシイんだけど、なかなか尻尾を掴めないなぁ…尾行ける、か」
◆
「悪いけど、ちょっと仕掛けさせてもらったわ」
ルミはスマホの画面を注視していた。画面には地図が表示され、中央の赤い点の点滅と共に地図がスクロールされていく。
やがてスクロールが止まった。
「…よしっ!」
スマホをドリンクホルダーに挿すと、車を走らせた。
◆
先の地図の場所付近へ到着。車を降り、スマホ画面上の赤い点が点滅する方へ向かった。
「…ここか…うーん、いかにも、ってところね」
古い倉庫がある。そして自分が発信機を付けたタケシのバイクが近くの公園に。しかし、タケシの姿を見出すことはできなかった。
「もう中に入っちゃったのかな? …って、え?」
見当たらない、と思ったタケシが、倉庫の裏口にいた。
『フェイザー! 相 着!』
「やっぱり彼だった! うわぁ… そんな堂々と入って行く気?」
ギャノンへと変わったタケシは、倉庫の裏口から入ると、それに代わって中からは怒号が飛んできた。
「ムチャしてくれるなぁ…どうしようかしら? ここじゃ中の様子は見えないし…仕方ない、私も行くか」
中ではすでに戦闘が始まっていた。物陰から様子を伺うルミ。
「コイツもスーツ持ちだなんて…」
『グヌゥゥゥ…コイツ、なぜこんなに…クソッ、ちっと用ができた。じゃあな! パゾル!』
『クソッ。逃げられたっ!』
「…それじゃあ、行きますか!」
ルミは右手を左肩口に構える。
「位相 展開!」
◆
「動かないで」
背後から女の声。同時に硬く太い棒状のものを押し当てられるのをタケシは背中に感じた。
ギャノンスーツは弾丸や刃物など身の危険を孕む局地的圧力はその物理的エネルギーを分散・吸収する能力を有するが、そうでない物は素肌とそう変わりない、コンプレッションシャツのような触覚感がある。よって背中に押し当てられたのがどういう物なのかが判るのだが。
(…何だこれ…銃、か?)
「手に持っているものは放し、両手を上に。上げなさい!」
言葉と同時に背中のモノがグイと突き押される。
(ゼロ距離じゃ、さすがにアクセルでも間に合わない、か)
「早くッ!」
またグイッと突き押された。
「チッ! 分かったよ!」
タケシは両手を上げた。右手からはギャノンブレイドがゴトッと音を立て床に落ちる。持ち主を失ったブレイドはその光の刃を柄に収めた。
「これでいいんだろ? アンタ、デギールか?」
「失礼な。犯罪者集団と一緒にしないでもらえる? 私はロンメルドの星間警察機構、いわゆるワステロフィの捜査一課、先攻捜査隊一査のルミエール=シューレン。スーツの無許可所持及び使用の容疑でアナタを現行犯逮捕します。大人しくこちらの指示に従いなさい。抵抗するのならば現場判断によりこの場で処分します。やっと会えたわね、ギャノン。この星では風音タケシと名乗っているようね」
(何ィッ?)
思わずギクリとする。無理もない、姿形を覆い隠しているにも関わらず名前を呼ばれたのだから。
「詳しいな。オレのファンか?」
「とぼけないで。アナタがいま身につけているスーツ、一体どこで手に入れたのかしら?」
高圧的で冷ややかな物言いの声がタケシの背中へ問いかけるのだが…
(この声… 何かどこかで聞いたことがある気がする… どこだ? 誰だ?)
「…アンタ、『石廊崎事件』を知っているか?」
「何の話? まずはこちらの質問に答えてもらうわ」
「…そうか…」
背中越しの声の主はどうやら質問には答えられないことにタケシは落胆した。
「ただのスーツじゃない。特殊任務用の拡張型よね、それ。民間人が手に入れるのは無理なのはもちろん、扱うにも相当厄介なはずなんだけど… アナタ、何者?」
「…この星では黙秘権ってのが法で定められていて、イヤなら喋んなくていいそうだ。星間警察機構では赴任した先の法令に準ずるんだろ? オレもそうさせてもらう」
「詳しいわね。アナタ、民間人…よね」
カキンッ ピィィィ…
硬質な、しかし金属とは違うクリック音に続いて高周波の音がタケシの背後で高まっていく。
(この音…銃のロード音? ギャノンスーツのことも知ってるようだし…どうするか)
「色々とお話しを伺いたいわ。スーツは転相収束、ゆっくりこっちを向いて」
「…フェイズアウト」
コマンドと共にギャノンスーツは虚空に飲まれ、元のライダースジャケットとジーンズに。
そして振り向けば
(ギャノン…?)
港の保安灯が差し込む薄暗がりの中、黄橙色のヒト型が銃を構えて立っていた。薄いグレーのボレロ風半袖プロテジャケットにサイドスリットのタイトスカートを纏う。『中の人』は間違いなく女であろう。色や体表の模様などに幾分違いはあるが、その金属的な輝きは紛れもなくギャノンスーツ。右手の銃は地球ではお目にかからない姿形だ。
(何なんだ、このゴッツい銃? DE.50AEもビックリだぜ。風穴どころか蒸発しちまうんじゃないか? こりゃ)
タケシの言っているDEとはデザートイーグルのことで、地上最強の拳銃の一つと言われるもの。それを凌駕する大きさなのだからタケシが驚くのも無理はない。
「アンタ、何者だ?」
「お久しぶりね、風音君。今朝ぶりかしら。頭部収束」
目の前の人物の頭部マスクが虚空に消えると同時にファサァっと流れ落ちる栗色の長い髪。その素顔が露わになった。
「エェッ? 守人さンッッッ???」
素っ頓狂な声でタケシは驚く。そこに立っていたのはタケシがよく見知る女性、守人ルミだったのだから。
「とりあえず、これは返しておくわ」
「これって…」
茶革の指ぬきグローブを差し出され困惑するタケシに構わずルミは続ける。
「コドモがこんな時間にウロウロしてるのはいただけないわね。親の顔が見てみたいもんだわ」
ルミの言葉が気に障ったのだろう、タケシはムッとし、にわかに表情が険しくなる。
「記者でありながら警察に情報を提供しないとはどういう了見かしら? ワステロフィじゃ取材対象の情報提供は義務なのだけど」
普段もそうではあるのだが、今日はやけに高圧的なのが鼻についた。売り言葉に買い言葉。タケシは敬語をどこかに忘れてきたのか、職場の先輩にタメ口で返す。
「ここは地球ってとこなんでね」
「そうもいかないわ。デギールの支配範囲が広がっている今、この星も準捜査対象に、間もなく指定される。間違いなく。私はその先見隊ってとこ。指定する必要性の有無を調べにきた。で、このありさまってわけ。準どころか要捜査対象でもいいくらいだわ。それでアナタ、デギールについてどこまで掴んでいるの?」
「…さてね」
「ふぅん、とぼけるんだ。ねぇ、アナタ何でヘブン、というかデギールを探ってるの? 何か事情があるって言うなら聞くわよ。これでも警察なんだし。そもそも会社の上司でもあるし」
「…言えるか、そんなこと…」
ぶっきらぼうに答えるとそっぽを向く。
「そう。それなら仕方ないけど。でもダメよ、コドモがこんな危険なことしちゃ。親御さんだって心配するでしょうに」
「ウルサイなっ! 何をどう取材しようがオレの勝手だろっ! ゴチャゴチャ言うなら今ここで決着着けてもいいんだぜッ?」
タケシは手にしていたグローブをルミに叩きつけた。瞬間怯んだルミの銃の射線から逃れると
「フェイザーッ!」
フェイズヘイローへ飛び込み、ギャノンスーツを相着。そして床に転がっていたギャノンブレイドを拾い
「ブレイドッ! ギャノンブレイカーッ!」
ルミへ飛びかかった。
しかし。
「何だこれ? …なぜ動けない…?」
下から胴を薙ぎに行った青く輝く刃はルミの左脇腹で止まり、まるで油切れを起こした機械のように、タケシはギシミシとして動けない。
「なるほど、そういうことね。相打ち防止の~制限装置を知らない、のか」
「リミッター?」
ルミは事態が掴めぬタケシをキッと冷たく睨みつけると
「先攻捜査隊一査ルミエール=シューレンの名に於いて。制限装置解除。コード24284756。解除確認。スーツってのはこう使うのよッ!」
ドゴォッ
右ストレートが身動きの取れないタケシの顔面へ。
「グアっ!」
強か殴られたタケシは3mほど後方へぶっ飛ばされた。駆け寄ったルミは仰向けになったタケシに銃を構える。銃口はタケシの眉間を狙い真っ直ぐに見下ろしていた。
「所詮はコドモのクセに知った風な口を聞くなッ! こっちは小さな行政区分どころじゃない、星、しかも幾つもの星々の治安のために戦っているッ! 素人のアナタに、それの何が分かるッ?!」
怒声がもぬけのカラになった倉庫内に響き渡る。
「ク、ソォ…」
銃口に睨まれ身動きの取れないタケシは悔しさに呻くくらいしかできなかった。
「オーギュメントが使えるくらいでイイ気にならないで! さっきの戦闘見てたけど何アレ? スーツの、オーギュメントのおかげで速く動けるだけで、ブレイドの扱いなんか全然素人。あんな見え見えの攻撃なんか目を瞑ってたって避けられる。来る瞬間が分かっているなら防御なんか簡単だもの」
「何ィィ…」
タケシは歯軋りをして悔しがる。己の未熟さを『先生』に指摘されるのはともかく、大して交流もない上司に上から目線で罵り付けられたのだ。しかも先生と同じ言葉で。何だか先生が侮辱されたような気にもなった。
「クソォ…」
タケシはゆっくり立ち上がり。
「ギャノンブレイド! ブレイカー!」
「何よ、私とやる気? いいわ、相手になってあげる。オーギュメントが使えるくらいでイイ気になってるその鼻っ柱をポッキリ折ってあげるわ。ブレイド!」
ルミは銃を格納し左腰のホルスターからブレイドを抜いた。が、タケシの物より随分と細い。というのもルミのメインアームは銃なのでブレイドはいざという時のための予備。警察官の伸縮式警棒のようなものだ。
その見るからに非力なブレイドに驚く気配をルミは見抜いていた。
「アナタ程度ならこれで十分。リミッターは切ってあるからいつでもどこからでもかかってきなさい」
「こっちのは当たればタダじゃ済まないぜ?」
「当たればの話でしょ?」
「言ったなッ!」
タケシは一気にケリをつけるつもりでツキに行く。微かに剣を下げるフェイントを入れて。目が良い連中はツキからの変化と気付きガードを下げるのだが。
ス…
「何ッ?」
喉ど真ん中を狙い鋭く走ったブレイドは、しかしあっさりと躱される。
(もう一度!)
今度は確実に仕留めようと胸ど真ん中、心臓をひと突きするコース。
「ハァッ!」
ガシィ キンッ
しかしルミのブレイドはそれを軽く払い絡めとるように円弧を描き、タケシのブレイドを地面へと押さえ込む。そればかりか
「ハァッ!」
ドォッ
「ドワァ?!」
払った動作に連動して流れるように左回し蹴りがタケシの右脇腹へ飛び込む。ガラ空きだったゆえにマトモに入り、またもタケシはブッ飛ばされた。
「私、ブレイドの扱いは隊じゃ下から数えた方が早いけど体術の方はそこそこイケるのよ。努力したからね。いかがかしら? 舐めてかかった相手に蹴り飛ばされた感想は?」
「クッソォォォ…」
立ち上がるタケシ。しかしタケシは舐めていた訳ではない。むしろ一撃で終わらせるために全力で放ったツキだった。しかも突くことに集中し、無心だった。にも関わらずこうもあっさりと躱されるとは。キッと顔を上げたタケシは奥の手を使う決意。
「アクセル!」
スーツの加速機能でルミの背中を取るつもりだった。背後、しかも死角から刃が走る下からの逆袈裟斬り。
「何ィィィッ?!」
しかしブレイドの振り始めにはすでに振り返ったルミが目の前に迫っていた。
「頭を冷やしなさいッ!」
それよりふた足早くルミのブレイドがタケシの胸をひと突き。赤く細い刃は潰れるように胸部へと貼り付き
ドオォォォッ
「ウワァァァ?!」
エネルギー量が少ないためスーツ全てを中和させることはできないが、それでも胸部は大爆発。またもやタケシは吹き飛ばされた。
(グウゥゥゥ…何なんだこのヒト…強い…剣筋を見切られている…のか? むしろこっちの攻撃より先に動いてる気が…)
胸部からライダースジャケットを露わにし、仰向けにノビたタケシにルミは
「ガテーヌ!」
銃口を突き付ける。
「スーツの件で今すぐしょっ引いてもいいのだけど…デギールを探しているっていう共通の目的はあるのよね、私にも。アナタにも。なら…アナタに選ばせてあげるわ。今この場で逮捕・拘束されるか、さもなければ」
「さもなければ?」
「私に協力なさい」
「…ハァっ?」
突飛な提案にタケシは我が耳を疑う。
「ヒト不足なのよ。ちょうどいいところにいい素材がいた。色々情報も握ってるようだし。利用させてもらうわ」
「現地徴用で警察犬を雇うってことか?」
「それは犬に失礼ね。スーツ窃盗の重大犯罪者が」
「これだから…」
「どうなの?」
遮るように返事を強要される。
「ハイハイ…」
「ハイは一回でいい」
「ハイ…ただ、取材は好きにさせてもらう」
「それは構わないわ。スーツ窃盗犯がひとり消えたところで問題にもならないし」
「…ヒデぇな」
「それじゃ司法取引成立ってことで。そんなカッコのままじゃ話もできないから、相着を解除して立ちなさい。もちろん両手は頭の後ろに組んで」
「チッ…ハイ…」
スーツは再び虚空へ消え、タケシは徐に立ち上がった。もちろん両手を頭の後ろに組んで。
「それで? アナタはどこまで知ってるの?」
向けた銃口はタケシの眉間を見据えたまま。
「…デギール自体は直接的な犯罪を犯さない」
「どういうこと?」
「あちらさんも人手不足なんだろう。こっちでは、地球に元々あった犯罪組織を利用している」
(なるほど…)
ルミとて地球へ来て何もしていなかったわけではない。編集部の仕事の合間合間に街へ出てはデギールの痕跡を追っていたのだ。
「通りでデギールの尻尾すら掴めない訳だわ。でも何のためにそんな周りくどいことを?」
「さぁね。とにかく地球の既存の組織を使って何かをやろうとしている。それが何かは分からない。だが動いていることは確実。オレが知ってるのはそこまでだ。これからまだまだ調べなきゃいけないことが山ほどある」
「それで? 次の『取材先』は? もう決まってる?」
「目星は付いてる」
「ふーん…」
ルミは少し考え
「それじゃこれからは『取材』に私が同行するわ」
ルミは銃の構えを解いた。先ほどまでのでキツい物言いがいささか和らいだ。
「ハァァァっ?」
一方タケシは驚きというより心底嫌そうな顔。
(コテンパンにしたかと思えば一緒に来るとか言い出すし…何なんだ? このヒト…)
困惑するタケシ。しかしその脳裏に、マンスリー編集部で内々に広まった『言い伝え』が浮かんだ。
『触らぬルミに祟り無し』
言葉の真意を理解していなかったタケシはこれまでもたびたびルミの逆鱗に触れ、編集部内では『神に抗う者』と密かに呼ばれているのだが。
(…逆らわない方が身のため、か?)
ルミの強さは身を以て体験した。タケシはある意味武人でもあるため、性別関係なく強い者には敬意を表する。つまりはルミを認めた訳だ。
方やルミはやはりお構いなしで続ける。
「それからアナタのスーツ、登録するわね。一時的にでもアナタのスーツを私の管理下に置けば私の部下扱いで行動の自由は確保できるから。ちょっとじっとしてて」
ルミはそう言って右腕のブレスレットから空中モニターを呼び出し、何やら操作を始めた。
「…あれ? 規格違うのかな…あ、通った! ここを…こうして」
ルミが腕元のモニターに気を取られているのをいいことに、タケシはソロリソロリと後退る。そこへ
フォンフォンフォン…
遠くから無数のサイレンの音。
「!? もう来た!?」
ルミが音の方向に顔を向けたその瞬間。
「オレは警察の厄介にはなりたくないんでね! フェイザー! アクセル!」
タケシは掛け声と共にギャノンスーツを相着するや、あっという間にルミの前から姿を消していた。
「な… かーざーねーっ!」
と、ルミは地団駄を踏む。
「あーっ、もうっ! …っていうか私もお暇しなきゃマズいわね」
倉庫の窓から月明かり。その明かりが作る影に黄橙色のギャノンスーツは消えた。
◆
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
何事?かと思えばこれはルミの声。枕に顔を埋めて大声を上げていたのだ。チラリと時計に目をやれば日付が変わってすでに1:25。
「…もうこんな時間、か…」
こんな時間、だからこそ枕に顔を突っ伏して消音していた訳だが。自室に戻ったルミは先ほどの出来事を思い出し反芻していたのだった。
「ああああ、もう! もう! もう! 私、またやっちゃったわぁ…ホント頭に血が上るとダメねぇ。なにーにが『頭を冷やしなさい』よ。よっぽど自分の方がカッカしちゃってんじゃない。あんなに高飛車に出ちゃったら捜査協力なんかしてくれないわよ。あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙もお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙」
再び枕に顔ダイブ。
「ふぅ…それにしてもやっぱり風音君だったとはねぇ…なんか時々目付きがキツかったな…何だろ? なんか気に触ることでも言ったのかな、私。でも取材は良しとしたけど、そもそも民間人が首突っ込んでいいってもんじゃないし。うん、そう。そうなのよ。やっぱり私は正しいのよ。捜査協力ってことで私が管理した方が良いのよ。 …多分。 …ちと釘刺しとくか。オービターのホスト経由ならこっちの身バレもないだろうし…」
と、ルミは枕元のスマホを取りポチポチと入力、メールを送信。
「これで良し、と。あとは彼の出方しだい」
ピロピロリン
「ん? メール? 誰…エーッ? 早ッ!」
メールの主はタケシだった。
〈送信者:風音タケシ
題 名:これ守人さんですよね?
本 文:なし〉
「な…バレて、る…?」
ルミが返信。
〈何を根拠に?〉
すぐに返事が来る。
〈送信者:風音タケシ
題 名:こんな変なメアド心当たりが一つしかない
本 文:なし〉
「むッ!」
〈そうよ。私は守人ルミ。こんばんは。まだ起きてたの?子供はさっさと寝なさい。それはそうと捜査に協力してもらうとは言ったけど一人で勝手に突っ込んで行かないこと。そもそも民間人が関わっちゃいけないことなんだから。風音君に事情があるのなら私は聞くわ。だから情報があったら私に回して。一緒に行動します。〉
「送信、っと」
〈送信者:風音タケシ
題 名:メール長い
本 文:なし〉
「にゃぁにぃうぉぉぉッ!? こっちゃ辺境惑星のローテク文化でひぃこら言いながらがんばって打ってるのにぃぃぃぃ!」
〈本文くらい打ちなさい!(怒)〉
〈送信者:風音タケシ
題 名:無題
本 文:それは失礼〉
「かぁぁぁざぁぁぁねぇぇぇッ!!!!!」
〈送信者:風音タケシ
題 名:で
本 文:情報はメールで送っちゃっていいの?〉
「あ、あれ?」
〈それはダメ。傍受される可能性があるから。重要な話は実際に会って聞きます。〉
〈送信者:風音タケシ
題 名:りょ
本 文:取材予定が1つありますがどうします?〉
「『りょ』? 何これ…どういう意味…?」
〈もちろん同行します。まずはお話を聞きたいわね。お昼ごろ来られるかしら?ランチしながら話を聞こうと思うんだけど。どうかしら?〉
〈送信者:風音タケシ
題 名:りょ
本 文:明日着いたらメールします〉
〈わかりました。詳しいことは明日聞きます。それではおやすみなさい。〉
〈送信者:風音タケシ
題 名:おや
本 文:なし〉
「…『おや』? なんだ…何? どういう意味…?」
ルミはしばらく待った。もしかしたらタケシが打ち間違いを途中で送信したのかもしれない、と思ったからだ。しかしタケシからのメールは無かった。
「まぁこっちがおやすみなさいって言っちゃったからな。もう寝ちゃったのかな…『りょ』とか『おや』って…何なの? …あんまり怒ってなかった…のかな? …まぁいいわ…ってこんな時間ッ!?!?!? んもぉぉぉ! こっちは朝早いってのにィィィィッ! ムキーっ!」
時計はすでに2:00を回っていた。ちなみに明日、いや本日のルミは5:00起きでやらねばならない仕事が編集部で待っているのだ。
◆
「おせーぞ(小声)」
「スマン(小声)」
「代返しといた(小声)」
「恩に着る(小声)」
翌日一限目一般教養の哲学にタケシは遅刻した。昨夜はあれから走り込んでいたのだ。悔しかった。ルミは強いと認めつつもあれだけ一方的にやられては立つ背がない。ましてバイト先へ行けば嫌でも顔を合わせなければならないのに。そして走っているところへルミからのメール。走っては止まり走っては止まりで時間を食い、家に戻れば時計はすでに2:00を回っていた。部屋のベッドに倒れ込んで、そこからの記憶がない。
周りの明るさにハタと気づいて大慌てで家を出、いま新橋の隣に座ったところだ。
「目覚まし掛け忘れてな(小声)」
「まぁいいさ。何か奢れよ。昼メシ、学食で食うか?(小声)」
「悪ぃ、この後用事があって(小声)」
「忙しいのう。じゃ四限はサボり?(小声)」
「いや、戻ってくる。自分で選んだ選択必修だからな(小声)」
「ほお、殊勝なことだ。俺
「そこ。コソコソ五月蝿いですよ」
「「すみませんしたっ!」」
教授に注意されると揃って立ち上がり、頭を下げた。
(まったく…守人さんが余計なメールをしてくるから…)
そのルミとはこの後会うことになっているわけだ。正直今は顔を合わせたくない相手。タケシは少々気が重かった。
◆
「いらっしゃいませ。あ、守人さん、まいど!」
編集部の入るビルから程近い場所にある喫茶店ルーブル。編集部員もよく利用するのだが、特にルミはお気に入りで週に何度も通っている。
「こんにちは、店長。Aランチを、パンとホットコーヒーで」
入ってくるなり、ズガズカとタケシの方へ向かい、ドカッと座って開口一番。
「何なの、あのメール!」
到着を知らせようとタケシはメールを送ったのだが、文面がお気に召さなかったようだ。
〈送信者:風音タケシ
題 名:ルーブルでAランチ
本 文:新ネタ入荷〉
「あれじゃ分からないでしょう? アナタも物書きなら少しは文面考えなさい」
「ハイハイ」
『メールは傍受されるから』と言うからワザワザぼかしたのに…と文句の一言も言いたかったタケシだが、言えばまた面倒なことになりそうだ、と敢えて口を噤んだ。
「ハイは一回でいい。で、取材って?」
「詳しくはこれに」
タケシは小さく折り畳んだメモを渡した。読んだルミが切り出す。
「で、これ、どうするの? また潜り込むつもり?」
物騒な会話にも聞こえるが、両者とも雑誌編集の関係者と知っていれば、その取材の打ち合わせ程度の会話に聞こえなくもない。
「そのつもりだ。今夜にでも、早速」
「わかった。私も行くわ」
タケシの顔にはあからさまな「勘弁してくれ」という表情が出ているが、ルミはお構いなしだった。
「校正が立て込んでるからちょっと遅くなるけど、21:30でどうかしら」
「……ハイ」
もはや『首の皮を親ネコに咥えられた子ネコ』の如くタケシは無抵抗である。
「いいお返事ね。じゃ、お昼をいただきましょう」
ルミは、運ばれてきたAランチのチキンソテーに満面の笑みで手をつけた。
「今日はこれから入稿?」
「え…?」
「コラムの締切って今日よね」
にわかにタケシの顔が青褪めた。
しかしこの時、ルミの背後から立ち上がった黒ずくめの男がいたことに気付かなかった。ルミはもちろん、タケシも。
◆
「よー、守人クン」
編集部の廊下で、昼食から戻ったルミに岩竹が声を掛ける。
「ただいま昼休みから戻りました」
「最近はタケシと仲良くやってんのかい?」
「?!」
(見られていた…?)
ルミは内心ハッとするも表情に出さないよう努め
「ランチに出たら偶然風音君と会いまして」
冷静を装い、落ち着いて返事をした。
「別に隠さなくってもいいぜぇ、邪魔はしねぇからさ。馬には蹴られたくないからな」
「そういうんじゃ…」
「まあいいさ。来週号の校正、進み具合は?」
「6割くらいでしょうか。今日中に、なんとか」
「おお、頼むぜ。もっとも無理はしないようにな。ブラックとか言われたくないからな。ハハハ…」
陽気に笑いながら、岩竹はイヤホンをブラブラさせながら編集部室に入っていった。
「…もう。そんなんじゃないのに」
ルミは溜息混じりにつぶやく。
◆
「締め切りは守れッ!」
檄が飛ぶ。
大声を出す側でイヤホンのケーブルがブラブラ揺れている様子は、発する言葉とは裏腹に滑稽でもある。
「ハイっ! すみませんっ!」
編集長のデスクの前でタケシは直立不動。ルミに負けた悔しさで走りに行ったりしたものだから、原稿の締切を忘れていたのだ。
「学生のアルバイトとはいえ、締め切りは厳守だ」
「ハイっ! すみませんでしたっ!」
製図コンパスのようにポキリと折れ、深々と頭を下げた。
「記事の方は差し替えておいた。守人クンに礼を言っとくんだな。彼女の書き溜めてた分で埋め合わせたからな」
「え? あ…そうっすか。どうもすみませんでした。ありがとうございます」
ルミの方を恨めしそうな目で見るも頭を下げる。
(もー…余計なメールを寄越すからぁ…)
責任転嫁も甚だしい。締切を忘れていたタケシが悪いのだ。
ルミは一瞥しただけで無言。
「それにスクープってわけでも無さそうだ」
ぱさっ
編集長がデスクの上に放ったのは今朝の朝刊。
「お前サンが張ってたヤマだろう。でも警察沙汰とまでなりゃあ、当然、一般紙の一面にだって載ることになる」
一面の見出しは
『【東京・大田区】深夜の倉庫で不審な影 犯罪組織の取引か?』
「で、どうなんだ? 新聞じゃ誰の仕業かまでは書いてない。警察もつかめてないようだが…これもそうなのか?」
「はい。デギールが絡んでるんで間違いないと思います」
「そうか…うちは所詮一般向けの大衆誌だ。欲しいのは一冊でも多く売るためのインパクト。事件の経過とかじゃあない。そんなのは新聞に任せとけ。インパクトのある記事、今度はしっかりキッカリ締め切りに間に合わせろ」
「ハイっ!」
「まぁでも、ケガの無いようにな」
岩竹は立ち上がるとポンっとタケシの肩を叩く。
「ハイっ! がんばります!」
叱咤しても気遣う。そんな編集長の懐の広さに、タケシは心陶するのだった。
■なぜ?なに?ギャノン!
Q6
攻撃を受けても痛そうではないのですが、どうなっているんですか?
A6
スーツは人体へのダメージがないように作られていますが、全く何も感じないとかえって不自然に感じられるので、アタリ判定的に人体へフィードバックしています。その程度フィードバックするかは各自使いやすいように設定できますが、人体が痛みと感じるレベルには入れられないように調整範囲が決められています。
そもそも鉄砲の弾でも大丈夫なのは、ギャニオン流体の皮膜が強いことと、スーツに着弾した際、ギャニオン流体が振動して弾丸の持つ破壊エネルギーが分散吸収されるからです。卵を落としても割れないスニーカーの踵の素材と同じような原理ですね。
では刃物だとどうでしょうか? ギャノンスーツに鋭利なモノを突き立てた場合、単位面積当たりの圧力が高ければ高いほど、つまり鋭利であればあるほどギャニオン流体は硬質化し、同時に突き立てられた物理エネルギー、衝撃や圧力などで弾丸のとき同様振動するので、突き立てた先端が左右にブレてしまいます。もっともナイフの殺傷圏内まで踏み込む頃にはギャノンブレイドでシバかれてしまいますから、ギャノンスーツ相手に刃物を使う者はいない、ということです。
物理的打撃は相当なレベルまで緩和できるのですが、アンチギャニオンのブレイドやエネルギー弾を受けた時は話が別です。もちろん緩和はされるのですが、アンチギャニオンが当たると、大なり小なりスーツの表面がダメージを受け、薄くなってしまいます。そこへ連続して受ければスーツのギャニオン流体は消滅、身体へモロに当たることになり、生身で受けるとグーパンで殴られたような打撃ダメージとなります。刺さったりしない分、人道的ではありますが、さすがに頭部などクリティカルな場所だと命を失う危険性もあります。
Q7
ルミさんの食生活がファストフード中心に思えるのですが。大丈夫でしょうか?
A7
私も心配しています。ルミ、野菜も食えよ!
とはいえ、ルミ自身あまり食への欲がなく、そちらへ贅沢する気もないようなので仕方ないかと。朝晩はもちろんですが、昼食も一人で摂ることがほとんどです。稀に出張先で食べることもありますが、編集部が男所帯なことも手伝ってか、牛丼屋やラーメン屋にもスイスイ入って行きます。そうなると、喫茶ルーブルのランチに付いてくるサラダが唯一の野菜摂取先のような気がします。そういえば、ルミもタケシもルーブルだとAランチですね。ルミがかなりガッツリ食う系に見えるのは、そもそもルミって警察官ですから体が資本。しっかり鍛えているのでお腹も空くのです。ルーブルのAランチは肉系でBランチが魚系、その日の具材入荷によってはパスタなど他の内容に変更となることもあります。ルーブルの店内はFMラジオを流しっぱなしにしています。有線ではなく、AMやテレビでもないあたり、店主のこだわりなのでしょうか?店内は落ち着いた雰囲気で調度品もそれなりにいいものが入っているのですが、FMはラジカセで流しています。CDとか付いてない、まさにラジカセ。ラジオだけ流しているならそうそう壊れることもないのでしょうけど。もしかしたらカセットテープ部は新品同様かも。それならラジオを買って来ればよかったのでは?と思われるでしょうが、店内に流すとなるとそれなりに大きな音が必要となるので、大きさで選ばれたのだと思われます。