第二章 もう一人のギャノン① 島津
数日後。
タケシのバイクは幸せそうな人々で溢れる喧騒の繁華街を抜け、夜の闇を目指す。
程なくして着いたのは都内、零細企業の小さな工場が立ち並ぶ地域。昼間は部品製造で賑やかなこのエリアも深夜ともあれば静寂に沈む。都内とはいえそのような場所ゆえに人影はない。そのエリアの公園にタケシはバイクを停めた。
「こっちは武器の取引があるって聞いてた割にはずっと空振りだったからな。今日はどうだ?」
タケシは夜の闇に紛れ、とある古びた倉庫へ接近していく。
◆
並びの工場や倉庫が真っ暗に寝静まる中、一つだけ明かりを灯し起きている倉庫がある。タケシは窓から様子を覗った。中では黒づくめの男たちが運ばれてきた荷物の中身を確認している。
「どうだ、使えそうか?」
一人の男が部屋に入ってきて、黒服たちに声をかける。フライトジャケット風の上着に下はジーンズとスニーカー。サングラスをかけていることを除けば特に目立つ服装でははないが、190はあろう長身は人混みの中でも目立つだろう。
このノッポは島津薫37歳。一匹狼の武器商人で、方々に顧客を持つ。
「ええ。どれもこれも、新品同様。今チェックした分には動作不良もありません。あっちもそうですが、よく手に入れましたな」
取引相手であろうか、もう一人、小太りの男がいた。個人経営の運送屋『丸亀運輸』の社長、亀田広吉。
「大変さァ、何しろドンパチやっちまってっからな。長ェヤツはみんな戦場行き、短ェのしか手に入んねェ。そのデケェヤツもやっとこさ手に入れたんだぜェ?」
(何の話だ? デカいヤツって、箱がハンパなくデカいんだが)
『デケェヤツ』で指し示された木箱はトラックに乗せたままになっており、開かれた荷室のドアからチラリと見えるのみ。ただしそのチラ見えだけでもかなりの大きさだとういうことが窺える。
「危険ではないのですかな?」
「信管は抜いてある。よほどの衝撃でも与えなけりゃ大丈夫だろ」
(信管? 爆発物か? あの大きさじゃマジでヤバいんじゃないか?)
「信管はどうするので?」
「報酬と引き替えだ」
「なるほど。用心深いですな」
「ったりめぇだ、こっちゃ商売でやってっからな。信用できっかどうかの選別はするぜェ。こっちは田上のおやっさんのところへ行くんだろ?」
島津は箱の中の荷物を一つ取り出し、上から横から状態を確認している。
「その通りで。我々丸亀運輸が責任もってお運びいたします」
「頼んだぜ」
(あれ! MP7っ! ってことは前のコンビニ強盗のヤツが持ってたのって、コイツルートで? 許せねぇ!)
タケシは単純な男であった。19歳という若さがそれに拍車を掛ける。かのメロスもビックリの単純さにマスコミ志望の好奇心が加わり、危険を顧みずどこにでもクビを突っ込む。
「誰 うわァッ?」
いつの間にやら裏に回り、すでに裏口のドアは蹴破られ見張りが数人倒されている。
「ん? 外が騒がしいが…どうした?」
ドア横で見張りに立っていた黒服の一人がノブに手を掛けると
「ガァッ!?」
そのドアは外から開かれた…というより吹き飛ばされた。
開けた主はタケシ、いや、スーツを相着したギャノンであった。ナイフやら銃やらをもった黒服たちが一斉にかかるがブレイドで薙ぎ飛ばされる。
フッ…
ブレーカーごと落とされたか、すべての照明が一気に消え、一面真っ暗に。
「どけ! コイツァ俺が相手する! おっさんはさっさと車を出しなっ!」
「了解しましたよ!」
少々錆びついたシャッターがガラガラッと勢いよく開けられ、亀田や黒服を乗せたトラックはみな出ていってしまった。
「あ、しまった! 待て!」
「させねェよっ!」
追いかけようとしたギャノンの前に島津が立ちはだかる。
「一人で乗り込んでくるったァいい度胸だ。オマエ、ハマじゃあちこちで暴れてるらしいなァ」
「アンタがここのボスかい?」
「さあな」
「『石廊崎事件』を知っているか?」
「何のことだ、知らねェよッ! パゾル!」
光の幕が現れ、そこから漆黒のスーツ。
「赤い刃が使えるのは自分だけと思うなよ。シュヴェルト!」
右手から光の刃を展開し、島津が斬り込む。
「商売のジャマすんじゃねェッ!」
すかさずタケシは応戦。しかし長身から振り下ろされる刃は剣先が速い。タケシも防ぐのがやっとだ。
「クソッ…ギャノンブレイカー!」
タケシのブレイドが赤から青に色を変えるが
「バルスト!」
それは敵も同じであった。
「なんだとッ? トゥーーー!」
ガシュッ
ガシュッ
高エネルギーのブレイド同士がぶつかり合うたびに小さな爆発を起こす。
「なかなかやるじゃねェかよ!」
「そいつはどうも!」
「オメェ、剣道でもやってたかァ?」
「分かんのかよ!」
「ああ! 部のヤツら、全部ぶっ飛ばしてやったからなァ!」
「アンタも剣道、やってたのかよ!」
「そんなの関係ねェぜ! 柔道部も空手部もみんなぶっ飛ばしたからなァ!」
(コイツ、めちゃくちゃ強ぇ??)
島津の剣は速く、鋭く、力強かった。ギャノンスーツにギャノンブレイドでこれほど苦戦するのはタケシには初めての経験だ。身に当たればアウトだということはタケシも重々承知しているため、一気に攻め入ることができない。むしろ相手は長身を生かして攻め込んでくるので、形勢はややタケシが不利と言える。やがて押される場面が増えてきた。しかし…
(どういうことだ?)
剣を交えつつ、タケシの頭の中に疑問が湧いた。
(オレの剣、そんなに遅くはないハズだ。でも)
ガシュッ
(ことごとく防がれている…)
ガシュッ
(まただ! まるで『先生』を相手にやってるみたいだ。こっちの出方が読まれてるような…)
◆
タケシはかつて剣道の道場に通っていた。現在では道場主が他界し、後継者もないので道場は閉められた。
それはタケシが小学校を卒業、中学へ上がるまでの春休みで手持ち無沙汰だった頃。暇ゆえに連日その道場へ通っていた。
ダァン
「イッテェェェッ??」
「脚が留守じゃぞ! バカモンが!」
この道場、少々風変わりなところがある。
まず面、小手、胴、垂れの防具を身に付けない。道着と袴、それだけである。この格好のまま竹刀で打ち合うが、上段者は木刀同士でやり合う。無論当たれば怪我くらいはする真剣勝負だ。
そればかりでなく、通常メン、コテ、ドウの決まり手に試合ルールによってはノドへのツキが加わるが、この道場では脚だろうがどこだろうが構わず打ち込んでいいことになっている。「戦で脚を斬られたら戦いにならんじゃろがい」というのが、タケシが『先生』と呼んでいる、齢90を目前になお元気な行方翁の言。ついでに「メン」だの「コテ」だのの技名コールも無い。あまりにも個性的な流派、というよりこの道場でしか存在しない流派である。それゆえ他の道場との試合もなく、級位段位は『先生』相手に何分喰らわずに済んだかで決まる。逃げ回った者は即失格なので退くことすら許されない。
さてその道場にてタケシは稽古をつけてもらっていて、左スネを強か打ち込まれたところだ。不思議なことに、同じ竹刀なのに上級者に打ち込まれると、非常に痛い。その痛みは体表ではなく骨の芯からやってくるのだ。
「うおぉぉぉぉぉ…」
今タケシは打たれた左脚を抱え、道場の床板上をゴロゴロと悶え転がっている。
「その程度で痛がるな。少し休憩じゃな」
そう言って行方翁は竹刀を置いた。現在道場内にはタケシ以外の門下生はいない。よってタケシがヘバればそこで稽古は中断となるのは当然なのだが…タケシは自分以外の門下生を見たことがない。もしかして門下生は自分一人なのでは…?とうっすら思ったりもする。
「先生!」
「なんじゃい」
翁が振り返ると正座になり両手を付いたタケシがいる。
「なぜオレの剣は掠りもしないのでしょうか?」
タケシの目は真剣だ。
「来るのが分かっていれば避けるのは簡単じゃろうが」
「分…かるのですか?」
「当たり前じゃ。わしをなんだと思っておる」
「それは分かってはおりますが…しかし…どうやって…」
「おぬしは特に分かりやすいの。メンならメン、コテならコテ、狙っているところが見え見えじゃ」
「そうなんですか…」
「相手の目、姿勢、仕草。そういったものを見極めることで相手の考えていること、狙いが透けて見えてくるもんじゃ」
「はぁ…ですがオレには…先生の狙いが見えてきません…いつも思わぬところから剣が飛んできます…」
「そりゃそうじゃろう。わしは何も考えておらん」
「…は?」
「考えれば読まれる。なれば考えなければ良い。そういうことじゃろ?」
「そう、ですが…エエッ?」
「考えなければ何もできんが、考えずとも何かできるよう日々鍛錬しておれば、次の動作は自然と出てくるもんじゃ。要はタケシ、おぬしは稽古が足らん。そういうことじゃの」
「は、はい…精進します…」
◆
(どういう理屈か知らないが読まれてるって思った方がいいな…)
ガシュッ
(それなら…心を無にして…)
ガシュッ
(牛丼食いてぇ)
ビッ
「何ィ?」
タケシのブレイドが島津の腕を掠めた。
(紅生姜たんまり乗っけて…いや、ラーメンもいいな、涼しくなってきたし)
ビシッ
「またかッ?」
さっきまで何事もなくタケシの剣を躱していた島津に余裕が無くなった。
(ニンニクどっさり行きたいけど、明日学校かぁ… あれ? レポートの提出期限って明日だっけ?)
ビシッ
「コイツ急に…何考えてやがるッ?」
(あれ? なんか分かってきた…このおっさん、動揺してるな…こう狭い場所じゃ使いにくいが…南無三!)
「だがそんなの関係ねェ!」
鍔迫り合いから一旦間合いを置く。
「テメェ! ブッ潰す!」
「アクセル! トゥーーー!」
島津が斬り込んでくるタイミングで、タケシが踏み込んだ。そして速い。まるで島津の前から突然消えたかのようだ。島津のブレイドが空を斬る。
「何ィィ?」
敵が振り返るより先に、タケシはすでにウラを取っていた。完全無防備な敵の背へ最上段へ振りかぶり
「ギャノォンブレイカァァァァ!」
島津の背へブレイドが走る。
ドゴォッ
これで終わったか。いや、島津はまだそこに立っていた。
ギッシィィィィ
タケシの切っ先には敵のブレイドがあった。振り向きざま咄嗟にガードされ力を乗せ切れず、攻撃が完全には通らなかった。
しかし。斬り下ろす一瞬、タケシの剣にはためらいがあった。そのためらいが作ったスキが、わずかに敵が防御するスキとなってしまった。
「クッソ! 甘くなった!」
「グヌゥゥゥ…コイツ、なぜ急にこんなに…クソッ、ちっと用ができた。じゃあな! パゾル!」
右腕を薙ぎ払うと足元に黒い穴が現れ、島津はその中に飛び込み、姿が消えた。
「消えた…? クソッ。逃げられたっ!」
◆
島津が消えた後、倉庫内を見回せば荷物は全て運び出され、すでにもぬけの空だった。
「チィっ! …あのデカいの、思ったよりやるヤツだったな…」
悔し紛れの言い訳をブツブツ言いつつも何か手がかりはないかウロウロと倉庫内を見回っている、その時。
「動かないで」
◆
■なぜ?なに?ギャノン!
Q4
メガネや髪の毛はどうなりますか?
A4
胸同様、任務に必要のない部品は別位相空間へ預けられます。視力については初期設定でスーツ側で調整できるので、裸眼で矯正された視力を得られるためむしろ快適です。
Q5
おっぱいが大きいとギャノンスーツはきついのですか?
A5
ギャノンスーツは体型に合わせてフィットします。さらに任務に支障のないよう、無駄な揺れはさせません。なので被弾時に揺れるといったギミックはありません。それだけでなく、スーツ着用時の各種設定により、大きな胸も別位相空間に『預けておく』ことができるので、こちらの相の空間では自分のお好みのサイズの大きさに調整が可能です。ちなみに逆も可能です。ワステロフィとはいえ、見栄っ張りさんもいたりはします。しかし最前線へ出ることの多い人ほどほぼ平らに調整していることが多いですね。ウェストも調整可能ですよ。身長もやってできないこともないのですが、非着用時との間で違和感があるため、実身長通りが普通です。