5話 傷つけるのはダメよっ!
お嬢様がもふもふさんと戯れ始めてそこそこ時間が経過しました。現在、お嬢様は手をいっぱいに広げてもふもふさんのお腹を堪能しています。
あっ、もふもふさんというのは、例の白くてデカいモンスターのことです。なんかもうお爺さんにしか見えないので、私がそう呼んでいるだけです。
で、そのもふもふさんなんですが、なんと!
お嬢様をそっと包み込むように丸まっているんですよ!
すごくないですか? "#リリもふてぇてぇ"で呟ける場所があれば、今すぐにでも呟きたいくらいですよ。
「はぁ……これが癒しなんですね〜……」
――このまま平和な時間が流れてくれればいいのに。
ふんわりと、そう思っていました。
ですが、すぐにその思いは打ち砕かれることになります――。
「いたっ! あそこだ!」
私がお嬢様ともふもふさんの様子に目を細めていたその時、突然、背後から男性の声が聞こえてきました。
――まだ人が?
疑問に思って後ろを振り返ると、こちらに向かって駆けてくる四人組がいました。男性が二人で女性が二人。皆さん、様々な格好をしていらっしゃいます。
「ちょっと! あの子モンスターに捕まってない!?」
「本当です! 早く助けませんと!」
「備えるぞっ!」
「あぁ!」
こちらに駆けてくる、杖と赤いローブを装備した切れ目の女性、紺色の修道服に身を包んだ柔らかい目の女性、筋骨隆々で瞳の大きな男性、そして皮の防具と剣を装備するキリッとした目の男性。
彼らはそれぞれ叫ぶと、各々戦闘態勢に入り始めました。
――マズい、絶対に勘違いしています!
「あ、あの」
「そこの方、もう大丈夫です! あとは僕らに任せ――」
と、剣を持つ男性が言いかけた瞬間でした。
一瞬、男性が目を見開いたかと思うと――。
「ダメぇぇぇぇっ!!!!」
「なっ!?」
「はっ!?」
「えっ!?」
「ちょっ!?」
「お嬢様!?」
今度は、お嬢様の叫び声が後方から聞こえてきました。
そちらに振り向くと、なんとお嬢様が大剣を構えて立っていました。
もふもふさんを庇うように、こちらに剣先を向けるお嬢様。その目は精一杯睨みを利かせています。
「きみ、いったいどうして……?」
私の隣にまで来ていた剣士さんは、目を真ん丸にして尋ねます。すると、お嬢様は力強く答えました。
「だってこの子、まだ何もしてないじゃないっ!」
「……でも、何かあってからじゃ手遅れだよ?」
「っ……。そ、それでも、傷つけるのはダメよっ!」
「じゃあどうするの? このままほったらかすの?」
「うっ、それはぁ……」
剣士さんの言葉に、唇を尖らせて俯いてしまうお嬢様。
斜め上を向いていたはずの剣先も、地面と平行になってしまいました。
場の空気がしんと静まり返ります。
従者である以上お嬢様の味方をしたい気持ちはやまやまですが、剣士さんの言い分もよく分かりますし、一理あると思います。
ですが、お嬢様の味方はこの場に私しかいません。
不安そうにチラリと私を見つめる目が、何よりそれを物語っています。
――あぁ、私はお嬢様にどうして差し上げればっ……!
唇を噛み、とりあえず何か言葉を掛けなければと口を開いた、その瞬間でした。
「嬢ちゃん、その子を仲間にしたいのかい?」
ふと筋骨隆々の男性が前に歩き始めたかと思うと、腰を屈め、お嬢様に問いかけました。
「え? あ、えっと……えぇ」
「よしっ。なら、俺がその子を一度テイムしよう」
「テイム……?」
――テイム?
聞き馴染みのない言葉に、お嬢様も私も頭にハテナマークを浮かべます。
「あぁそっか、悪い。俺らみたいなの以外はあまり聞かない言葉か……。えっとテイムっていうのはな、簡単に言えばモンスターを仲間にできる能力のことだ。で、俺が一旦その子を仲間にすれば、その子に指示を与えられるようになる。それを利用して、仲間にしたその子に、君の仲間になるよう指示を出すんだ。そうしたら、実質お嬢ちゃんの仲間にできるってことだ」
うーん、なるほど?
つまり、もふもふさんを一度男性の仲間にし、言うことを聞いてくれる状態にすることで、改めてお嬢様に付くよう指示するということですか。
なんだかナビ・アンガイさんがよく遊んでいたというポ◯モンみたいですね。
そうすればもふもふさんはお嬢様の仲間という扱いになるので、もふもふさんと戦う理由はなくなりますからね。
おまけに"リリもふ"をいつでも拝めるようになる(?)。
確かに理に適っていると思います。
「アイツ、考えたわねー」
「テイマーの能力者さんらしい発想ですよね!」
私の両端に立つ赤いローブの女性と紺色の修道服の女性からも称賛の声が上がり、剣士さんも「なるほど」と頷いています。皆さん、あのテイマーさんの提案に納得しているご様子です。
ですが皆さん、あの問題に気づいているのでしょうか?
「えっと、分かったかいお嬢ちゃん?」
「要は私の仲間にしてくれるのね!」
「まぁそういうことだ!」
「じゃあお願い!」
「よっし、任せなっ! そこの付き人さんもいいかい?」
「……え? あぁ、はい」
「ありがとう!」
テイマーさんの勢いに押されるがままに私が答えると、テイマーさんはズボンのポケットから透明の鉱石のようなものを取り出しました。
そして、もふもふさんに近づいたかと思ったその時。
――っ!?
テイマーさんはなんと、もふもふさんに狙いを澄ますかのように鉱石を構えるのでした。
うちのお嬢様ともふもふさんのカプ、尊すぎて死ねます。
#リリもふてぇてぇ




