4話 おっきぃー!もふもふー!
それから道を駆け抜けた私たちは、ようやく目的地へと到着しました。で、到着したのはいいんですが――。
「……デカいですね」
「……はい、とてもデカいです」
港町のど真ん中。その道を全て塞ぐように、全身体毛で覆われた白くてデカいモンスターが、うつ伏せで寝そべっていました。
ここの道幅は人が六人ほど並んで歩けるくらい広いはずなんですが、その端から端まで白いモンスターが占領していて通れない状況です。
そして高さは、モンスターのすぐ横にある三階建ての宿屋以上はあるでしょうか。私たちを呼びに来た男性の言う通り"とてもデカい"です。
そんなモンスターが珍しいのでしょう。私たちの背後には沢山の野次馬……いえ、町の人たちがいますし、モンスターの向こう側からもワイワイと騒ぎ声が聞こえてきます。
ついでにお嬢様も口をポッカリとお開きになっていますね。
「ところでですが、どうしてこんなモンスターが急に?」
「えっとですね、町中に見かけない小さなモンスターがいるなと思ったら、突然巨大化しまして……」
「ということは、元々は小さかったんですか?」
「はい。僕もその姿は見ましたので」
なるほど、元々は小さかったんですか。ということは、何か巨大化することになった原因があるはずです。裏を返せば、原因が分かれば小さな状態に戻すのも可能ということですね。これは大きな収穫かもです。
ただ、一つ気になるのは――。
「因みに、町長さんはどちらにいらっしゃいますか?」
そう、この町を仕切る町長さんの存在です。
このような緊急事態が起こっているのなら、真っ先に私たちを出迎えてきそうなものですが……、見渡しても姿が見えないので出張なさっているのでしょうか?
「町長さんですか? えーっと、それは……」
すると、私の問いに何やら言い淀み始める男性。
何かあったのでしょうかと首を傾げていると、男性は一度ほうっと息を吐き、やがて意を決したように言葉を紡ぎました。
「町長さんは二日酔いで欠勤されています」
「…………はい?」
えーっと、うん?
「申し訳ありませんが、もう一度伺っても?」
「町長は二日酔いで欠勤されています」
「はぁーっ!?」
「メイディさん、怖いです……」
え、何やってるんですかその人?
こんな緊急事態に欠勤? それも二日酔いで?
冗談じゃないですよっっっっ!!!!
こっちは普段内政+お嬢様のお世話があるというのに、欠勤するまで呑んだくれるとはいいご身分ですねぇ!
「次会ったらナイフで◯◯て、◯◯て、◯◯◯◯てやろうかしら!?」
「メイディさん、声に出ちゃってますって!」
「えぇ? あっ……」
男性が私と後方を交互に見ながら指摘するので、ふと後ろを振り返ってみると、町の人たちがぽかーんと口を開けてこちらを見つめていました。モンスターの向こう側の声も、今はしんと静まり返っています。
もしかして私、何かやっちゃいましたかね?
「……ごほん。失礼、お見苦しいところをお見せしました。どうぞお気になさらず」
恐らく(というか絶対)無理があると思いますが、とりあえずスカートの裾を持って頭を下げました。
「さて、そろそろ対策を考えましょうか」
気を取り直して本題に入ります。
この大きさで暴れられては町に甚大な被害が出ますので、なるべくモンスターを刺激せず、どうにか別の場所に移動させなければなりません。
ですが、今のところ何も良案が浮かびません。とりあえずお嬢様にも尋ねてみましょうか。もしかしたら意外といい案が出るかもしれないですからね。
「お嬢様、何かいい案は――」
と、お嬢様の方へ振り向いた時でした。
「ほわぁ……!」
「え?」
お嬢様の方を見ると、なぜかお嬢様はモンスターの方を向いて目を輝かせていました。そして私が「あ、あの、お嬢様」と声をかけた瞬間――。
「メイディ、私もう我慢できないわっ!!」
「なっ、お嬢様っ!?」
お嬢様、まさかのモンスターに向かって全力ダッシュ!
からの、モンスターの横腹にダイブ!
「わぁー! おっきぃー! もふもふー!」
そして、モンスターにほっぺすりすり!
「何やってるんですかお嬢さまぁぁぁぁ!?」
思わずお腹から叫んでしまいました。
お嬢様、下手に刺激なんてしましたら……!
「もぉぉふうぅぅぅぅ」
「ぎゃぁぁぁぁっ!?」
ほらぁやっぱりーっ!!
突然巨大モンスターが野太い声を発し、町の人たちは大混乱。背後からは悲鳴に紛れて、「何やってんだぁっ!」とか「余計なことすんじゃねぇよっ!」といった罵詈雑言も飛んできます。喧騒の中、私は思わず右手を額に当てて天を仰ぎました。
まったく、突然町に巨大モンスターは現れるわ、お嬢様は勝手に行動するわ、おまけに町長は使えないわ……。
私もう帰ってもいいですか? まぁダメですよね……。
はい、ここで冒頭に繋がるワケです。
私が疲弊する理由も、なんとなくお分かりいただけたのではないでしょうか?
分からなくてもいいです。私を慰めてください。
まぁ茶番はここまでにしまして……、途方に暮れていても事態は解決しないので、ひとまずできることから始めましょうか。そのためにも、まずは慌てふためく町の人たちを落ち着かせましょう。
私はそう決意し、息をすうっと大きく吸い込むと――。
「静粛にっ!!」
思いっきり叫びました。その所為で喉が少しヒリヒリと痛みますが、皆さんこちらに目を向けて静かにしてくださいました。これで指示が通りそうです。
「皆様、よく聞いてください。反対側にいる方たちもです。ここは私たちが対処いたしますので、皆さんは町の端の方へ避難していてください。様子が気になったとしても、絶対に戻って来てはいけません。命の保証はできませんので!」
私は反対側の人たちにも聞こえるよう声を張り上げました。そして使えない町長に代わって、例の男性に避難誘導を託しました。
これでこの場に残っているのは、私、お嬢様、そしてデカいモンスターだけ。最悪戦闘になっても、町の人たちを傷つけることはなさそうです。
「さて、次はどうしましょうかね」
右手を顎に添えて今一度モンスターを見つめます。
相変わらずお嬢様はモンスターのお腹に顔をうずめ、にへらぁと頬を緩ませています。
一方のモンスターも、あれから咆哮したり暴走したりすることもなく、お嬢様にされるがままで微動だにしません。
――もしかして、お嬢様を受け入れているんでしょうか?
「いや、そんなワケない気もしますが……」
ただ、目の前に広がっている穏やかな光景を見ると、どうしても甘えている孫とそれを静かに受け入れるお爺さんにしか見えないです。
「……まぁ、暫くこのままにしておきましょうか」
お嬢様の幸せそうな表情を崩したくないと思った私は、少しだけ一人と一匹の様子を見守ることにしたのでした。
しかし、この時の私は知りませんでした。
この後に待ち受ける事態を――。
「……ふへぇ、幸せ〜」
?①「ちょっ、あれ見て!」
?②「ん……? はっ!? デカっ!?」
?③「な、なんだか大変なことになっていそうですね」
?④「とにかく行ってみようぞ!」
?①②③「えぇ!」「あぁ!」「はい!」




