2話 まったく、このお嬢様は
というワケで、敷地の外に出てきました。
本日はお日柄もよく、庭の草木たちものびのびと葉根を広げています。庭と言っても辺境地の屋敷なので、柵内のこじんまりとした範囲だけですが。
そんな狭い範囲で戦うと、当然屋敷が傷ついてしまいますので、私たちは文字通り敷地の外――正確には屋敷の裏の空き地にやって来ています。はい、説明は以上です。
「よしっ! これで存分に戦えるわね!」
「お手柔らかにお願いしますね」
二つくくりの髪をぴょこぴょこと跳ねさせながら、身体の前で両腕を振るお嬢様。純白のブラウスと薄桃色のフリル&リボン付きジャンパースカート、それに赤いヒールという、これから戦闘するとは思えないロリータファッションですが、とてもワクワクしているご様子。
こういう姿を見ると、思わず目を細めてしまいますね。
背中の大剣を除いては、ですが。
「それじゃあ早速いくわよ!!」
そうしてお嬢様が叫んだ瞬間、一気に風が真横を通り過ぎ、私の前髪がブワッと浮き上がりました。――かと思いきや。
「はぁっ!」
突然、後方からお嬢様の声が聞こえました。
珍しいですね。――ですが。
――キンッ!
「なっ!?」
私は振り向きざまに右手でナイフを横に構え、お嬢様の剣戟を受け止めました。
「あら、今回は正面からではないんですね」
「っ!」
私は右手をそのままに、左手に持ったナイフをお嬢様の腹部目掛けて突き出します。しかし、寸手のところでお嬢様はふわりと飛び退いてしまいました。
着地し、再び剣先をこちらに向けるお嬢様。やや腰を落としながら両手で大剣を握りしめる姿は、勇ましさと気迫がありますね。
「……やっぱり一筋縄じゃいかないわね。ほんと、毎回どこから取り出してんのよそのナイフ」
「秘密です」
「えー、そろそろ教えてくれてもいいじゃない!」
「お嬢様と言えど秘密です。これは墓場まで持っていきます」
「大袈裟じゃない?」
お嬢様からそんなツッコミが飛んできましたが、秘密なものは秘密です。戦闘スタイルや攻撃主題はできるだけ隠しておく方が得ですからね。たとえ近しい人相手でもです。
因みに、ナイフを瞬間的に生成しているわけではないですよ〜。
「……だったら、メイディが負けたら教えてもらうわよっ!」
「そんなに気になります?」
そう言い終わるかどうかのタイミング。
お嬢様は地面を蹴ると再び切り掛かってきました。
私は右手のナイフを裏手に構えます。
刹那、金属同士がぶつかる甲高い音が響きます。
私はすかさずこれを右に受け流し、左手のナイフを振りかぶってお嬢様の首元を狙います。――が、お嬢様はそのまま私の右横を通り過ぎてしまい。
「甘いわ」
と、振り向きざまに剣を切り上げてきました。
右回転で振り向いた私は、その勢いのまま振りかぶった左手を振り下ろします。
そして金属同士がぶつかり、再び甲高い音が響きました。――その瞬間。
「あら」
左手から得物の感覚が消えてしまいました。
同時に、私は一旦後方へと飛び退きます。
しかし、お嬢様はそれを好機と見たのでしょう。
「覚悟なさい!」
予断を許さず、大剣を振り回して追撃してきました。
――キンキンキンキンキンキン!
私は残った右手のナイフだけでその連撃を防ぎ、受け流し、避けるのを繰り返します。
しかし、一撃一撃がなかなか重いです。
「このままだとマズいですね〜」
「ふふっ、降参してもいいのよ?」
大剣相手にナイフ一本での持久戦は厳しい。
いったいどうしようかと考えていたその時――。
私は一瞬だけ目線を上に向けて「あっ」と呟きました。
「何よ」
そうしてお嬢様が怪訝そうな表情を見せた刹那。
私はお嬢様の腹部を狙って左手を突き出す。――フリをしました。
「おっと」
当然、お嬢様はふわりと右へ(お嬢様から見て左へ)回避。
しかしその瞬間。
――ポスッ。
「えっ?」
先程までお嬢様がいた場所に、飛んでいったはずのナイフが刺さりました。そして、驚いて油断したお嬢様に一瞬で詰め寄り――。
「チェックメイトです」
「……っ!」
その首筋にナイフを添えました。
暫しの間、時間が止まったようにお互い動かず、ただ本物の風が木を揺らす音だけが辺りを支配していました。――やがて。
「……私の負けよ」
お嬢様は大剣を手放し、両手を上げました。
大剣がカランと音を立てて地面に倒れます。
その音を合図に、私もお嬢様からナイフを離しました。
「あぁぁぁぁ悔しいぃぃぃぃ! また負けたわぁぁぁぁ!」
「ふふっ、これで10-0ですね」
本当に悔しいのでしょう、歯噛みをしながら地団駄を踏むお嬢様。その姿に私はクスッと笑ってしまいました。
けれど、途端にお嬢様はふふっと笑うと――。
「……でも、これで少しは気晴らしになったでしょう? メイディ、今すっごくいい顔してるわよ」
そんな混じり気のない無垢な笑みを、私に見せました。
瞬間、言われた私は一瞬ハッとしました。
私を見てニシシと笑うお嬢様。
そのお顔を見ているうちに、胸が段々とじんわりしてきました。
――まったく、このお嬢様は。
「……お嬢様、今日の夕飯は何にいたしましょう?」
「あっ、じゃあメイディのオムライスが食べたい!」
「承知いたしました。コーンもたくさん入れておきますね」
「やったー! メイディだーいすき!」
偶にはお嬢様に振り回されるのも悪くないかも。
なんて思いつつナイフを手元から消すと、お嬢様と一緒に屋敷へ帰るのでした。
メ「お味はいかがですか?」
リ「最高! ありがとうメイディ!」
メ「喜んでいただけて何よりです」
リ「また戦いましょうメイディ! 次こそは勝つわよ!!」
メ「……はい、臨むところです」




