1話 暇すぎるわ!
「暇すぎるわ!」
とある午後のティータイムのこと。突如として部屋中に響いたのは、あどけなさが残る叫び声でした。
その声の主が座っている横で待機していた私は、視線をそちらへ滑らせつつ口を開きます。
「急にエピソードタイトルなんてお読みになって、どうしたんですかお嬢様?」
「初っ端からメタいわよメイディ」
「はて、何のことでございましょう?」
「コイツ」
にこやかに答える私とは反対に、お嬢様――リリア様はジトっとした目で私を見上げます。両耳の上でそれぞれ結ばれた淡いピンク色の髪型は、柔らかくも高貴な印象を与え、二重眉をはじめとする端正でやや童顔な顔立ちは、見る者の心を一掴みしてしまいそうです。
なのにそんな顔をしていては、折角の可愛らしいお顔が台無しですよ?
「いったい誰の所為よ」
「ナチュラルに思考を読まないでくれません?」
「メタ返しよ、メタ返し」
「左様ですか」
頬杖を突きながら依然としてジト目で睨むお嬢様。
これ以上は話が進まないので、私は茶番を終わらせる意味も兼ねて適当に返事をしました。あっ、「お前が始めた物語だろ」ってツッコミは無しでお願いしますね。
「ところでお嬢様。お暇でしたら、私の仕事を手伝ってくださってもいいのですよ?」
「それは嫌よ」
「どうしてですか? こちらはお嬢様のお陰で毎日大忙しだといいますのに」
「うぐっ」
私が嫌味を織り交ぜながら尋ねると、お嬢様の背中がピクリと反応して肩を竦めるのが分かりました。一応、自分の所為で私が忙しくなっているのは自覚しているらしいです。
というのも、お嬢様はお父上(国の中央で働くとても偉い人)からこの地を統括するように任された、いわばご領主様なのです。しかし、この地は割と田舎であるため、活気溢れる都で育ってきたお嬢様にとっては物足りないらしいようでして。それゆえに仕事に身が入らず、私が代わりに仕事しているのが現状です。
色々やることはございますし、「暇とか抜かしていると◯◯しますよ?」と言ってやりたいところですが……、小難しい話と愚痴は口にしないでおきましょう。
さてさて、そんなご領主様はというと、両手の人差し指をくっつけたり離したりしているようで――。
「……だ、だって仕事は面倒くさいし、楽しくないもの」
そんな言い訳を呟きました。
「お嬢様、仕事って大体そういうものです。面倒くさいからこそ仕事なんです。仕事が趣味に昇華することは、余程の物好き以外ないんです。多分」
「ち、近いわよ……」
「失礼、思わず顔を近づけてしまいました」
石鹸のやや甘い香りが鼻を通り抜けるほど近づいた所為か、お嬢様も困惑していらっしゃいます。
揶揄うのはここまでにしておき、本題を尋ねましょうか。
「では、お嬢様はいったい何がお望みなんです? 何かやりたいことがあるからこそ"暇"とおっしゃっているのでしょう?」
そう、子どもという生き物はよく「ひまー」と言いつつ、自分がやりたいことをアピールしてくるのです。
ある国に住むナビ・アンガイという方も、幼いころは「ひまー」と言いつつゲーム機なる物で遊びたいと、遠回しにアピールしていたそうですし。
そう思ってお嬢様に尋ねてみたその時、お嬢様はくるりと勢いよくこちらを振り向きました。その目は眩しいほどに輝いていました。それはもう「よくぞ聞いてくれたわ!」と言わんばかりに。
「メイディ! 私、戦いたいわ!」
こうしてまた私の仕事が増えるのでした。
リ「ど・れ・に・し・よ・う・か・し・ら♪」
メ「(ご機嫌ですね。剣を選んでいるとは思えないくらい)」
リ「よしっ、これにするわ!」
メ「(よりにもよってそれを……?)」




