第98話孫の合格
余命宣言から2ヶ月がすぎたが、神は自宅でしぶとく生きていた。そんな神の元に嬉しいニュースが舞い降りて来た。孫の道男と秀平が見事保大に合格したのである。
「道男、秀平良かったな‼合格おめでとう。」
「じっちゃんが生きてる内に合格出来て本当嬉しいよ。」
「道男、秀平?ここからがスタートだぞ?」
「ああ。そうだね。保大で頑張って立派な海上保安官になるよ。」
「じっちゃんがいなくなっても、しっかり勉強するんだぞ?」
「いなくなるだなんて縁起でもない。俺達も頑張るからじっちゃんも、ファイトして生きてよ。」
「こればかりはな、天命だからな。」
「うっ…。」
「じっちゃん?大丈夫?」
「ワシの事は構わんで良い。」
「そんな事言ったって、顔色相当悪そうだけど?」
「ううっ!ぐはっ。」
「父さん、母さん!じっちゃんが血を吐いた!」
「直ぐに病院へ!」
「ここは?」
「病院だよ?」
「最後はやはりここか…。」
「神さん?意識戻ったみたいですね?体相当痛みますよね?モルヒネ常注しておきましたから、一時的には緩和されると思いますが、これ以上は手の施しようがありません。いつ亡くなるか分からない状態です。ご家族も覚悟しておいて下さい。」
「来る時が来た様だな。これを見てくれ。」
「じっちゃん何これ?」
「遺書だ。ワシが死んだら弁護士立ち会いの元開封しろ。大した内容ではないがな。この2ヶ月で、整理はついている。葬式も身内だけで簡素にやってくれ。最後まで皆ありがとう。」
そう言うと神は意識を失いやがて呼吸も心拍も停止し死亡した。神海人享年74。神の遺族は葬式を密葬で行い、遺骨は太平洋に散骨した。遺産は息子夫婦と孫の道男や秀平に平等に分配された。
「じっちゃん良い顔してたね?」
「ああ、父さんは人生を全うしたんだ。悔いはなかったはずだよ?」
「道男、秀平今度はお前達がじっちゃんの意志を継ぎ日本の海の平和を守るんだ。」
「そうだね。じっちゃんもそれを一番願っているね!」
「制服姿見せてやりたかったね?」
「孫の保大合格。それだけでじっちゃん幸せだったと思うよ?」
「ノムケンさん!」
「葬儀にも出られず申し訳無い。」
「密葬であったから仕方無いですよ。」
「顔を上げて下さい。父が親族以外には死を伝えるなと言っていたんです。」
「ったく、一番弟子に挨拶くらいしてよ。墓もなしか?」
「はい。海の男らしく骨は太平洋に散骨しました。」
「そうなんですね。線香の一本位上げさせて下さいよ?」
「どうぞどうぞ。ありがとうございます。」
「道男君、秀平君保大合格したんだって?おめでとう。」
「はい。4月からお世話になります。」
「なんなら俺のゼミに来る?お爺さんの研究成果も沢山あるよ?」
「そうなんですね?」
「ここはじっちゃんの夢でもあった道男君と秀平君の神ゼミ入りを強くプッシュしてあげるよ。分からない事は何でも聞いて!」
「はい。ありがとうございます!めちゃめちゃ心強いです。」
「天国のじっちゃん(神隊長)もこの私に道男君と秀平君の世話をしろと言っているようでならないよ。」
「そう言うノムケンさんも結構良い年ですよね?」
「まだまだ75歳なんて現役現役。やっと教授になれたんだ。まぁ、保大では高齢の部類に入るけど、授業は週2回でこなしてるよ?科目名はねSST入門とSST概論。」
「保大って色々な授業があるんですね?」
「そりゃあ保大だからな。」
「小さい頃から世話になっているノムケンさんに教えてもらうなんてなんか不思議ですね?」
「まだまだ自分も老け込めないな。」
「そうそう!入学祝い。」
「何ですかこれ?」
「神隊長と私がSST時代に被ってた制帽だ。」
「じっちゃんやノムケンさんが被ってた制帽!?」
「形見分けされたんだけど、こう言うのはやっぱり家族が持つべきだと思うんだよね。」
とノムケンは二つの制帽を道男と秀平に託して去ったのであった。




