第96話保大退官
それから10年。73歳まで保大の学長を務めた神は、病気を理由に学長の座から退いた。闘病生活を続けながらも、教壇に立ち続けSSTの必要性を唱えた。
「ノムケン?俺もうこの辺が潮時かも。」
「神教授?あ、学長?何言うてはりますの?あと10年は学長やれますて。」
「実はな、ノムケン。俺胃ガンなんだ。」
「ガーン。なんてSSTの任務に比べれば大した事やないですよ。」
「まぁ、そうなんだけどよ…。」
「らしくないじゃないですか?そんな弱気で?」
「まぁ、そやな。早期発見部分切除位でな。」
「なら大丈夫じゃないすか?まだ老け込む年ちゃいますよ?」
「最近な孫に言われるんや。」
「お爺ちゃん船の学校の先生やってるんでしょ?僕ね、大きくなったらその学校に絶対行きたい。」
「良いお孫さんじゃないすか?」
「バカ言え。保大なんか目指さねーで好きな学校目指せ言うたったわ。」
「えー。僕海上保安官になりたい。」
「道男(孫)?海上保安官はとても大変な職業なのよ?」
「分かってるよ。だってお爺ちゃん超つらそーだもん。」
「え?つらそー?」
「朝は早いし、休みの日にも集合かかったり。」
「そんなの当たり前だぞ。海で悪い事してるのを取り締まるのが海上保安官の仕事だからな。」
「じゃあ早く病気を治して仕事に戻らなくちゃですね。」
「まぁ、そうだな。まだくたばる訳にはいかないな。」
とは言え、神の病状はすこぶる悪く入院を余儀無くされた。
「ノムケン!」
「はい!」
「俺の仕事引き継いでくれないか?」
「それマジすか?」
「余命宣言されちゃってよ。余命3ヶ月だそうで。」
「軽い胃ガンだって言ってたやないすか?」
「肝臓に転移し、肝硬変を発症。他の臓器にも転移しどうしようもないらしい。俺の大事な論文のデータは研究室のデスクPCに全文記録してある。残りの部分はノムケン!貴様に任したい。」
「分かりました。でもご家族には伝えて…。」
「家族全員知っとるわ。」
ノムケンは直ぐに保大に戻り、神海人最後の論文を完成させ発表した。
「有事におけるSSTと海自の連携に関して」
「ノムケン!よくまとめてあるじゃねーか?」
「いやいや、ほぼ、神学長の書いた論文ですから。」
「これで俺は心置きなく死ねる。」
「何を言うてはりますの?まだまだ神学長には生きていただかないと。せめてお孫さんが保大を卒業するまでは。」
「無茶言うな。あと15年かけてこの状況から完解せぇっちゅうんか?」
「無茶ですかね?」
「もう天命やな。若い頃の無理がたたったのかもな?」
「そない言い張るんなら自分はどうなるんですか?ピンピンしてますよ?同じセカンドユニットだったのに…。」
「あの頃は楽しかったな。」
「はい。ゲロッグのテロにはびびりまくりでしたが。」
「今はなき海上テロ組織ゲロッグ。何人も殺ったからな。そのツケが回ったのかもな。」
「それは関係無いですよ。天命ですよ。」
「なら、何故今この病気で死ななあかんねん。」
「神教授?そんな事で怒ってもしゃーないですって。人はいつか必ず死ぬんですから。」
「それはそや。で現在のSST隊員数は?」
「推定200人以上はいるかと思われます。」
「ほう。俺達の頃の4倍の人員がいるのか…。」
「これも、神教授のご尽力の賜物であると思いますが?もう心配しなくて良いんすよ?」
「水を与えれば草花は勝手に育つ。それと同じ原理だな。」
「立派な草花ですよ?皆良い目をしています。」
「お役ごめんやな。」
「そんな事は無いですよ。」
「なんや?まだ俺に死なれたら困る事でもあるんか?」
「悲しいじゃないですか?」
「なんや?そないな事か?」
「そないな事ですよ。」
と、まぁ神とノムケンの師弟関係はこれでもかと喧嘩したが、神はそれでスッキリした様だ。ノムケンも胸の内はスカッとしていた。本当に後3ヶ月で死ぬとは思えない面構えを神はしていた。




