第88話あってはならぬ事
「なぁ、神?貴様何か報告してない事があるだろう?」
「え?何の事です?」
「とぼけるな!米国海軍の潜水艦にSSTの部隊を派遣しただろう?」
「はい。何か問題でも?あの時はそうするのがベストだと判断しました。」
「その件については一切他言無用だぞ?」
「はぁ…。でも良い経験になりましたよ?各ユニットの士気も上がりましたし。それに米国海軍の原子力潜水艦スゲェっすよ?マジで。」
「それが全部国家機密だっての!それに日本の海保隊員が乗るなんてのは、本来あってはならぬ事なんだぞ?まぁ、しかし今回はロシア海軍からの海上警備が困難だったのは私も認めざるを得ない。だがな、次長の私に相談の一報があって然るべきでは無かったか?」
「本庁にいる次長にわざわざ連絡している余裕なんて有りませんでしたよ。そこは現場の責任者である自分が独断しました。」
「なるほど。如何なる処分も受け入れる覚悟があったと…。」
「林次長はこの戦争について、どう考えているか分かりませんが、海自でさえ撃てなかった魚雷を米国海軍は撃ったのです。SSTは無力でした。米国海軍は聖なる一発で、ロシア海軍太平洋艦隊を日本近海から遠ざけたのです。」
「随分な無茶をした様だな神隊長?まぁ、貴様らがそう動かなければ、米露核戦争になっていたかもしれん。」
「はい。現場の中野ファーストユニット班長がSLBMの使用だけはしないようずっと頼み続けました。」
「ネゴシエーションはSSTの十八番だもんな。」
「本来なら服務規程違犯で神隊長の首をはねなくてはならない所なんだが、神隊長の判断が無ければ、第三次世界大戦が勃発する所であった。あってはならぬ事だが、結果オーライと言った所か?」
「林次長、責任はこの神海人が全て負います。どうかSST隊員達の処分は穏便な処分をお願い致します!」
「処分は追って伝える。」
結局、林次長の口添えもあったお陰で、神隊長はSSTに留まれた。減給2ヶ月の懲戒処分受けたが、他のSST隊員達には音沙汰は無かった。
「林次長!一体どういう事だ。米国海軍の原子力潜水艦にSSTの隊員が乗り組むなんて?と言うか何故米国側はそれを許した?」
「さぁ?私には分かりかねます。有事での日米同盟の成れの果てですから。SSTがやれる事はそれだけだったと隊長の神は申しておりました。」
「そうか、まぁそれがギリギリの状況でのSST隊長の判断ならば、仕方あるまい。」
この一連の責任をとり、山久長官は中井総理に辞表を提出し受理された。
「有事での事とは言え、誰かが責任を負わねばならぬ事案であると思います。後任人事に関しては次長・海上保安監の林真玄を海上保安庁長官に推薦します。」
「制服組からの昇格か…。他に適任者もいそうにないな?」
「はい。そう言う流れでよろしくお願い致します。」
「うむ。」
「え?山久長官が辞任?」
「長官の後任は私だそうだ。」
「凄い事じゃないですか?制服組からの大出世。」
「バカ言え。No.2だったから良かったんじゃねーか?俺はトップの器じゃねーよ。」
「そうですか?次長・海上保安監を長く勤められた林次長なら長官になっても上手くやれますって!」
「折角山久長官が尻拭いしてくれたんだ。感謝しろよ、神。」
「はい。」
とまぁ、一悶着あった海保だったが、庶民にはあまり関係の無い話であった。
「昇進のチャンス棒にふっちゃいましたね。大体誰のせいで山久長官が職を辞する事になったのか気付いていないんですか?」
「え?俺?俺の責任?」
「あんな無茶させるからだよ。」
「そんな言い方すんなよ、ノムケン?」
「自分もノムケンさんと同意見です。」
「中野2正!?」
「そうですよ。神隊長があんな無茶したからこんな事になったんすよ?少しは反省して下さい。」
「反省って言われてもな…。あの時はそれが最善だと思ってたからな。」
「米国の原子力潜水艦に隊員を派遣するなんて自衛隊でもしませんよ?」
「あのまま米露がぶつかってたら、間違いなくエキサイトしていたのは確かだ。それにロシア海軍の原子力潜水艦もうようよいたしな。海保の巡視船隊を出すには非常に危険な状態だった。だから、サダフィ大佐もルドルフ中将もあらかじめ断りを入れておいた。それが功を奏したと信じている。一応な、事情を知らない本庁にも航海日誌を長官宛に提出していたんだぜ?」
「まぁ、信憑性に欠けますよ。神隊長の航海日誌なんていくらでも改ざん・隠ぺい出来ますからね?全く信じて貰えないのが切ないですね。」
「神隊長が航海日誌を隠ぺい・改ざん?有り得ませんよそんなの。」
「それを本庁のバカどもはつじつまを合わせに来ているんだよ。」
「たち悪っ!」




