第68話山名のルームメイト
「え?本当にこの部屋で合ってますか?」
「何で?」
「だって若山貴子一等海上保安監・甲って書いてあるじゃないですか?」
「あ、そう言う事?大丈夫大丈夫。若山一甲出張やら何やらでほとんどいないから。最悪泊まる事になっても、若山一甲めっちゃ良い人だし後輩の面倒見には定評ある人だから。つまりほぼ一人部屋って事になるな。」
「とは言えだらしなくしていると若山一甲に厳しく指導されるからな。」
「はい。」
「本当は一般女子寮に入れてやりたかったんだが本庁の指示でな。ここしか空きが無かったんだわ。」
「仕方ないですね。でも若山一甲が泊まるとなったら、三士の私なんかまともに顔見れないですね。」
「山名本当にすまん。何せ山名は初の女性SST隊員だからな。」
「まぁ、確かに男子隊員と同じって訳にも行かないし…。」
「若山一甲!?」
「あら?いつの間にルームメイトが出来たのかしら。あぁ、貴方ね。女性初のSST隊員。お名前は?」
「山名愛と申します。」
「愛ちゃんね?私は若山貴子一等海上保安監・甲よ。よろしくね。」
「山名、じゃああとはよろしくな。」
「ちょっと待ちな神隊長?」
(やべ捕まったか。)
「はい。」
「貴方愛ちゃんにちゃんと海保の規則とか細かく伝えたの?女子隊員だからってなおざりにしている所あるんじゃない?」
「そう言う指導はルームメイト同士でやるのが伝統ですから…。」
「はぁ?何、三士の新人教育を一甲の私にやらせる訳?聞いてはいたけど神隊長貴方最低ね。」
「若山一甲?神隊長からは一通りルールやしきたりは聞きましたよ?」
「そうなの?ならあなた早く男子寮に戻りなさい!」
「はい。」
「チッ。とんだトバッチリだぜ。林次長に次ぐ海保No.3の実力者で史上初の女性一甲が。よろしくないな。」
「そうなんだよ。もう最悪。まさか若山一甲が居るとはな。」
「林次長なんの知らせも無しだぜ?」
「じゃあ愛ちゃんご飯食べに行くか?」
「まだ片付けが終わってなくて。」
「じゃあ私は誰とディナーしたらよろしおすか?」
「孤独なものよ。」
「え?」
「女性初の一等海上保安監・甲なんて言ってもね。愛ちゃん?貴方もそうよ。チヤホヤされるのは最初の1ヶ月だけ。」
「そう言うものですかね?」
「私は22歳で保大を出てから30年。色んな現場を見てきたわ。猛烈にやばい現場も、修羅場もあった。出世は早い方だったけど、転勤が多いのが悩みの種ね。結婚はしたけど色々あって5年で離婚。」
「お子さんは?」
「長男と長女を女で一つで育てあげたわ。」
「仕事との両立は大変だったのでは?」
「眼の前の事で精一杯だったけど、周囲の助けもあってなんとかやって来れた。って感じね。」
「私はどんな海上保安官になるのでしょうか?」
「愛ちゃんはまだ若いんだし、色んな出会いや現場を経験するはず。決めるのは愛ちゃんだけどね?」
「神隊長の下でなら大丈夫よ。」
「先程は最低の隊長だと言われていましたが?」
「彼は若いうちから沢山の事を経験してきた隊長だからね。安心しな。セカンドユニットの皆がサポートしてくれるよ。」
「不安だったけど大夫楽になりました。ありがとうございます。」
「愛ちゃんはもっと自分に自信を持ちなさい。」
「え?」
「だってSST隊員は全国で56人しかいないんだから。」
と、まぁ思っていた以上におしゃべりな若山一甲の愚痴に一晩中つき合わされた山名であった。




