第54話ゲロッグとロシア
余談になるが、ロシアとゲロッグは切っても切れない蜜月関係にある。それは何故ならゲロッグの創設者アレキサンドラ・ヨゼフがロシア人であった事に端を発する。ゲロッグは当初ロシア国内でひっそりとテロ事件を散発させていただけの反体制派の急先鋒であった。腐敗したロシア政府を打倒し当初の目的はロシアでの政権奪取であった。とは言え、ロシア軍の強大な軍事力で、組織は壊滅に追い込まれ、ヨゼフやゲロッグ一味はロシア国外に逃亡、メンバーはバラバラになった。それで事は済んだかに見えた。
ところが、ヨゼフは違った。内戦の続くアフリカ・スーダンに渡ると、一からゲロッグを再構築した。外から見たロシアと中から見たロシアは全く違った。
「母国ロシアはスーダン内戦だけでなく、世界各地で戦争に関与している事は、同じロシア人として許す事は出来ない。だから私はテロを持ってしてこの状況を打開する他はない。」
と、この意志に賛同したスーダン北部の軍と共に、ヨゼフはスーダン南部への攻勢を強めていった。それは国連軍が来るまで続けられ、南スーダンが建国されるまで続きスーダン内戦は一応終息した。
ヨゼフはスーダンでは英雄であった。だが、ヨゼフには後継者がいなかった。戦いの連続で常に命を狙われていたヨゼフには家族は作れなかった。ヨゼフが亡くなる頃には、ゲロッグNo.2のドストネムスキーが組織を継承し、南アフリカでの海賊行為が始まった。貧しいスーダン人を巧みに操り戦闘員とする。ヨゼフの時代では無かった事だが、ドストネムスキーには、ヨゼフの持つ優しさは微塵もなかった。
ドストネムスキーの野望はゲロッグを世界一のテロ組織にする事であったからだ。スーダン人などその為の捨て石だった。武器や兵器の調達は闇ルートでロシア産のものが潤沢に入って来ていた。と、言うのもヨゼフは亡命してスーダンに渡ったが、ドストネムスキーはロシア政府との関係修復に着手する事により、ロシアをゲロッグの支持母国にする事で、欧米からの攻撃を回避する狙いがあった。こうしてゲロッグは勢力を拡大して行ったのである。
「それじゃあ下手な手出しも出来ない訳だ。空爆もしてないんちゃう?」
「ロシアを怒らせればたちまち第三次世界大戦だからな。」
「ヨゼフは良いだったみたいだが?」
「バカ!ゲロッグの創設者だぞ?」
「まぁ、そうだけど…。」
「ドストネムスキーが悪すぎだろ?どう考えても。」
「とにかく今は荒巻の奴を助けなきゃ駄目だろ?」
「ノムケン、ちょっと良いか?」
「どうしたんですか?神隊長?」
「黙って聞け。荒巻はセルゲイ・ニコライと言うロシア人でゲロッグのスパイなんだ。」
「なんやと!?」
「だからもう荒巻の事は心配しなくて良い。セカンドユニットの皆にも伝えてくれ。オブラートに包んでな。分かったら行け。他のユニットの隊員には俺が伝える。」
「はい。」
「しかし、困ったな。2件もゲロッグのスパイを侵入されるとは。海保内に内通者がまだ居るのか…?」
神はゲロッグの仕掛ける巧みなスパイ行為に手を焼いていた。しかし、釈然としなかったのは、相当厳しいはずのSSTへの配属に当たっての身辺調査に穴があいていたのは、内通者が海保中枢にもいると言う事になる。神は直ちに5菅に確認する様に指示した。これ以上のスパイ行為はSSTの尊厳に響く。ロシアとの全面衝突を避ける為にも、内通者のあぶり出しが必要に迫られていたのであった。話はまずそれからだろう。




