第46話次長の責任
次長・海上保安監は海上保安庁長官の次に偉く、海上保安官制服組では最上位の階級にあたる。大きな権限がある事は言うに及ばず、その責任は全国約1万2000人の海上保安官に及ぶ為、そのプレッシャーに勝てる人物にしか務まらない。今回のSSTの一連の不祥事で、林次長は山久海保長官に退官願いを出したが、山久長官は処分保留とした。それにより林次長はその座に残る事になった。
「林次長!ちょっと。」
「はい!山久長官なんでしょう?」
「君の退官願いだけどね、留保していたけど処分したから。」
「え?ですが、今回のSSTの一連の不祥事は、私の監督不行き届きでありましてその責任を…。」
「あのね?林次長、そんな事位で辞められちゃ、海保が困るんだよ。君が辞めるのは君の権利かもしれないが、君の後任人事はどうなる?」
「そ、それは一等海上保安監・甲の階級の者に引き継ぎまして…。」
「馬鹿者!今回の一連のSSTの不祥事は公にはしていない。このタイミングで次長・海上保安監が代われば海保で何かあったのかと、マスコミに嗅ぎ付けられるかもしれない。」
「ですが既にSST隊員2名(大山、矢部)の殉職はマスコミに公開していますよ?」
「それで良い。この件はそれで終わってるんだ。何で死んだかなんて発表する必要は無い。林次長、君にはもう一踏ん張りして貰う。そのつもりでの不問だ。」
「もう一踏ん張り?」
「ゲロッグの完全排除だ。」
「しかしそれは一度やりましたよね?」
「林次長?あんな生温い作戦で手応えはあったと思うか?」
「いえ、それは…。」
「既に残存したゲロッグ3万人がネオゲロッグと化し以前の水準までシージャックを開始している。」
「それは信じて良い情報なのでしょうか?」
「米国からのリポートだ。間違いはないだろう。それにまだゲロッグの神セブン(7人の幹部)は全員生存しているとの事だ。死んだ矢部のせいでな。」
「ではまた部隊を南アフリカに派遣するのですか?」
「いや、ここは米国に任せてある。だがサポート要請があれば、直ぐに出場出来る様にしてくれ。それにどうやら神セブンは中国にいて、米国はそっちを狙っている様だ。」
「中国?」
「神セブンは全員中国人であると既にインターポールから手配済みとの連絡があった。」
「でも流石に米国も中国とは事を交えるつもりないですよね?」
「台湾の事もあるしな。米国も、たかが7人の為に前回(喜望峰作戦)の様な大規模な空爆は出来ない。中国大陸本土でのネオゲロッグの活動は日本にも少なからず影響する。ところで林次長?君は定年まで後どのくらいある?」
「定年まで後一年半です。」
「そうか。それなら時間はあるな。だとすれば私が海保を離れる方が早いかもな。まぁ、そんな事になっても次長人事は手を付けないようにしておく。」
「え?」
「近々衆議院選挙を控えてる事位君も知っているだろう?」
「はい。」
「残されたわずかな時間をゲロッグ掃討にあてたい。アフリカ大陸にいたゲロッグは、言わば噛ませ犬だ。兵器も人員も大したものではなかった。だから中国にいた神セブンは無傷であれだけ早くゲロッグを再構出来た。とは言え、流石に海保としても、自衛隊としても、米軍としても、中国との戦は絶対避けたい。」
「分かっています。しかしこれではイタチごっこです。神セブンの資産は莫大です。喜望峰でまた海賊行為が横行してしまうのも、時間の問題でしょう。」
「そんな事は分かっている。とりあえずどうやって神セブンを捕まえて、ゲロッグを解体するか米国政府と日本政府で対応を協議する。それをSSTに伝えてくれ、林次長。」
「って訳で神隊長、そのつもりでよろしく頼むな。」
「そのつもりで…。って林次長、急に言われても困ります。」
と言い返したが林次長はもうそこにはいなかった。
「ったく。いつも次長はそうなんだから困っちゃうよな。」




