第45話訓練指導
臨場の少ないSSTは日々訓練に明け暮れている。その訓練指導もSST隊長の仕事であり、キャリアの責任でもある。とは言え少数精鋭であるSSTの訓練は突入・潜入・救命・爆弾処理・NBCテロ対策の5つの柱からなり、突入・潜入に関してはファーストユニットからフォースユニットが、救命に関しては第5ユニットが、爆弾処理は第6ユニットが、NBCテロ対策は第7ユニットがそれぞれ中心となって訓練している。
隊長の神はそれら全ての訓練状況を把握しており、課題が見つかればすぐに改善させる。特に人員の78%を占める突入・潜入の訓練には力が入る。神はセカンドユニット出身の為、セカンドユニットの訓練には特に熱が入る。訓練中の出動要請が来る事は、滅多に無いが出動要請が入ったその時は即座に訓練を切り上げ、SST全56名は大阪特殊警備基地から指揮船ひだ型巡視船及びあそ型巡視船及びつるぎ型巡視船あるいは、状況によってはサーブ340B型ヘリコプターorEC225LP型ヘリコプターに乗り現場に向かう。と、ここまでを訓練として、有事の際に迅速に出動出来る様にしている。
まぁ、出来るのはせいぜいたかがそれ位か。巡視船隊を組んで進めるのは大阪湾近海位であろうし、現場が東日本や北海道であれば、ヘリコプターでの移動になる。神はあらゆるケースを想定して出動訓練を重ねていた。そしてもう一つ力を入れている事があった。それは、特別警備隊員との訓練、さしずめSSTへの特別警備隊員のサポート訓練である。海上の機動隊とも言われる特別警備隊は、有事の際にはSSTを助ける存在であり、SSTの規定にも場合によっては特別警備隊員のサポートを受けると明記されている。同じ穴のムジナ、性質のよく似た二つの部隊は、相互に助け合う関係にある。同じ海上保安官なのであるから当然と言えば当然である。
その為に神はSSTを支援する事になる特別警備隊員を自ら選出して、逐次SSTの訓練に参加させていた。しかしそれはちと、やり過ぎだった。林次長に見つかり、それは即座に中止された。
「馬鹿か貴様は?SSTへのサポート義務は特別警備隊員にはあるが、彼等を指揮・命令するのは、特別警備隊長でありSST隊長の貴様ではない。それはきちんと理解しておけ!」
「はい。すみません。」
「まぁ、貴様はまだSSTの隊長としては若すぎるからな。ミスもあって当然だな。だがな、ミスはどんな理由があっても許されない。最後の砦なんだ、SSTは。」
「ポセイドンズ?」
「本庁ではSSTの事を昔からそう呼んでいる。」
「何か格好良いっすね。」
「誰が名付けたかは、まぁどうでも良いか。」
「この一年でSSTは3名隊長が変わっている。殉職者も1名出している。これ以上の失態は許されないぞ、神隊長?」
「分かっています。」
「まぁ、貴様の事だ。しっかり務めを果たしてくれると私は信じている。」
とだけ言って、林次長は神隊長を口頭で厳重注意した。
「隊長のやりたいことは悪くはないんですがね。」
「ノムケンもそう思うか?」
「えぇ。まぁ、バッチリ服務規程違反ですけどね。ただ、いざと言う時の為にもと言う神隊長の気持ちもよーく分かります。」
「いざとなりゃ、コンプライアンスもくそもあるか?」
「それは駄目ですよ。自分達は海上保安官なんですから。」
「一応な。」
「コンプライアンスの遵守か…。」
「大体今時シージャック何て言う馬鹿な真似する奴はいないか?」
「分かりませんよ。いるのかもしれませんし。」
「だよな。」




