第44話保大時代
「そう言えば神隊長って保大時代どんな学生だったんですか?」
「聞きたいか?」
「はい。聞きたいです!」
「死んだ大山と毎日競い合っていたよ。どんな時もな。妻の上本裕子を巡っても激しい奪い合いだったしな。」
「宿命のライバルってやつですね?」
「まぁ、大山がどう思ってたかは分からないが、大山がいなければ、首席卒業も妻も手には出来なかったかもな。」
「それでも神隊長の腕を見込まれてSSTに入ったんじゃないですか?」
「それは大山も同じだ。寧ろ大山の方がSSTには向いていたかもな。」
「それでも次席と首席じゃ雲泥の差じゃないですか?」
「大した差はなかったよ。それに元々実技では大山の方が評価値は高かったからな。」
「そうなんですか?」
「だから大山はいきなりファーストユニットの副班長に抜擢されたんだよ。」
「とは言え、保大時代はとても楽しかったよ。それに大山から上本を略奪したのも他ならぬ俺だしな。」
「略奪って…。それほじくって良い話題なんですか?」
「俺と上本は幼馴染みでな。高校時代からの付き合いがあった。無論、幼馴染みとは言え顔見知りレベルの付き合いで一線を越えた事は一度も無かった。上本を意識し出したのは一緒に保大を目指す事になった高3の夏頃だった。だが当時上本には彼氏がいた。」
「その彼氏が大山さん…。」
「そう言わずもがな大山の影響で、上本は進路先を保大にしていた。と、それを知ったのは保大2年の時だった。その頃に突然、どういう訳か大山と上本が破局。その隙?をついて俺は上本に告白。付き合う事になった。何で別れたかは今でも分からないが、大山と上本は将来結婚するものだと思っていた。上本は付き合い始め大山に未練があった。口を開けば尊(大山)何してるかな?と言う始末で、大山も上本への想いを捨てきれずにいた。」
「そこに電光石火の如く割り込んだのが、神隊長だった訳ですね?」
「そう言えば元も子も無いのだが、まぁその機会を逃していたら、俺は楽しい保大での生活を送れなかったかもな。」
「ライバルからの略奪愛なんて神隊長も隅におけませんね?」
「まぁな。でも最初は悩み相談から慎重に入った。すると上本の奴尊(大山)なんて知らない、どうでも良いと言わせしめた。そこへスルッと、俺が上本さんの事絶対幸せにする。ってプロポーズしちゃったんだ。そしたら上本の奴ワンワン泣いて、ふつつか者ですがよろしくお願いします。」
「と言う運びになったんだ。勿論大山の奴もあがいたけど、上本の気持ちは完全に俺に行ってしまったもんだから、大山も諦めがついたのか、俺にこう言ってきた。」
「裕子(上本)の事よろしくな‼」
何て言う有り様。こうして俺の3年に渡る片想いが成就した瞬間だった。勿論、色恋沙汰にかまけて訓練や勉強を疎かにはしなかった。勉強は高校とは比較にならない位にハードだった。それでもなるべく上本との時間を作り、上本の良き理解者として俺は上本を大切にした。今思えば大山には悪い事をしたなと言う罪悪感が無いと言えば嘘になる。
けれど、俺は上本と結婚出来て良かったし、保大時代の思い出は上本と作ってきた。勉強や訓練は勿論キツかったが、恋愛の方がもっと難しかった。
「それってどうなんですか?」
「俺の保大時代言うたらこんなもんよ。」
「ライバルからの略奪愛って…。まぁ、神隊長も上本さんも今幸せなら、亡くなった大山さんも報われるんじゃないですかね?」
「さぁな。」




