第3話野村ブラザーズ
野村貴之2等海上保安士と野村健吾1等海上保安士は正真正銘の兄弟である。入隊は兄の健吾が弟の貴之よりも2年早かったが、セカンドユニットに配属されたのは2人同時であった。二人とも射撃の名手で、特に兄の健吾は特別警備隊でも名の通った射撃手であり、弟の貴之もその腕は確かであった。
セカンドユニットと言えば野村ブラザーズ。そんな名声がつくほどだった。だが、この2人の兄弟を矢部班長はバディにしなかった。何故なら腕はそれぞれ良かったがバディとしての相性が悪いと判断した為である。どうしても、俺が俺がと我の強い2人には冷静に任務を遂行してくれるバディが必要であった。そこで白羽の矢が立ったのが細谷明3等海上保安士と木村拓男2等海上保安士であった。2人とも野村ブラザーズには射撃の腕では敵わないが、バディにするには最適だと矢部班長は判断した。
この4名が、セカンドユニットでは突撃班を務める。64式7.62㎜小銃や89式5.66㎜小銃やレミントンM870マリンマグナムを持ち、命令があれば突入する。特にシージャック時には制圧の為に普段は下りない射撃許可が下りる。セカンドユニットはファーストユニットの援護をしながら、自らも率先してシージャック犯を制圧しにかかる。制圧可能と判断されれば、副班長の神や班長の矢部も臨検に動く。
「おい、細谷!もっと素早くロープをまけねぇのか?」
「分かってますよ。だからこうして訓練を重点的にやっているんじゃないですか?つーかそれ、パワハラっすよ?」
カチーン。「最近の若者は少し強く出ただけですぐハラスメント扱いする。精神力が軟弱なんだよ。」
「まぁ、貴之その辺にしとけって。」
「兄貴!?」
「自分の事はひよっこ扱いするけど、ノムケンさんの事には逆らえないんすね?」
「そりゃあ兄貴は理想の海上保安官だからな。細谷お前も見習え。」
「あのなぁ、貴之?俺みたいな下ッ端じゃなくて、副班長みたいな人をリスペクトしろよ。」
「いや、俺はどうかと…。」
「そうっすよ兄貴!保大出のエリートなんかより、コツコツ努力を重ねてる兄貴の方がよっぽど実力は上っすよ。」
「キムさん?」
「あの若さでいきなりSSTの一部隊とは言え副班長を任せられるんだ。よほど保大での成績が優秀だったんだろう?」
「まぁ、一応首席でしたけど?」
「うわっ、なんかムカつく。」
「保大の首席か…。やはりただ者ではない様だな。」
「こっちの方(射撃の方)はどうなんです?」
「射撃?野村ブラザーズには敵わないよ。それに俺は班長とバディ組むから小銃使わないんだよね?」
「うわっ、すぐ引き下がる‼エリートはかわし方も上手い。」
「まぁ、いずれにせよ優秀な部下がいて心強いよ。」
「なんか話まとまってる?」
「残念だが、神3正の方が1枚上手の様だな。」
「キムさんはどっちの味方なんですか?」
「自分は永世中立だ。」
「カッコつけちゃって。」
「セカンドユニットはファーストユニットのサポート役だ。出過ぎた真似はするなよ?」
「きましたね。総元締め。海上保安庁特殊警備隊隊長(SST 隊長)安田保3等海上保安監。」
「どんだけ偉いんだよ。」
「まぁ、隊長も神3正と同じ保大の出身らしいしな。そのうち神3正が就くポストなんじゃないかな。」
「そんな重大な職責嫌ですよ。」
「保大出のくせに。」