第4章・第31話死に行く友
SSTの一日は出動が無い限りは自己鍛練に明け暮れる。いつ出動がかかっても良い様に、ユニット間の連携も確認している。サボる事は許されない。それは現場での死を招く恐れがあるからだ。SSTの発足以来現場での殉職者はいない。これは日々の鍛練の賜物である事は確かである。
「おー!荒巻!大分当てられる様になってきたじゃねーか?」
「は、はい。毎日やってますから。」
「だが現状に満足するな?」
「え?」
「俺達の仕事場は海上だ。波風もあるし、対象者は静止してはくれない。だから、陸の上ではもっと正確に射撃出来る様になれ。それでこそSST 隊長のバディに相応しい。」
「はい。神隊長はどうやって射撃の腕を上げたのですか?」
「イメージを膨らませて、撃つ!だけだな。大丈夫。心配しなくても、数こなせば射撃力は身に付くから。と矢部元隊長からは教わった。」
「あの内通者(矢部元隊長)からですか?」
「ああ。俺にとっては師匠だし今も信じている。たとえゲロッグの人間だったとしてもだ。」
「あ!こんな所に!神隊長!林次長がお呼びです。」
「おう。今行く。じゃあ頑張れよ荒巻!」
「はい!」
「え?ゲロッグが宣戦布告を?」
「ああ、さっき防衛省から連絡が入った。」
「で、海保としてはどうするんですか?」
「八割は自衛隊任せになるからな。」
「それでは海保の面子が無いじゃないですか?」
「まぁ、最後まで話を聞け。国交省から正式にSSTによるゲロッグ掃討作戦の認可が下りた。とは言え自衛隊の後方支援になるだろうがな。」
「出動部隊の内訳はどうなっていますか?」
「ファーストユニットとセカンドユニットを先行させて後のユニットは巡視船待機だ。神!貴様が現場の指揮をとれ!」
「分かりました。」
「ドジしても良いが死人だけは出すなよ?」
「はい!肝に命じます!」
「理解出来たならさっさと指揮船ひだ型巡視船で横浜に向かえ!」
「横浜?」
「特別警備船"いず"と合流する為だ。」
「いずと言えば、特別警備船第一号で横浜海上保安部のエース船じゃないですか?」
「今作戦において、欠かせないバディの一つとして海保は考えている。」
「ではゲロッグは太平洋で日本と事を構えようと言うのですか?」
「ああ。既に2隻の日本国籍タンカーがゲロッグによりシージャックされている。と聞いているが…。」
「順番的には海保が先ですかね?」
「まぁ、そうなる。海保が駄目なら海自が出る。当然の理屈だな。そうならない様に海保としては最高の部隊を持ってきたんじゃないか?」
「勿論詳細情報なんて入って無いですよね?」
「勿論。」
「ではファーストユニットとセカンドユニットで二手に分かれて同時臨検としましょう。」
「ほう…。たったの16名でゲロッグの精鋭を押さえ込むと言うのか?」
「まぁ、見てて下さいよ。で、シージャックにあった日本国籍のタンカーの所在地は?」
「東京湾内に2隻とも留めている。海自の護衛艦あらわしと潜水艦せきしおが24時間体制で見張っているが早い所で頼む。」
「じゃあひだ型巡視船でのんびりクルーズ旅行してる場合とちゃいますね?ノムケン?サーブ340B型ヘリは今すぐフライト可能か?」
「はい。直ぐフライト可能です。」
「よし決まりだ。林次長?対象船の正確な位置情報を海自側から確認してこちらに随時報告して下さい。」
「分かった。」
「ファーストユニット及びセカンドユニット隊員はサーブ340B型ヘリに搭乗して下さい!」
「了解!」
「フル装備でリペリング?危険すぎるのとちゃいますか?」
「今は緊急事態だ。少し位の無理は承知の上。幸い的は広い。いつもやってる事をやれ!」
「了解!」
神の一声でファーストユニットとセカンドユニットの隊員の心に火がついたのは、確かであった。




