第22話大型ルーキー
安田元SST隊長の不祥事を受けて欠員が出たセカンドユニットに、海保校から新人が配属された。名前は荒巻司3等海上保安士である。荒巻は海保校を次席(2位)で卒業した大型ルーキーである。本来ならばこの時期の卒業は有り得ないのであるが、荒巻3士の実力を鑑み本人の意志もあり、飛び級と言う異例の形で海保校を卒業するに至った次第である。
「皆、本日付でセカンドユニットに配属される事になった荒巻司3士だ。細谷2士面倒を見てやれ。」
「えー?マジすか?」
「まぁ、そう言わず頼むよ。」
「分かりました。おい、荒巻こっちだ。着いて来な。」
「細谷先輩よろしくお願いします!」
「つーか、誰と組むんすか?この大型ルーキー?」
「この俺だ。」
「え?神班長と組むんすか?」
「その方が皆やり易いだろ?」
「まぁそうですけど。」
「荒巻!寝床案内するよ!」
「はい。」
「ベットメイクは海保校でも習ったな?」
「はい。毎日していました。」
「じゃあ自分でやれるな?」
「はい。」
「じゃあ5分でやって。」
「分かりました。」
「へぇー。海保校には飛び級もあるんだ?知らなかった。」
「自分でもビックリしています。」
「別にそこまでしなくてもな。特別警備隊から引っ張って来るとかの方がポピュラーなんじゃね?」
「在学中の学生をワザワザな…。」
「まぁ、そう言う命令ですから。何か意図があるのでしょう。本来ならばこのSSTに海保校の学生が欠員補充になるのは変ですよ。」
「そう言うなって。それほど荒巻3士が優秀だって事の証じゃねーか?」
「はぁ…。」
「まぁ、何かあったらSST隊員に相談しなよ。セカンドユニットはファーストユニットと違ってチームワークを大切にする部隊だからさ。」
「分かりました。」
「荷物まとめ終わったら神班長の元に戻るから一声かけてくれ。」
「了解しました。と、言うか終わりました。」
「つーか荷物少なくね?」
「必要最低限の物しか持って来るなと、命令されたものですから。」
「学業は途中で打ち切っといて、持って来る荷物を制限するなんて本庁の奴等相当勝手だな?」
「確かにそうですが、飛び級を受け入れたのは自分ですから。」
「じゃあ戻るぞ。」
「随分早かったな。」
「ええ。まぁ。」
「これ荒巻3士の手帳とシグ・ザウエルp-228自動式拳銃だ。なくすなよ!」
「はい。」
「今はな、あるテロ組織を追っている。名はゲロッグと言う。」
「ゲロッグと言えば、喜望峰周辺で海賊行為を行っているスーダンの大物テロ組織じゃないですか?」
「知っているなら話は早い。」
「犯行声明が出されている。どうやら日本近海で日本船籍の船をシージャックするらしい。どの船が対象になっているのかは分からないが、中東情勢が緊迫している今、多くの船がヨーロッパに貨物を輸送するには、紅海とスエズ運河を通る最短ルートよりも、遠回りのアフリカ最南端の喜望峰を通る方がリスクは低い。ゲロッグはそこをついて来る。」
「困ったものですな。」
「そうだな。」
「だってどうしようも無いじゃないですか!海保は領海以上は活動不可能。ジブチにいる海自は紅海の警備活動で手一杯。とてもゲロッグを対処する余裕はありません。」
「とは言え何もしなければ世界の海運はどうなる?」
「衰退の一途を辿るでしょう。」
「荒巻!俺達SSTはどうしたら良い?」
「米軍の力を借りてスーダン国内のゲロッグの拠点については何とかなるかもしれません。とは言え元々はISの残党であります。拠点を叩かれた位ではへこたれないでしょう。」
「国外の事件では我々海保は無力です。被害を抑える為には、警備の手厚い紅海・スエズ運河ルートも視野に入れる必要がありますね。」
「荒巻3士の言う通りかもな。」




