第12話真玄に進言
「って事は、林次長もその事(習慣)については理解されていた。と言う認識でよろしいのですね?」
「私が部隊運用に携わる遥か以前から実力でナンバーズを運用していた事は確かだ。」
「ナンバーズ?」
「ファーストユニットからフォースユニットまでのSST部隊を我々幹部はナンバーズと呼ぶんだ。勿論、改善は図っている。旧体質のファーストユニット重視ではなく、ナンバーズのレベルアップアベレージ化(均等化)には力を入れている。」
「そうですか。」
「それでもやはりファーストユニットだけは格が違うと言わざるを得ない。」
「まぁ、確かにぶっちゃけファーストユニットの実力はナンバーズの中でも飛び抜けていますからね。皆ファーストユニットに入りたくて大なり小なり憧れはありますよ。」
「誰がこの制度を作り上げたかはどうでもいい。現場の意見として実際に弊害が出て来ていると言う進言を老兵である矢部2正(セカンドユニット班長)から受けた以上改善しない訳にはいかないだろう?そのうちナンバーズ制度はなくなるかもしれない。ナンバーズのレベルアベレージ化は、海保幹部の中では最早常識と成りつつある。だが、一部の反対勢力が結託してナンバーズのレベルアベレージ化を妨げているのも事実としてはある。」
「反対勢力と言うのは?」
「現在の海保長官山久茂と親交のあるファーストユニット隊員達だ。」
「山久長官が何故ナンバーズのレベルアベレージ化に反対するのですか?」
「さぁな。特別警備隊やSSTは海保の中でもトップシークレット(特別機密)で、それは海保長官の専権事項でもある。」
「じゃあ、山久長官下ろしの風が吹いても?」
「支持母体が変わらぬ限り現行の体制を変えるのは難しい。それだけ強力な支持母体が存在しているから、どんな政治家が長官になっても、同じ事であろう。」
「そんなぁ。」
「歴代の海保長官はファーストユニット、ファーストになんの疑問も持って来なかった。別にそれは長官の真の仕事ではないからだ。SSTのナンバーズ(格付け)なんてどうでも良いんだ。有事に仕事をしてくれればフォースユニットだろうがサードユニットだろうが、セカンドユニットだろうがファーストユニットだろうが、何でも良いんだ。極論としてはな。ただ肝心なのは、後ろに海自がいると安心してはいけないと言う事である。海自の実力は幹部達が把握している。しかし、海自にSST相当の同格の部隊はない。だから、SSTは"ポセイドンズ"と呼ばれるのだ。」
「海自の話は分かりました。ですが、それは長官認識の問題ですよね?」
「あぁ。だが無論それはSST隊員も同じだ。君達は海上保安における最後の砦なんだ。」
「まぁ、矢部班長の言い分は分かった。部隊運用の際に気を付けるよ。」
「よろしくお願いします。」
「って感じだった。」
「え?それだけですか?」
「とは言え真玄(次長)に進言出来ただけでも、海保のコンプライアンスが変わった事を感じるよ?考えてもみろ。たかだか2等海上保安正ごときが、海保No.2の次長・海上保安監に申し立てしたんだぞ?一昔前の海保じゃ、有り得ない話だぞ?」
「確かに6ランク上の次長が話を聞くなんて、民間会社で言えば、平社員が常務におうかがいを立てる様なものですもんね?でどうだったんですか?」
「どうたって、検討するとしか言わねーだろ。」
「それはそうですよね。でも実現すると良いですね。ナンバーズのレベルアベレージ化。」




