第2章・第11話現実
「矢部班長?SSTって毎日こんな感じなんですか?」
「ああ。他のユニットがどうかは知らんが、セカンドユニットでは各隊員の自主性を重んじている。」
「はぁ…。」
「派遣要請がいつでるか分からんからな、極力体力を使う訓練はなるべく避けているんだ。意外だろ?」
「はい。もっとゴリゴリに鍛えているのかと思っていました。」
「でも見よ!この鍛え抜かれたセカンドユニットの隊員達の体を!」
「バッキバキすね!」
「言われなくともやる。それが高度な自主性と言うものだ。それに定期的にユニット同士で演習もしている。」
「ユニット毎の演習?」
「そうだ。有事に備えてユニット同士の連携を強化するのが狙いだ。神3正、射撃訓練場に行ってみろ。」
「はい!」
バン、ババン、バン
「あ、野村ブラザーズと木村2士がいる。持っているのは?89式小銃?」
「あ、神3正お疲れ様です。」
「いつもここで訓練しているのか?」
「ええ。そうなんすけど、ファーストユニットのバカ供が後先考えずに撃ちまくるから、他のユニットの訓練弾数が減るんですよ(泣)そうだ、神3正からも言ってやってくださいよ。」
「いやぁ、言っても聞かんのとちゃうかな。俺新人だし。」
「リアルに死活問題なんすよ!」
「矢部班長には相談報告はしているのか?」
「あ、あぁそっか、神3正は知らないんですね。SSTのパワーバランス。」
「パワーバランス?」
「第5ユニット~第7ユニットは知っての通り救命・爆発物処理・NBCテロ対策専用部隊なので、パワーバランスも何も無いのですが、ファーストユニットからフォースユニットは実力や勤務成績でランク付けされているんです。だから定期的に演習や訓練の結果次第で上下するんです。分かりやすく言うと野球の一軍、二軍、三軍、四軍みたいな感覚なんです。」
「じゃあ、セカンドユニットは二軍って事になるのか?」
「はい。実力的にはファーストユニットへの登竜門何です。しかし、ファーストユニットは皆強豪揃いでとても狭き門となっています。」
「矢部班長はそんなこと一言も言うてくれなかったけどな。」
「そりゃそうですよ。矢部班長は元はファーストユニットのエースだったんですから。」
「それは本当なのか?」
「矢部班長には絶対言わないで下さいよ?」
「お、おう。」
「矢部班長はファーストユニットでの昇進レースに負けたんですよ。」
「何?」
「セカンドユニットの班長になって今日で5年目。やる気を無くした矢部班長が自主性を重んじると言って育成を放棄したんです。まぁ、ぶっちゃけセカンドユニットの隊員なんて誰でも良いんです。サードユニットもフォースユニットも万年固定化されちゃってますし。どうぞ御自由にってのが矢部班長のモットーなんです。」
「それはけしからんな。」
「とは言え、矢部班長の実力は筋金入り。真っ向勝負して勝てる人間はSSTにはいません。」
「なら、本庁に掛け合ってみるよ。」
「神3正ありがとうございます。」
「林次長辺りにでも話を通しておくよ。」
「SSTには実力差はあれど、ファーストユニットだけが優遇されている現実は絶対に間違っている。と俺は思う。それに、矢部班長にもファーストユニットで輝いていた頃の情熱を取り戻して欲しいからな。」
「そうですね。矢部班長が本腰を入れてくれたら、セカンドユニットもファーストユニットとの実力差は無くなりますからね!」
この理不尽な慣習は絶対変えなければならないと、神3正はそう素直に思っていた。