10 ボッチは回避だよ
「あ、あの!」
突然隣の席のレテアが近づいて来てソレイユを呼び止めた。
「ん?」
横を向いて見ると、レテアは恥ずかしそうに顔を赤らめて指を若干モジモジさせながらも、何か大事な話があるのかソレイユの目をしっかりと見つめている。
可愛い仕草にキュンとしたソレイユは、とりあえず笑顔で応答した。
「レテアさん、どうしたの?」
「呼び止めてしまって、その、ごめんなさい。……あの、ソレイユさん。授業が始まる前にも、ロアさんと……講堂のすぐ側の林で、ソレイユさんがロアさんと口論している所を、その、私。偶然見ていたのですが……」
「あー……」
(……チッ、見られてたか。……これは今からヒロインっぽい注意を受けちゃって、早々悪役に決定! って流れになるやつ?)
と内心毒づいたことをおくびにも出さずに、ただバツ悪そうな表情を浮かべながらレテアの言葉を待った。
「ソレイユさんは、ロアさんが虐めていた生徒さんを助ける為に、あんなことをしたんですよね? ソレイユさんのした事、ちょっと…やり過ぎな気もしますが。私は、弱い立場の方を助けた行動を、とても立派だと、そう思います……!」
「え」
予想外の言葉に、返す言葉を失った。
「ご、ごめんなさい。急にこんな事、言ってしまって。でも、どうしてもこれだけは伝えたくて。それにソレイユさん、このままでは…皆さんに誤解を受けたままになって、しまいます。ソレイユさんの誤解が解けるよう、私に、出来る限りのお手伝いをさせて下さい!」
勇気を振り絞っているかのように瞳を潤ませながらも懸命に伝えてくるその健気な姿に、ソレイユの中でレテアの好感度が爆上がり急上昇し、好感度メーターは勢いよく振り切れた。
(……何て……何てええ子や。……レテアちゃん、ものごっつうええ子や……!!)
「レ、レテアちゃん! ありがとう、ありがとう!! でもね、気にしなくて大丈夫! 私はその気持ちだけで十分! レテアちゃんだけでも知ってくれているだけで、私、私。これからの学園生活乗り越えていけそうだよ!!」
「ソレイユさん……。やはりご自分がした事を、気になさっていたのですね……。あの、ソレイユさんっ! もし、宜しければ。私と……お友達に、なっては頂けないでしょうか……!」「はい勿論喜んで!!」
かなり喰い気味に即答した。
「あ、せっかく友達になれたんだから、私の事ソレイユって呼び捨てで良いし、敬語も要らないよレテアちゃん!」
「で、では私の事もレテアとお呼び下さい。ちゃん付けは…少し、恥ずかしいので……。あ、あと、敬語は癖のようなモノなので、お気になさらないで下さい」
「あ、ごめん。じゃあレテア! 改めて、これから宜しくね!」
「はい! こちらこそ、宜しくお願いします。ソレイユさ…ソ、ソレイユ!」
友達になれた二人はにっこり笑い合っていると。
「ちょっと宜しくて?」
今度はアナスタシアが、立派な縦ロールを靡かせながら近づいてきた。
燃える様に赤い瞳が、ソレイユを睨みつける。
「先程の話、聞こえていたので伺うのだけど。貴女、弱き者を救ったのですって?」
「え、えっと。そうなる…のかな……?」
「何? 随分と煮え切らない言い方ね。……まあ良いわ。同じクラスメイトとして、貴女の行い。せっかくだから称賛して差し上げますわ」
「え!?」
(まさかのツンデレのデレ!? ktkr!?)
「それは……ど、どうも、ありがとう……?」
突然の言葉に驚きながらも、何とかお礼を言う。
「……ふん。それにしても。先程のロアという生徒、余りにも品位に欠けますわね。初日からあのような暴挙。例え魔力や成績が高くても、あの様子のままでは……。いずれ、Sクラスから外されるか。最悪退学でしょうね」
「あー。確かに、そうかも」
「ロアさん、大丈夫でしょうか……」
三人で話をしていると、最前列の席で話をしていたセレーネとミモザもソレイユの席に近づいて来た。
「あの、ソレイユさん。大変でしたね、大丈夫ですか?」
セレーネが心配そうに訊ねてきたので、ソレイユは笑顔で返答した。
「うん大丈夫。ありがとう、心配してくれて」
「私も心配しましたわ。でも大丈夫そうで良かった。……ロアって方、凄く乱暴な生徒でしたね。これから一年間平穏無事に過ごせるか……些か心配だわ」
ミモザも頬に手をやり、困ったように首を傾げている。
「そうだね。……せめて、女子メンバーとだけでも、仲良くなれたらいいのにな……」
ソレイユが独り言のようにポツリとそう呟くと、ミモザはニッコリと微笑んだ。
「まあ、勿論ですわ。私もぜひ、皆さんと仲良くさせて頂きたいです」
「私もです。せっかくクラスメイトになれたのですから。皆さんと交流を深めたいですね」
セレーネも笑顔で答えてくれる。
「ふん……そうね。まあせっかくですもの。それも悪くないかも知れないですわ」
ツンとしながらも、アナスタシアも賛同してくれる。
皆の言葉を聞いたレテアは、嬉しそうに両手の手のひらを胸の前で合わせた。
「では皆さん。寮に戻った後、夕食を皆さんご一緒にいかがですか? あの、交流会を兼ねての食事会、という事でどうでしょう?」
「レテア! それいい考え! 皆んな、どうかな? 私もぜひ夕食を一緒に食べたいな!」
「素敵なお誘いですね! 是非参加させて下さい」
「良いですね。私も是非お願いします」
「……まあ、どうしてもと言うのであれば、やぶさかではないかも知れないですわ」
「じゃあ決まり! 時間はどうしよう? 誰か希望の時間ってある?」
皆首を横に振ったので、とりあえず夕食時位の時刻を提示してみる。
「無いようなら、ちょっと早いけど十七時半はどう? 早めの方が良い席を確保しやすいだろうし」
「別に、それで良いのではないかしら」
「私も大丈夫です」
「はい、問題ないですわ」
「私もです」
「よし、じゃあ十七時三十分に食堂前で集合という事で!」
一同は頷きあった、その時。
「やあ、皆んな揃って楽しそうだな。せっかくだから俺も話に混ぜてくれないか?」
何処となくニヒルな笑顔を浮かべたステイルが近づいてきた。
「……貴方には、関係のない話ですわ。女子メンバーで夕食をとる約束をしていただけですから」
アナスタシアは素っ気なく答える。
「へえ、それは良いね。女子寮でなければ俺も是非参加したいところだ。そうだ君達。明日の昼食を一緒にどうだい? 同じクラス同士、皆で仲良くしようじゃないか」
「結構よ」
「結構です」
アナスタシアとソレイユは速攻で答えた。
「つれないな仔猫ちゃん達。俺も同じSクラス同士、交流を深めたいんだ。なあ、良いだろう?」
馴れ馴れしく肩に手を置かれそうになったので、ソレイユは素早くかわした。
「はは、すばしっこいな。流石仔猫ちゃん。では、残る二人のレディ達。君達はどうだい?」
「急にはお応え致しかねますわ」
「私もです」
「困ったな。そう警戒しないでくれ。本当に交流を深めたいだけなんだが」
全員に断れているのにも関わらずステイルは執拗に誘ってくる。
(しつこい。こちとら攻略対象っぽい生徒とは、お近づきになりたくないっつーーの!!)
ステイルにも水鉄砲を喰らわせてやろうかと内心イライラしてきた。
「ねーえー? さっきから皆んなで何の話してるのー?」
クラスメイトが集まっているのを机に寝そべりながらただ見ていたヴェヌスが、ニコニコ顔で近づいてきた。
「ねえねえ、教えてー?」
「……お前には関係の無い話だ。さっさと帰れ」
ヴェヌスが加わると、ステイルは途端に何故か心底嫌そうな顔をした。
その様子を見たアナスタシアが含み笑いを浮かべた。
「ああ、そうですわ。同じ男性同士、先にヴェヌスさんと交流を深めれば宜しいのではなくて? ヴェヌスさん、ステイルさんが貴方と仲良くなりたいそうですわよ?」
「な、違っ!」
「へーそうなんだー。勿論良いよー? ステイル君、改めまして僕ヴェヌスだよー宜しくねー? 僕の事はヴェヌスでもヴェヌス君でもヴェヌスさんでも、好きなように呼んでねー。あ、渾名つけてくれても勿論良いよー?」
「五月蝿い! 俺は男に興味は無い!」
「えー? 僕と仲良くなりたいんでしょう?」
「違う! 俺はレディ達と仲良くしたいだけだ!」
「そんなこと言ってー。もしかして、照れてるー? ステイル君照れ屋さんなんだー」
「誰か照れ屋だ! そもそも、何故男相手に照れなくてはならないんだ!」
「えー? なら女子相手なら照れるのー? 変なのー。変なステイル君。……変なステイル? ヘンステ……。ねえねえ、ステイル君の渾名はヘンテコで良いー?」
「何故そうなる?!」
「……ヴェヌス君が気を引いてくれてる内に、帰ろっか」
「そうですわね」
漫才を始めた二人は置いといて。
Sクラスの女子メンバーは揃って寮に帰ることにした。




