3 クラス分け筆記テストだよ
全員座席に座ったのを確認したミーストは、自身が持っていた封筒を教卓に置いて、中からテスト用紙らしき書類を取り出した。
「それでは、これから筆記テストを始めます。制限時間は開始の合図から三十分間です。黒板上の時計で時間を確認して下さい。今から問題用紙と答案用紙を配ります。開始の合図まで、表を向けないようお願いします。
用紙が配り終わるまで手元の書類を確認しておいて下さい。机の上に、筆記用具も一緒に置かれているかと思います。中に魔法ペンが入っているか。使用可能かどうかも、テスト開始までに確認しておいて下さい。魔法ペンに不具合があれば交換いたしますので、声をかけて下さいね」
ミーストに言われた通り、まず書類を確認してみる。
書かれている内容は、ミーストがこれまで説明した内容とほぼ同じだった。
何と、テストで使用した魔法ペンは貰えるらしい。机の中に手提げ袋が入っているので、書類と問題用紙と共に持ち帰る事。と記載されてあった。
机の中に確かに手提げ袋が入っていた。
書類は読み終えたので、畳んで手提げ袋にしまっておく。
次に、魔法ペンが使えるかペンを手に取り軽く魔力を流してみると、ペンが僅かに光ったので宙に適当に文字を書いてみる。
魔力を帯びた文字が宙に浮かびあがり、暫くして消えた。使用に問題はなさそうだ。
魔法ペンを確認し終えたと同時に、ミーストがソレイユの机の上に問題用紙と答案用紙を置いていった。よく見ると答案用紙だけ、魔術を施した特殊な用紙のようだ。
(用紙に触らないよう、おててはお膝の上……)
緊張した雰囲気に少しのまれたのか、ソレイユも少し緊張してきた。
今朝方、転写書に書いた通り筆記テストは手抜きなしで挑むつもりだ。
しかし、場合によっては少し細工した方が良いかもしれない。とも考えていた。
首席は絶対に避けたいのだ。絶対に目立つ。
『遠慮なければ近憂あり』だ。……過去の自分に説いてやりたい。
ミーストが教卓に戻ってきた。
「用紙が配り終えたので、これよりテストを開始します。まずは答案用紙だけ、表に向けて下さい」
言われた通り答案用紙を表に向ける。
解答欄はそれ程多くないが枠が全て大きめだ。選択式ではなく、自分なりの回答を書かなければならないタイプのようだ。
「まず氏名欄に、ご自身の氏名を記入して下さい。間違っても本名を記入しないよう、くれぐれも、注意して下さいね」
確かに。つい本名を記入してしまう生徒もいそうだ。
氏名欄に『ソレイユ』と、意図的に丸文字気味で記入した。
これは、一応筆跡鑑定対策だ。
公爵家嫡子達やお友達達とは手紙でやり取りをしていた為、筆跡が知られている。
なのでソレイユの時は左手で書こうと大分練習していたのだが。
やはり癖で咄嗟に右手でペンを持ってしまうので結局左利き案はお蔵入りとなり、分かりやすく筆跡を変えることにしたのだ。
(意識して文字を書くと、案外いけるんだよね。でも、文字書く時は気を抜かないように気を付けないと)
「皆さん、記入が終わりましたか? まだの方は手を挙げて下さい。……大丈夫ですね。では、これから試験を始めますが、テスト開始の合図は『では初めて』とし、終了合図は『はいそこまで』とします」
ミーストは時計を見ながら、一呼吸おいて、大きめの声で開始の宣言をした。
「では、始めて!!」
合図と共に、皆一斉に問題用紙を開いた。
ざっと、全ての問題に目を通す。
ひっかけ問題が幾つかあるが、大して難しい問題は無い。最初から順番ずつ解いていくことにした。
……十五分後。
ソレイユは全ての問題を解き終えた。間違いがないか再度チェックしたが、問題はない。
(コレ、絶対満点だと思うんだよな……。さて、どうしようか……)
テスト問題ではなく、どこかワザと間違えなくて本当に良いのかどうかで悩み出した。
成績によってクラスが決まる。
攻略対象らしき公爵の三人は、多分一番上位クラスに固まるであろう。
だとすると、一つ下くらいのクラスが望ましい。……しかし、せっかく学園に入学したのだ。やはり上位クラスの勉強を学びたい。
だが、攻略対象とは関わりたくない……。かと言って、他の一般生徒はどの位優秀なのか分からない状態だ。
よく考えたら。このテストは、満点が当たり前なのかもしれないのだ。
(うぁぁっーーしまった!! 自分以外のテスト点数までは考えてなかった! この期に及んでどうするのがベストか分からない! 事前に調査しておくべきだったーー!!)
「終了まで、後五分です」
(うぇぇっ!?)
気が付いたら、もうテスト終了間際に迫っていた。
(っ! ええいっもう悩むな! 前世の性格のようにクヨクヨ悩むな私!! ……こうなったらやむを得ない。上位クラスを目指しつつ、首位は回避の方向でいこう……!
……となると。この最後の問題回答を少し書き直して…ほんのちょっとだけ減点されるくらいに……ワザと、ちょいミステイク!!)
「はいそこまで!! 速やかにペンをおいて、用紙から手を離して下さい」
その言葉に従い、ペンを置いて机から手を離した。
「今から答案用紙を回収しますので、暫くそのままでお待ち下さい」
ミーストが答案用紙を回収して回る。自分の答案用紙をジッと見つめた。
(……最後。ワザと間違えた事が、吉と出るか凶と出るか。鬼が出るか蛇が出るか。……まあ次の魔力測定の際、もし他の生徒の魔法が見れたなら。それで力加減を判断して微調整しよう)
ソレイユの答案用紙も回収され、ミーストは集めた答案用紙を教卓の上で纏めて再び封筒にしまった。
「お待たせしました。では次に魔力測定を執り行う鍛錬場に向かいたいと思います。魔法ペンと、その他書類は全て手提げ袋に入れてご自身でお持ち下さい。講義室を出て廊下で再び一列に、先程同様自由に並んで下さいね」
数分後、素直に一列に並んだ生徒を引き連れミーストは来た道とは別の道を歩き出した。
ソレイユは事前に見取り図を頭に叩き込んでいたので、今現在ここは何処でどのルートを進んでいるのかは分かる。
しかし、他の新入生徒は慣れるまで何回か迷いそうだと思う程、本館の内部は広く、複雑な構造だった。
本館に入った扉とは別の出入り口扉の前に辿り着くと、ミーストが扉に近づくだけで扉が開いた。内側からなら自動的に開くようだ。どの出入り口でも自動で開くのは大変便利だ。
扉をくぐり外に出ると、真っ直ぐな歩道が続いていた。
その大分先には、女子寮に似た建物が見えた。
「皆さん。あちらに見える建物は、男子寮です。本館を挟んで、女子寮と丁度反対側の位置にあります。女子生徒の皆さんは入館禁止です。万が一にも男子寮に立ち入った場合。即、退学処分となります。立ち入らないよう気をつけて下さい。
そして、今から歩いて鍛錬場に向かうルートは、普段であれば女子生徒の皆さんは基本的に使用する事はありません。今回、使用しない道だと覚えて頂くために、敢えてこちらのルートで向かいますので、皆さん覚えておいてくださいね」
そう言って、本館沿いの歩道を歩き出した。
景色を眺めながら暫く歩くと、先程講堂を見た時に遠目に見えた、重厚感のある四角い建物へ辿り着いた。
講堂と同じくらい巨大な建物だ。鍛錬場だからか、こちらの建物の方が頑丈そうに見える。
「こちらが、魔力測定を執り行う鍛錬場です。隣が、先程の講堂です。帰りは講堂の方角の道を使って、女子寮へ戻って下さい。
今通ってきた道は、男子寮に近いので男子生徒が使うルートです。女子生徒の皆さんは基本使わないようにお願いしますね。では、中に入りましょう」




