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レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか  作者: 宮崎世絆
学園編

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53/62

1 寮の自室だよ

 転移用魔法陣で転移した場所は、何処かの部屋の一室だった。多分、寮の自室だろう。


 やや縦長な十五畳位の広さで、左壁の一面全てが白いクローゼット。反対側の壁には大きな姿鏡が見えた。

 窓は無いが、天井の照明のスイッチが既に入っていたので部屋は明るかった。


 部屋の中央に長テーブルとスツール椅子が置かれており、まるで衣装ルームの様な部屋だ。



 鞄を片手に持つと、部屋の隅に設置されていた一段ほど高い位置にある転移用魔法陣から降りた。


 長テーブルに置かれた書類らしき紙束に気付いたソレイユは、テーブルに鞄を置いて書類の表紙を確認する。

 寮に関する資料のようだ。早速最初のページを読んでみる。


『この部屋は女子寮の自室にある衣装室である。ランダムで部屋が決まるが間取りは平等である為、部屋の変更は不可。四年間使用する部屋である旨を念頭に置く事。

衣装室で制服に着替え、持ち運んだ荷物を整理し、結界魔法発動装置に魔力を流して結界を発動しておく事。十時半頃にアナウンスが流れるので、指示に従い、寮の玄関前に集合』

 と書かれていた。


 備え付けの壁掛け時計があったので確認すると、今からだと約二時間後だ。


 資料を更に読み進め、大体のことは理解した。


 クローゼットに制服や部屋着など、学園生活に必要な衣服が全て入っているらしい。


 サイズはSS、S、M、L、LLが用意されており、使わないサイズの衣服は返却しなければならないようだ。 代わりに入り用な衣服があれば、それと交換しても良いとの事。


 衣類の説明書きに『洗浄魔導具、シワ伸ばし魔導具などを用いて常に清潔に、身だしなみを心掛けること』と赤字で強く注意書きされていた。


「あー成程。学生生徒はほぼ全員貴族だから。自分でするのが嫌な生徒ってやっぱりいるんだろうな」


 貴族あるあるだな、と思いながらクローゼットを開いた。


 ハンガーにかけられた制服らしき服が数種類に、仕切りを挟んで部屋着らしきワンピースなどが数着ハンガーパイプに綺麗に並んでいた。


 制服のデザインを確認しようと一着のハンガーを手に取ると、じっくり眺めてみた。



 セーラー服によく似たブラウスにリボンスカーフ。

 そしてロングでタイトなスカート。略してロンタイ。



 正にスケ○ン刑事のようだった。



「……私は五代目か……?」



 しかし紺色や黒色ではなくブルーグレーなので色味的には高級感はある。


 長袖だけで半袖は無いようだ。リボンの結び方は規定は無く、そのままスカーフで結んだり、リボン結びにしても良いらしい。しかもその日の気分でリボンの色を変えても良いそうだ。


 早速制服に着替えてみようとMサイズを選び、着ていたドレスを脱ぎ捨てる。

 身に付けていた大事なネックレスは、無くさないように鞄に入れておく。


 着てみたロンタイのウエストは何とゴム仕様で楽々だ。スカート丈はMで大丈夫そうだ。

 袖を通して寸法的に問題がないかも確認する。こちらもMサイズで大丈夫だ。


 クローゼット内に置かれたローチェストの上段を開けてみる。

 中には制服の色に合いそうな、様々な色合いのリボンが綺麗に丸められて並んであった。


 しかし今日は制服に最初から結ばれていたブルーグレーのリボンをそのまま使うことにした。

 練習の為に一旦制服からリボンを外して、とりあえず長テーブルに置いておく。


 ローチェストの中段には何も入っていない。多分、荷物リストにあった下着類を入れれば良いのだろう。

 下段には靴下が何足か綺麗に畳まれた状態で入っていた。しかし全てクルーソックスで、色は黒か白しかない。

 何の気なしに黒をチョイスする。


 ローチェストの横。クローゼットの仕切りを挟んで隣にはラックが置いてあり、上段にはスリッパ。下段には茶革ローファーが置かれていた。

 サイズは大丈夫かと心配になり、ローファーを取り出して足を入れてみる。すると、自分の足のサイズにジャストフィットした。

 どうやら魔術が施された、特殊な革を使っている様だ。なかなか履き心地が良い。


「後はリボンを結んで完成だね! ……スカーフ結びはなんか嫌だから、可愛くリボン結びにしておこう」


 丁寧にリボンを結んで姿鏡の前に立って、制服姿の自分をじっくりと眺める。


 くるりと右回転してみる。柔らかい生地なのか、動きに合わせてロンタイの裾がふんわりと優雅に広がった。



「……うん! 思っていたより可愛いじゃない! 結構似合ってるよ私!!」


 全然スケバンには見えない。ロンタイはタイトで長めだから、おしゃれなナロースカートのようだ。

 清楚に見える制服にホッと胸をなでおろした。


「あ、髪留めも変えとかないとね。えーと、何処にあるんだろう?」


 履いてきたパンプスをクローゼットの床に置き、脱ぎ捨てたドレスをハンガーに掛けながら探していると、ローチェストの上に置かれた数種類のケースの中から小ぶりなアクセサリーケースを見つけた。


 空けてみると、100均ショップにありそうな茶色の髪留めゴムや、質素な木製バレッタなどが入っていた。


「……貴族のオシャレなお嬢様達は、これは耐えられないんじゃない? というか。そもそもお嬢様が自分の髪を結うなんて、はたして出来るのかな……?」


 前世の記憶があるソレイユは髪を結ぶ事など動作もないし、オシャレにそれ程こだわりも無い。

 自身のポニーテールをささっと茶色いゴムで結び直すと、外した髪留めは鞄にしまった。


 前世が日本人なせいか部屋に土足は抵抗がある為、履いていたローファーを脱いでスリッパに履き替えておく。ローファーは後で玄関に置いておこう。


 ついでにこの部屋に置ける荷物は整理を全て済ませ、とりあえずこの部屋でやれる事は終わった。



「扉は一つしか無いし、隣の部屋がメインルームだよね。どんな部屋なんだろう? 結構ワクワクする!」


 鞄を持つと、期待を膨らませながら木目の立派な扉のドアノブに手をかける。


 ドアノブにしてはやけに豪華だなと思ってよくよく見ると、そこに大きな魔法石が埋め込まれているのに気が付いた。

 どうやら魔導具が埋め込まれた、かなり特殊な扉の様だ。


「ああ! これが説明にあった結界魔法発動装置ってやつか。えっと、魔力を流せば良いんだよね」


 早速魔法石に魔力を流してみる。すると魔法石が光を放ち、扉全体も僅かに光を放った。

 光が消えると扉は自動的に開いた。




 扉の先に見えた部屋は、四十畳位の広さだろうか。かなり広い。


 部屋に入ってぐるりと中を見渡してみる。


 先程の部屋と同じく、落ち着いたクリーム調の壁紙。


 近い方の横壁中央に、玄関らしき頑丈そうなドアがある。その反対側の壁には出窓があった。


 木目調の床にはペルシャ絨毯のような、見るからにお高そうな絨毯が敷かれている。


 無駄に装飾の豪華な木製の学習机に、立派な本棚。これまた豪華な大きめの天蓋ベッド。


 部屋の中央には本革のソファーセット。ガラス扉の食器棚キャビネットまで備わっていた。


 必要家具がゆったりと配置された広々ワンルームだ。



「へー! なんか、別荘って感じで良いじゃない! しかも無駄に豪華絢爛!」



 衣装室の向かい壁に、間が離れて扉が二つ。引き戸タイプだ。


 まず向かいの引き戸の一つを開けると、簡易椅子の備わった広い洗面台にクローゼット。奥は引き戸のトイレだった。


 洗面台を出て、もう一つの引き戸を開けてみる。

 これまた広い脱衣所に化粧台。洗濯機のような大きな洗浄魔導具まで備わっており、その先の扉を開けると案の定バスルームだった。


 一通り間取りを確認したので、鞄に入っていた残りの荷物を全て片付ける事にした。


 因みに、持ってきた鞄はマジックバッグと呼ばれる異空間収納が出来る魔導具仕様だ。この鞄の許容量は大体馬車一台分らしい。見た目に反して無尽蔵に物が入っていた。


 護身用として持たされた危険極まりない物騒な魔導具や武器は、そのまま封印しておくとして。

 必要な物だけを取り出して必要箇所に収めていった。


 危険な鞄は衣装室のクローゼットにしまっておく。代わりにローファーを持ってメインルームに戻り、玄関っぽい扉の前に置いた。



「ふいぃーー、やっと終わったーー!!」



 ようやく全ての荷物を整理し終えたので、ソファーにどっかりと座り込んだ。


 一気に脱力しながらも玄関扉の上部に備え付けられた壁掛け時計を確認すると、現在の時間は十時になろうとしていた。


「うーん。早く片付けが済んだから、まだ結構時間が余ってるな……。あ、そうだ! せっかくだし転写書に何か書いとこっかな?」


 ソファーから立ち上がって机の椅子に座る。

 引き出しにしまった真新しい転写書を取り出すと、最初のページを開いた。


「えーと。何書こっかなー」


 筆箱から取り出した魔法ペンを、指でペン回ししながら考えをまとめる。

 数分たたずに内容が決まり、新しい転写書なので気持ち丁寧に文字を書き始めた。


『拝啓ユーリお兄様。寮に到着して荷物が早めに片付いたので、急遽筆を執りました。

 寮の自室は思っていたよりも広くて、使い勝手が良さそうです。これから四年間この部屋で暮らすのだから、小まめに掃除をして整理整頓も心掛けたいなと思います。

 そう言えば、今日受ける試験の成績で、クラスが分けられるって以前兄様が言っていたでしょう? だからわざと間違えて、目立たないように真ん中位のクラスにしようかとずっと考えてました。

 けど、クラスによって授業の内容や難易度も変わるのだから、やっぱり普通にテストを受けようかと思います。魔力測定は、物凄く誤魔化すと思うけれど。

 ……ちょっとだけドキドキしてきちゃった。ダンジョン調査は大変だと思いますが、決して無理はせず頑張って下さい。出来ればダンジョンの事をいつか教えてくれると嬉しいです。  レティシア』


「……よし書けた。……ちょっと色々書きすぎたかな?」



 転写書を引き出しに仕舞った、丁度その時。


 ピンポンパンポーンっとアナウンス音が聞こえた。



『新入生徒の皆さん、まもなく集合時間となります。荷物の整理が終わってない生徒は一時中断し、寮の玄関前に集合して下さい』

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