53 これも私レティシアなんです
涙を堪えて、駆け足で転移用魔法陣のある、扉の前に辿り着いた。
「レティシア様」
振り返ると、いつの間にかシシリーが立っていた。その手にはレティシアが学園に持って行く鞄があり、シシリーは恭しく鞄をレティシアに差し出した。
レティシアは涙の変わりに、爽やかな笑顔を浮かべ、鞄を受け取った。
「シシリー、行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃいませー。お帰りをお待ちしておりまーす」
いつもの、間の抜けた言い方だったが、美しい最敬礼をして見せた。
意を決してレティシアは扉を開けて、中へと踏み出した。
建物の中は以前、アトランス宮殿へ向かう際に訪れた時と、何ら変わりはなかった。
しんと静まり返った広々した空間。
その中央に位置する魔法陣に向かって歩き出した。
数段の階段を登ると、転移用魔法陣が見えた。
魔法陣の中央に立つと、一旦その場に鞄を置いた。
大きく深呼吸をする。
どんな姿に変装するのかは、ずっと前から決めていた。
レティシアはポケットからチョーカーを取り出して、首に飾り付けた。チョーカーの中央に嵌め込まれた変装石に触れると、目を閉じてゆっくりと魔力を流し込んだ。
レティシアの透明な魔力が変装石に満ちると、自身の身体が白く輝きだした。
やがて全身が見えない位眩い光に包まれ、その原型が徐々に変化をし始める。
光に包まれながら、レティシアは自分の願望は一体何なのか。考えようとしたが、直ぐやめた。
それは多分、もう既に分かっている。
(私が今一番望んでいる事は……)
波打つ長いレティシアの美しい髪がだんだん短くなり、ゴールデンポニーテールの髪が、肩甲骨下辺りまで短くなる。
髪質がストレートに変化し、顔にかかるサイドの髪型が現れ、髪色が黒に近い茶色に変わっていく。
顔の輪郭が少し変わり、目元や鼻、唇なども変化していく。
象牙の様な肌が、少し日に焼けたような、やや小麦色に近い健康的そうな肌色に変わった。
光が完全に消えると、そこには、レティシアとは似ても似つかない、一人の少女が目を閉じて立っていた。
少女はゆっくりと瞼を開いた。
その双眼はエメラルドとアメジストの美しいオッドアイではなく、髪色に近い黒茶色の瞳が現れた。
レティシアの姿では決して見せることはない、強気な眼差しで、『ニヤァ』っとやや下品にも見える笑い顔を浮かべた。
「じゃあーーん!! 何処にでも居そうな普通の少女、その名もソレイユ! ここに爆誕!!」
恥ずかしい決めポーズを決めてしまったレティシア、改めソレイユは、少し顔を赤らめながら、天井に向かって偉そうに人差し指を突き立てた。
「コホンっ、ヘイ神様!! どういう理由で前世の記憶を持たせたのか知らないけど、この世界が乙女ゲームであろうと、それがなんぼのモンじゃい! 私は私のままに突き進むのみ!!」
今まで、ずっと考えてた事。
『変わりたい』と願ったのは前世の自分。なら前世の自分が変わればいい。そして今世の私が後悔しなければ、それでいい。
この姿は、前世の十五歳だった頃の自分をイメージして変装した。詳細には思い出せないので、二割り増し程、いやかなり盛った可愛い姿だとは思うが。
身長はレティシアと変わらない位。因みに胸は、前世並みにスレンダーにした。
この日本人を連想させる姿は、万が一、異世界召喚して来るかもしれないヒロインを油断させる為。
他にレティシアとバレない対策であり、モブの様な存在感で居られる様になど、色んな思惑が入り混じった末の姿だった。
で、この淑女とは程遠い、内面の人格そのままの口調と、内面そのままの性格。
これでレティシアとバレる筈がない。万が一正体がバレることがあれば、相手を闇に葬るか、それこそ夜逃げ冒険者になるしかない。
レティシアの威厳が損なうことは、あってはならない。これ絶対。
「さて、ではぼちぼち行きますか!」
ポケットにもう一度手を突っ込んで、今度はレオナルドから渡された転移石を取り出すと、迷いも無く転移用魔法陣の床に嵌め込んだ。
「ぜったい、破滅せずに普通に卒業してやるんだから!!」
転移用魔法陣が輝き出すと、ソレイユの姿は光に包まれて、光と共に消え失せた。
これにて幼少期編完結です。
次回から新章『学園編』ようやく本編、なのですが。
幼少期編で一旦完結とさせて頂きます。
最後まで幼少期編をお読み頂き、本当にありがとうございました!(最敬礼45度作者は60度!!)




