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レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか  作者: 宮崎世絆
幼少期編

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46/61

46 会いたかったんです

 美しい男神が降臨したかと思いきや、なんとユリウスだった。


 声変わりして、ボーイソプラノからイケボとなった心地よい声が、会えてなかった月日の長さを感じさせた。


「ユリウス、兄様……」


(この数年で、とうとう神になられたのか……兄神様……)


 あにかぐ様と読んではいけない。……絶対に。


「にーに……?」


 見知らぬ人物に少し警戒していた様だったが、レティシアの言葉で相手が自分の兄だと気付いたルドルフは、首を傾げてユリウスに訪ねた。


「そうだよ。ルディ、大きくなったね。僕の事覚えてないと思うけど、ルディのお兄ちゃんだよ」

「にーに!」


 殆ど記憶に無いであろうユリウスに対して、ルドルフは臆した様子もなく、小走りでユリウスに近寄った。


「おかえりなさい! にーにのこと、ねーねから、いっぱいきいてた! ボクね、すごくあいたかった!」

「それは嬉しいな。そうだルディ、レティは僕のこと、なんて言ってたかな?」

「えっとね、カッコよくて、すごくやさしいって! あとね、あたまよくて、えがおがすてきで、なんでもできるって、すごいにーにだって! うーんと、まだあるよ?」


(ちょちょっとルルーもうやめて!? お姉ちゃんのLIFEもうゼロよ!?)


「ル、ルルー! 折角兄様に会えたんだから、一緒に遊んでもらいましょう!」

「もールルーちがう、ルディー!」

「ルルールルる、でぃー、ほらボール、今から浮かせるよー! 念動力(サイコキネシス)


 丁度足元に転がっていたボールが、フワリとルドルフの頭の高さまで浮かび上がった。


「すごーい! ボールうかんでるー!」

「ほーら、ボール捕まえる事が、出来るかなー?」

「わー! ボールまてー!!」


 ユリウスから、ルドルフを引き剥がす事に成功したレティシアは、安堵の息を吐いた。が、横にいたユリウスが、レティシアの腰に手を回して引き寄せ、耳にそっと声をかけてきた。


「嬉しいな。あんな風に、思っていてくれて」


(うひぃ!! 耳元でイケボが、イケボがーー!!)


「にににに兄様、改めて、おかえりなさい。その、学園生活大変みたいだけど、大丈夫?」


 さりげなく身を引くと、すんなり腰から手が離れた。


「うん。ちょっと、どうしてもクリアしなくてはいけない課題があってね。はっきり言って今のままでは時間が足りないんだ。だから去年の年末年始も、レティに会えなくて寂しかった」

「課題……。今回帰省して、大丈夫だったの? ……もしかして私が帰ってこいって書いたから……?」

「違うよ。僕が、如何してもレティに会いたかったから。でも、やっぱり忙しくてね。今日一日しか居られないんだ。夕方前には戻らないと」

「ええっ!? そ、そうなんだ……。今日だけ。それも夕方まで、なんだ……」


 数日は一緒に過ごせると思っていたので、あからさまにガッカリした。

 そんなレティシアを慰めるかのように、レティシアの長い髪を一房手に取ると自分の唇によせた。


「……それにしても。会えない期間に、更に美しくなったね。僕にはもう女神にしか見えないよ? レティ」

「あ、ありがとう兄様……。兄様も凄くカッコよくなったね。背も凄く高くなって、声もイケボ……大人の男性の声って感じで。……何だか兄様凄く成長したなーって感じ!」


 ワザと最後はおどけた調子で応えた。この壮絶に甘い空気感を、どうにかしたかったからだ。


「レティも凄く成長してると思うよ? さっきのボールを浮かせて、今もルディを誘導してるあの魔法も凄いしね」

「そ、そうかな? あ、そうだ! 私ね、最近はお母様に鍛錬してもらってるんだ! 剣技も上達したんだよ!!」

「シシリーと特訓しているのは転写書に書いてあったけど、義母様とまで? ……まあ、レティの事だから、そんな気はしていたよ。それで、どの位上達したか義母様は何か言ってる?」

「えっと、お母様が言うには、剣技だけで判断するなら、中堅冒険者位の実力はあるだろうって」

「そうなんだ。……じゃあ、一度僕と模擬戦してみる? 学園で結構、剣の鍛錬を積んだから。僕もそれ位には、実力は付いていると思うよ」

「え? 魔術学園なのに、剣術の実技もあるの?」

「うん。意外だと思うだろうけど、魔術以外にも結構力を入れているんだ。剣術の講義や訓練に、S級の冒険者が来たりするしね。そういえば以前、義母様が特別講師に来たこともあったよ?」

「そうなの!?」


(聞いてないんだけどお母様!?)


「そ、それって変装した兄様と、お母様が会ったって事だよね!? お母様は、兄様に気付いたの?」

「どうだろう? 気付いた感じはしなかったけど。義母様の周りは、常に生徒が群がっていたから。多分、分からなかったと思うよ」

「生徒まで虜にするなんて、何て人たらしな……。流石、お母様」

「で、どうする? 模擬戦」

「あ、うん! 兄様と戦ってみたい!! 自分の実力が、どの位通用するか知りたいし!」

「僕も、レティの実力が知りたかったから、良かった。じゃあ、昼食後に模擬戦しようか」

「分かった! あ、そろそろ昼食の時間だね。ルルー! お昼ご飯行こっかー!」

「ハアハア、ルルー、違うっ、ル、ルディ! だよ!」


 ボールを追いかけ過ぎて疲れている様だったので、さりげなくボールを操作して、ルドルフが捕まえやすくした。

 やっとボールを捕獲出来てご満悦なルドルフと、そんなルドルフの功績を讃える様に、優しく頭を撫ぜるユリウスと共に庭を歩き出した。


「そうだレティ。折角だから、勝った方にご褒美を付けるのは、どうかな?」

「ご褒美?」

「例えば、負けた方に、一つ、願い事を聞いてもらうとか」

「お願い事……? ユリウス兄様に」


(兄様に願い事……。兄様、何でも叶えてくれるから、変なこと言うと後が怖い気がする)


「うーん。私は、特にお願い事は無いのだけど。兄様は、私に願い事があるの?」

「あるよ。何としても願いたい事が、ね」


 言葉に、強い意思が含まれている気がしたのでユリウスを見上げると。

 レティシアを見つめていたのか、直ぐに綺麗なアメジストの瞳と目が合った。


「レティシアにしか、叶えられない願いがあるんだ。僕が勝ったら、そのご褒美をくれないかな?」

「う、うん。そこまで言うなら、別に良いよ。でも、私が勝ったら何でもお願い事叶えてね! 凄いの、考えておくから!!」

「もちろん」

「ボク、ねーねのつくった、おかしたべたい!」

「任せて!! ねーね、とびっきり美味しいの、作ってあげる!!」

「レティの手作りお菓子!? ルディ、レティに作ってもらった事、あるの?」

「あるー! プリン、おいしかったー!」

「……レティ。僕も食べたい」

「それがお願い事?」

「違うけど、食べたい。僕は食べた事が無いのに、ルディだけ狡い。羨ましい」


 本気で羨ましそうなユリウスの子供じみた物言いに、レティシアは笑いを抑えられなかった。


「ふふっ、分かった。兄様にも作ってあげる。時間的に簡単なものになってしまうけど、昼食のデザートに何か作るね」

「無理言ってごめん。でもありがとう。レティの手作りだなんて、凄く嬉しいな。時間停止機能付き魔法鞄(マジックバッグ)に入れて、永久保存したい位だよ」

「……そんな魔導具(国宝)に保存せずとも、いつかまた作ってあげるから……」


 楽しく会話しながら歩いていたら、気が付けばダイニングに到着していた。


 レオナルドとルシータはまだ来てなかったので、二人にもサプライズでデザートを食べてもらおうと考え、給仕にデザートを作りたい旨と、少し多めに材料を伝えて厨房に用意するよう指示を出した。


 コートをシシリーに預けると、時間も無いのでこのまま厨房へ足を運んだ。


 厨房は昼食の準備で慌しく料理人が動いていたが、レティシアが姿を現した瞬間、皆が一斉に最敬礼をした。


「デュメーヌ料理長、お邪魔するわ。皆は、気にせずに準備を進めてね」

「レティシア様。お待ちしておりました」


 レティシアを出迎えたのは、鋭い眼光で体格の良いデュメーヌ料理長。

 以前勤めていた料理長の息子さんだ。


 ここの厨房で若い頃から修行を積んでいたが、最近になって漸く前料理長に認められ、新しい料理長に就任した。


 レティシアが以前、ルドルフの為にプリンを作ろうとした時、公爵のご令嬢が料理をする事に難色を示したデュメーヌだったが、今ではレティシアが料理をする事に口を挟む事は無い。それどころか、レティシアの腕前に感服している様だった。


 前世でデザート作りにハマっていたレティシアは、手際良くプリンを作り上げ、その後もあらゆるお菓子を難なく作り上げてきた、今までの実績の賜物だ。


「こら、お前達! 手が止まっているぞ! 見惚れてないで、作業に集中!!」


 料理人達は、場違いの美しいレティシアに見惚れていたが、料理長の声で我に返った様に慌ただしく作業に戻った。


「忙しいのに、ごめんなさいね」

「いえ、とんでもない。レティシア様ならいつでも大歓迎です。お聞きした材料は、既にご用意しております。今回は、どの様なお菓子をお作りに?」

「ユリウスお兄様が、食後に食べたいらしいから、今からでも簡単に作れるフルーツグラタンを作ろうかと思って。カスタードクリームは私が作るから、フルーツを切るのを手伝ってくれる?」

「はい。かしこまりました」


 レティシアは早速手を洗い、鍋をコンロに置く。そこに牛乳、グラニュー糖の半分を入れ、沸騰直前まで温める。


 ボウルに卵黄、残りのグラニュー糖を入れて白くなるまでよく混ぜ、薄力粉、コーンスターチも加える。そのボウルに先程温めた牛乳を入れ、よく混ぜたらもう一度鍋に戻して、とろみがつくまで火を入れる。


 そしてバットに移して粗熱をとるのだが、そこは時短の為に魔法で冷ました。


 別のボウルで、よく混ぜてホイップした卵黄と生クリームを、冷ましたカスタードクリームに少しずつ混ぜ合わせて、生地の完成だ。


「レティシア様。フルーツを切り終えました」

「ありがとう。後、私達が食べ終わるタイミングを見計らって、焼いておいてもらえる? 今から生地と混ぜると、フルーツの水分が出てしまうから。このまま置いておくわ」

「はい。後はお任せ下さい。先程、レオナルド様とルシータ様がダイニングに到着された様です。どうぞお戻り下さい」

「ええ、ありがとう。それでは宜しく頼みますね」



 レティシアが厨房から戻ると、家族は楽しそうに談笑していた。


「レティ、おかえり。僕の為にごめんね」

「ううん。仕上げは料理長に頼んだし、大丈夫」

「レティ! 何か作っていたのかい?」

「うん。食後のデザート。後でお母様達も食べてくれる?」

「レティの手作りか。それは楽しみだ」

「たのしみー!」

「ふふっ、久しぶりの家族全員での食事。凄く嬉しい!」



 笑顔溢れる楽しい昼食を、レティシアは大いに楽しんだ。

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