44 限界突破なんです
腕輪が砕け散り、封印の効力がなくなった。
封じられていた自身の魔力を無理矢理引き出した反動なのか。
レティシアがゆらりと立ち上がったと同時に、ダムが決壊した洪水の様に、身体から膨大な魔力が一気に溢れ出した。
鍛錬場が一面、魔力の光で眩く輝く。
(っ?! ……ま、まずい、このままじゃ魔力が暴走する……!!)
溢れて出す底無しの魔力をどうにかして抑えようと、体内に魔力を戻すイメージで両手で両腕を抱き締め、強く歯を食い縛り俯いた。
震える身体を押さえ付ける様に、力の限り腕を握り締め、暴走しようと暴れる魔力を懸命に抑えようとするが、一度溢れた魔力は一向に収まらない。
上手く魔力をコントロール出来ない事態に、本気で泣きそうになった。
もし、このまま暴走すれば。鍛錬場どころか、アームストロング屋敷が吹っ飛ぶ。
多分、領土内にも多大な影響が及ぶだろう。
ならば被害の出ない上空に魔力を撃ち放とうかと思ったが、それだとのちに面倒になる事は目に見えている。
(だ、駄目、抑えきれない……! 考えろレティシア! どうすれば暴走しないで魔力をコントロール出来るか、落ち着いてよく考えろ!!)
このまま抑え込んでいるだけでは暴走は避けられない。
なら、この収まらない魔力を、いっそこの場に止まらせる事が出来れば、と咄嗟に考えた。
(そ、そうだ! 戻すのではなく、纏うイメージで身体に定着させれば……!!)
「「レティシア!!」」
レオナルドとルシータの緊迫した声が、遠くから聞こえた。レティシアの魔力に気付いた二人が、駆けつけて来てくれたようだ。
これ以上心配させる訳にはいかない。
レティシアは気合いを入れ直し、焦らずゆっくりと、自分の身体に魔力を纏わせていく。
身体の隅々まで。髪の毛に至るまで。
全身に自身の魔力を纏わせていった。
暫くして、漸く全ての魔力を纏わせると、どうにか魔力を安定させる事に成功した。
自身を抱き締めていた両手をゆっくり解きながら、張り詰めた糸を切る様に、深く長い溜息をついた。
(あーーーー……マジで、びびった)
「レティシア……」
すぐ側で戸惑う様なレオナルドの声が聞こえた。
閉じていた眼を開いて、声のする方へ顔を向けて安心させる様に微笑んだ。
「心配させて、ごめんなさい。もう、大丈夫だから」
レティシアを呆然と見つめたレオナルドとルシータは、レティシアの顔を見て、更に驚いた様に目を見開いた。
「? どうしたの? 二人揃って、そんなに驚いた顔をして」
「……レティシア……。身体は……何ともない、のだな?」
レオナルドは唖然としながら、っといった感じで尋ねてくる。何だか様子がおかしい。
「?? う、うん。何ともないけど……?」
「……レティ……。今の、自分の姿に……気付いて、いないのか?」
「えっ?」
ルシータの呟く様な声の、その言葉の意味が分からず、首を傾げた。
するとその時。
髪留めが外れていたのか、背後からの冷たい風にレティシアの髪が靡いて、美しく光輝く自分の直毛の長い髪が、サラリと風に乗って見えた。
「……は?」
お尻まで伸びる自分の髪を勢いよく掴むと、マジマジと凝視した。
髪の毛は、一本一本綺麗に発光していた。
なるほど。道理で夜なのに、やけに明るいはずだ。
(って、なんじゃこりゃあああ嗚呼ぁぁぁーー!!)
「レティ、両瞳も色が変わっている。髪と、同じだ」
(えええええぇぇぇーー?! 目も!?)
レティシアは自分の姿を想像した。
(まるでスーパー○イヤ人?!)
いや、発光した直毛に変化だけで髪は逆立ってはいない。この長すぎるロングヘアが逆立ってたら、もう目も当てられない。
(……大丈夫だ。多分今の私は、ただ神々しいだけだ)
レティシアは落ち着きを取り戻した。
「えっと、……多分、暴走しそうになった全魔力を、全身に纏わせてたから、だと、思う。時間が経てば元に戻る、と思う、……多分」
それを聞いたレオナルドとルシータは、同時に大きな溜息をはいた。
「……兵を向かわせず、我々が来て良かったな。このような女神のレティシアを見られたら、大変な騒動になるところだった」
「レティ!! 膨大なレティシアの魔力を感じて来てみれば、女神が降臨していたと思ったぞ!? 少しはこちらの身にもなってくれ!!」
「はい……。お父様、お母様。面目次第も、ございません……」
ひたすら謝り続けていたら、何とか元の姿に戻った。
ドナドナの様に二人に連れられ、騒がしくレティシアを心配する、従者達の居る屋敷へと戻るのだった。




